領土や所有権などの概念が自己の発達に与える影響とは? プラダ 青山店にて「LIZZIE FITCH / RYAN TRECARTIN: IT WAIVES BACK」展が開催
NeoL / 2024年10月10日 20時0分
Ryan Trecartin
Stills from Waives Back (Whether Line), 2019-2024
4K 60fps color video with stereo audio
Courtesy the artist
2024年10月24日から2025年1月13日までプラダ 青山店にて、プラダ財団の支援のもと「Lizzie Fitch / Ryan Trecartin: It Waives Back」展が開催される。
ヘルツォーク&ド・ムーロン設計のプラダ 青山店6階を会場に、アメリカのコラボアーティスト、フィッチ/トレカーティン(Fitch / Trecartin)による本作のアジア初展示、そして2人の日本初個展を行う。
本作は新作の映画と彫刻で構成され、アーティスト2人がオハイオ州の田舎に自宅とスタジオを移した2016年に始まった、より大きな作品群の一部となる。作品のベース部分はプラダ財団から委託を受け制作され、映画1作品と幅広いアニメーション作品、そしてミラノのプラダ財団にある複数の建物にまたがるサウンドデザインで構成される大規模なマルチメディアインスタレーションとして、『Whether Line』というタイトルで2019年に発表された。映画の舞台となったのは、フィッチらがオハイオの敷地に建設した巨大な流れるプールや堀、大型のホビーバーン、そして高さ50フィートの森の見張り塔などからなる常設のセット。この作品は、領土や所有権といった対立する概念、そしてそうした概念が自己の発達に与える影響を中心的テーマとしている。
Ryan Trecartin
Stills from TITLE WAIVE, 2019-2024
4K 60fps color video with stereo audio
Courtesy the artist
東京の展覧会で展示する新作の制作にあたり、2人は『Whether Line』の制作時に撮影した何百時間にも及ぶ映像を見直した。この自らの作品に再び関わるという作業プロセスは、彼らが過去のプロジェクトでも取ってきた手法で、多くの真実が同時に共存するという、彼らの考える“version-hood(バージョン フッド)”のコンセプトをふくらませたもの。『Whether Line』では、登場人物やナラティブ要素、そして時間自体がロケーションをベースにしている。こうした核となるアイデアをさらに探求したのが『It Waives Back』であり、この作品では登場人物が、比喩的にも物理的にも、同時に複数の状態で現れる。展示作品は、コンセプト的にもナラティブ的にもデザイン的にもゲーム環境を活用して、ゲームのような社会の枠組みや制度が持つ何かを生み出す力やその限界を考察している。
Lizzie Fitch | Ryan Trecartin with Kenny Curran Mug Off, 2024
Courtesy the artists
『It Waives Back』では、大型のインスタレーション1作品、映画2作品、そして数々の独立した彫刻のシリーズを展示。フィッチとトレカーティンの代表的なインスタレーションモチーフである「彫刻的劇場」は、木造建築と暗い温室のような空間で構成されたハイブリッドな環境として表現されており、その結果生まれる建築的表現が、内部と外部、鑑賞者と参加者、余暇と仕事といった境界の対照的な概念を体現している。映画が映し出される2つのスクリーンは、同じ壁の両側に配置され、観客が観察し観察されるという多角的な視点をもたらす。
本展で上映する映画作品はそれぞれ、アーティストの持つ重要なアイデアを異なる形で捉えている。映画『TITLE WAIVE』では、時間が作品の中心的な要素。2017年から2024年の間に撮影された映像を使い、登場人物や背景、場面の継続した広がりを描いている。時間も、ナラティブを形成し編集に影響するという編集的な役割を担っている。このプロセスは、移り変わるナラ ティブがいかに時間枠を破綻させたり回復させたりするかを物語るとともに、アーティストが記憶と時間を“ひとつながりの生きた存在”として体験していることを強調している。もう1つの映画 『Waives Back (Whether Line)』では、シーンごとに実写とアニメーションのトランジションを組み合わせている。長年のコ ボレーターであるレット・ラルーが作成したこれらのシークエンスは、オハイオ州にあるアーティストの敷地と常設セットの様々な様子を使って、シーンをプロット内の点ではなく、地図の地形として位置づけている。
Ryan Trecartin
Stills from TITLE WAIVE, 2019-2024 4K 60fps color video with stereo audio
Courtesy the artist
サウンドデザインはこの新作全体の主役とも呼べる存在。トレカーティンが作曲し2024年8月にコロラド州アスペンでライブレコーディングした音楽が、映画の随所に挿入されている。音楽とライブパフォーマンスは、トレカーティンとフィッチの芸術活動の基礎をなす要素であり、彼らはデジタル音楽制作ソフト ウェアを活用して膨大なサウンドトラックを作成、分解、再構築し、その多くをその彫刻的劇場や映画に取り入れている。
Lizzie Fitch | Ryan Trecartin with Kenny Curran PanderSun, 2024
Courtesy the artists
さらに本展では、新しい彫刻作品も展示。「フィギュラティブミザンセーヌ(比喩的舞台演出)」として構成されたこれらの彫刻は、少数の人型彫刻を集めたグループからなり、SF的な社会イメージを彷彿させる。テーマパークのキャラクターやマスコットとして考えられたこれらの彫刻が、展示されている他作品と観客を視覚的にも心理的にもつなげる。オハイオ州地域でよく見られる建設技術を活用して建造した2点の大型彫刻は、墓石や記念碑、公共のランドマーク的建築物やヤードサインから着想を得たもの。これらの作品は、こうした都市を構成する要素が秘めるナラティブの力を探求するとともに、時にダークでウィットに富んだ、また陳腐なコメントも含んでいる。彫刻はコンセプト的に本展で上映する映画2作品の“字幕”の役割を果たし、映像の中の隠された、また失われた意味を明らかにする。
「LIZZIE FITCH / RYAN TRECARTIN: IT WAIVES BACK」
会期:2024年10月24日(木)~2025年1月13日(月) 場所:プラダ 青山店 6F
東京都港区南青山 5-2-6
入場料無料
hashtag: #ITWAIVESBACK #PRADA
お問い合せ:
プラダ クライアントサービス
〒107-6226
東京都港区赤坂9-7-1 東京ミッドタウン26階 Tel: 0120.45.1913
略歴
リジー・フィッチ(1981年インディアナ州ブルーミントン生まれ)と、ライアン・トレカーティン(1981年テキサス州ウェブスター生まれ)は、オハイオ州アセンズを生活・活動の拠点としている。2000年にロードアイランド・スクール・オブ・ デザインで出会って以来、共同で活動。共同制作した作品は、アメリカ・ニュー ヨーク/ホイットニー美術館(2006年)、アメリカ・ロングアイランドシティ/MoMA PS1(2011年)、フランス/パリ市立近代美術館(2011~12年)、イタリア/ヴェネ チア・ビエンナーレ(2013年)、ドイツ・ベルリン/クンストヴェルケ現代美術センター(2014~15年)、ノルウェー・オスロ/アストラップ・ファーンリー美術館 (2018年)、イタリア・ミラノ/プラダ財団(2019年)など、世界各地の一流施設で展示されている。
リジー・フィッチとライアン・トレカーティンは、ノンリニア映像と没入型インスタレーションを融合するコラボレーション活動で高い評価を得ている。リゾームのようなナラティブと内部崩壊する作劇論がその映像作品の特徴。主人公たちは流動的なジェンダーロールと、テレビのリアリティ番組やSNSで描かれる アイデンティティのパターンの和やかな衝突における断片的な主観性のあり方を体現している。
関連記事のまとめはこちら
https://www.neol.jp/art-2/
外部リンク
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