現代の高度資本主義社会におけるアートと物質的価値の関係をユーモアを交えて再定義。MSCHFによる新作個展「Material Values」
NeoL / 2025年1月30日 17時0分
MSCHF
MATERIAL VALUE SCULPTURES FIGURE 2: STACKED PEOPLE
2025
Indium, Aluminum, Steel, Glass, Plastic, Electronics H68 x W28.6 x D28.6 cm
©MSCHF
Courtesy of NANZUKA
NANZUKAは、ニューヨーク・ブルックリンを拠点とするアート・コレクティブ、MSCHF(ミスチーフ)による新作個展「Material Values(マテリアル・バリュー)」を開催。
2024年1月に本展のティーザーとして3110NZ by LDH kitchenで開催された国内初の個展「No shoes. No phone. No service.」に続く二度目の展覧会となる本展は、ペインティング、インスタレーション、オンラインシステムと接続された装置と一体化した彫刻作品など、3つの異なるメディアを用いた新作を発表。
本展のタイトルにもなっている「MATERIAL VALUE SCULPTURES」は、現代の高度資本主義社会におけるアートと物質的価値の関係を、ユーモアを交えて再定義するシリーズ。
この作品では、奇妙なポーズを取った人間の彫刻が登場し、台座に内蔵されたデバイスを通じて原材料であるインジウムの市場価値をリアルタイムで追跡。インジウムは、半導体産業やLED素材として需要が高まり続けるレアメタルの一種であり、価格変動が激しい特徴を持っている。
インジウムの市場価値が作品の価格を上回った瞬間、装置がその融点まで温度を上げ、彫刻を溶かして自壊し始めるように仕組まれており、アートの本質的な価値と物質的価値の乖離をシニカルに指摘している。シミュラークルとしてのアートの価値のみならず、物質的価値のインフレーションもまた、私たちが生きる高度資本主義社会においてはシミュレーション原理に基づくシステムの一部にすぎないという事実をこの儚い自己破壊によって露呈させているかのよう。
MSCHF
Animorph Painting 4: Sorayamaphael 2025
Oil on canvas
H137 x W183 x D3.8 cm
©MSCHF Courtesy of NANZUKA
「Animorph Painting」シリーズは、アメリカの子供向けSF小説「Animorph」(アニモーフ)における、人間が動物に段階的に変身する描写に着想を得ている。レンブラントやラファエロといった美術史上の古典的肖像画を現在のアイコンへと「変身」させることで、美術史的変遷を応用しながら、美やアートの定義が流動的であることを仄めかす。
本展では、NANZUKA 所属作家である空山基の「セクシー・ロボット」をモチーフとしたバージョンを含む4点を発表。
また、「RAIN CUBICLE SCULPTURE」は、アメリカのオフィスで一般的なパーテーションで区切られたオフィス・キュービクルにパネル張りの下がり天井を組み合わせたインスタレーション作品。
電源が供給される限り、オフィスに雨が降り続けるこの不条理な仕掛けは、現代社会における労働の退屈さや無意味さを暗示し、資本主義が生み出す労働の矛盾を鑑賞者に直感的に体感させる。
本展「MATERIAL VALUES」における3つの異なる実践は、マルセル・デュシャンのレディメイド作品やアンディ・ウォーホルの《ブリロ・ボックス》や《キャンベルのスープ缶》などをめぐる、アートの定義や価値についての歴史的な議論を彷彿とさせるが、MSCHFはこれらの議論を、現代の経済構造やテクノロジーを背景に、悪戯めいた作品の形式に昇華させている。
また、本展に関連して、MSCHF のこれまでの取り組みを総括した書籍「Made by MSCHF」をはじめとした、彼らの魅力が凝縮されたグッズを2月1日より NANZUKA Online Store にて数量限定で販売予定。
Nanzuka Super Normal
素材: レザー、ラバー、ハイビズ刺繍
MSCHFの「Super Normal」シルエットの日本限定エディションで、300足限定ナンバリング付き。伝統的なロートップスニーカーを歪んだ液状化パネルで再構築。NANZUKAエディションでは、アッパーに特徴的なエッジシーム構造を採用し、反射素材を用いた「Nanzuka」の刺繍を側面に施している。
Japanese Yen Blur
MSCHFの「Blur」シリーズの新作は、2024年版の1000円紙幣デザインを使用しており、前作の5000円紙幣(2023年版)に続くもの。札束はぼやけたレンガのように描かれており、低解像度のゲームテクスチャを彷彿とさせ、写真に撮るとグラフィック的に平坦で非現実的に見える。シリコン製。
MSCHF
「Material Values(マテリアル・バリュー)」
2025年2月1日(土) - 3月22日(土)
NANZUKA UNDERGROUND
東京都渋谷区神宮前3-30-10
火曜日 - 土曜日 11:00-19:00
*日曜、月曜休業
info@nanzuka.com
nanzuka.com
MSCHF
Instagram: @mschf
Website: https://mschf.com/
MSCHFは、2019年より活動を開始し、人類の文化、政治、あるいは貨幣社会といったシステムの不合理性や滑稽さを暴き出し、それを利用して精密に計算された介入システムを、視覚表現を用いながら提示しているコンセプチュアル・アート・コレクティブ。
これまで、NYのPerrotin (2024年、2022年)、ソウルのDaelim Museum (2023年)での個展の他、ストッ クホルムのSpritmuseumにて開催された「Andy Warhol. Money on the Wall」(2024 年)や、LAのJ. Paul Getty Museumにおけるグループ展「Blood: Medieval/Modern」(2024年)にも参加するなど、アメリカ国内外で幅広く作品を発表している。
関連記事のまとめはこちら
https://www.neol.jp/art-2/
外部リンク
- マリリン・ミンターやヨハネス・イッテン、ルース・ルートなど。NEW AUCTIONによる第8回目アートオークション 「NEW 008」
- 現代の高度資本主義社会におけるアートと物質的価値の関係をユーモアを交えて再定義。MSCHFによる新作個展「Material Values」
- 写真家の川内倫子、濱田祐史、そして日本で初展示となるペインターのChristian Franzen、Liane Chuを迎えたグループ展「Each View」
- 相互に作用、適切に調和し、異なる種が共存し、新しい表現が生まれる。磯村暖、大山日歩、胡桃志歩、丹羽啓、本間賛、釣光穂、山岸紗綾 「GOLDILOCKS ZONE」
- 未来の描写から課題を浮かび上がらせる。牧田愛、井田大介、アンドレア・サモリー「来たる世界2075 テクノロジーと崇高」
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