映画『娚(おとこ)の一生』豊川悦司インタビュー
NeoL / 2015年2月17日 1時17分
映画『娚(おとこ)の一生』豊川悦司インタビュー
仕事にも不毛な恋愛にも疲れ果て、東京での暮らしを捨て田舎の祖母の家へと移り住んだアラサー女性のつぐみ。そこへふらりと現れたのが、亡くなったつぐみの祖母へ恋心を抱き続けてきた52 歳の独身の大学教授・海江田醇(かいえだじゅん)。そんなふたりの、風変わりで大人のおとぎばなしのような恋模様を描き、全4巻で累計160万部を突破した人気コミック『娚(おとこ)の一生』が待望の映画化。下駄姿でタバコをくゆらせ、関西弁でいけずな台詞を繰り出すがふとした時に優しく包み込んでくれる海江田醇という女性のツボを突いてくるキャラクターを男の色気たっぷりに完璧に演じた豊川悦司にインタビューを試みた。
——豊川さん演じる海江田醇がコミックスからそのまま抜け出てきたように完璧な姿で、初めて観たときは驚嘆と歓喜でいっぱいでした。
豊川「そう言っていただけるのはうれしいですね。原作コミックにはたくさんのファンがいらっしゃって、この役の話をもらった時も本当に僕が海江田を演じていいのかなっていう思いもありました。もちろん映画とコミックは別物ですが、ファンの方の思いは大切にしたかったので原作のイメージをなるべく損なわないよう、髪の毛や衣装などビジュアル的にも気をつけました。僕がコミックスを読んで最初に漠然と浮かんだ海江田像は坂本龍一さんや姜尚中さん。それで、やっぱり髪の毛は白髪混じりかな、とヒントをもらったり。白いYシャツ、黒いパンツひとつとっても、海江田っぽいものをと僕自身でも考えたりもしました」
——海江田という人は包容力もあるけど、ふと見せる少年っぽさにギャップを感じてドキッとする方も多いんじゃないかと思います。豊川さんご自身、海江田をどういう人物だと捉えていましたか?
豊川「男性のあらゆる要素を持っている人だと感じました。演じるときに心がけたのは、つぐみ(榮倉奈々)にとっての父親であり、夫であり、恋人であり、弟でいようということ。あらゆる世代の女性にとっての異性との関係性をすべてのシーンごとに織り込んでいければ、海江田の魅力に近づくことができるのではないかって。このシーンでは父親っぽく見えるように、このシーンでは旦那さんっぽく見えるように、そういう風に考えながら演じていました」
——同年代の男性から見て、海江田が恋に臆病になる気持ちに共感される部分がありましたか?
豊川「海江田の恋愛というのは、52歳という年齢の割には、ものすごく恋愛経験の薄そうな人の行動パターンが多い気がして。それは良い見方をすれば純粋だし、一方で経験不足とも言える。そのひたむきさが、つぐみには届いたのではないかと。一筋縄ではいかない、奥深い人ではありました」
——女性の立場で考えると、好きな男性のお孫さんと恋に落ちるというのは想像しづらく、海江田のつぐみに対する恋心は、男性ならでは、という風に見えて羨ましさも感じました。年齢を重ねられてみて、女性に対する考え方の変化を感じることがあれば教えてください。
豊川「女性という性の奥深さ、世の中のすべては女性から始まるという思いを、強く実感するようになりました。女性をよく太陽や海に例えたりするけど、本当にその通りで。僕が歳を取れば取るほど、女性という生き物が魅力的に見えてくる。若いときは対等なのかと思っていたけど、そんなことはなかった。圧倒的に女の人の方が上なんですよね」
——それは豊川さんが素敵な女性に会ってきたという証拠なのではないですか。
豊川「だとしたら、僕はラッキーでしたね」
−−本作を演じてみて、改めて“恋”とはどんなものだと思われました?
豊川「男性が女性を求める、女性が男性を求めるという行為は決められたことであり、個人レベルでどうのこうのできるものじゃないんですよね。それはDNAに刷り込まれていて、僕らはそういう風に作られている。だからこそ、悩んだり苦しんだりする時もあるけど、そこに向かわざるをえない。それを受け入れて、自分に素直になって表現していくってことなんじゃないかな」
−−海江田の関西弁というのは西先生にとっても譲れないこだわりだったそうですが、大阪出身の豊川さんのお話になるやわらかな関西弁から紡ぎ出されるセリフの数々に、思わずクラっとしてしまいました。
豊川「相田みつをさんのカレンダーレベルでの名言が飛び出していましたからね。宣伝部のスタッフと、『海江田のセリフで日めくりカレンダー作ったらいいんじゃない?』なんて冗談で言い合ってるんですけど、それくらいしびれるようなセリフが多くて。原作を読んだときに、これは活字だからいいけど実際に口にしたらどう聞こえるんだろうと思ったりもしたのですが、西炯子先生の本当の意図はわかりませんが、関西弁だと音やイントネーションも少しマイルドになるので、海江田の言葉がより伝わりやすいんじゃないかな」
——鑑賞していて印象に残るシーンの連続ですが、特に思い出深い撮影時のエピソードがあれば教えてください。
豊川「台風のシーンを撮影をしたときに、本当の台風が来てしまったことですね。大きなファン回したり、放水車を出したり、一生懸命に人工の嵐を作り出していたけど、その現場の外でも実際に嵐が起きていて。最後は日の出時間と戦いながら、凍えつつの撮影になりました。この作品は一ヶ月まるまる合宿で撮影したので、スタッフ、キャストが毎日同じ場所に帰って、同じ場所に行き、同じごはんを食べる。そういう時間を繰り返していくと、本当にクルーとしてまとまっていく感じが日に日に伝わってきて。僕はそういうスタイルが好きだし、楽しい現場でした」
−−ポスターにも使用されている“足キス”のシーンは、官能的でありながらどこか幻想的で、大変美しかったです。
豊川「人間、自分の生理にない行為をするときは想像でやってみるしかないので、やはり緊張しましたね。そういう愛の形はあるんでしょうけど、実際どうすれば良いんだろうって、まさに手探り状態で。何回もテイクを重ねて、いろんな体勢だったり、手法だったりを撮った中で、チョイスされたのがあのメインビジュアルのカットです。偶然窓から西日が射してきて、綺麗なシーンになったと思います」
−−榮倉さんとの信頼関係を築かれていたからこそ、お二人の空気感が出来上がっていたような印象を受けました。
豊川「初共演だったのですが、撮影が進行するのと同時に僕と奈々ちゃんの距離も近づいていったので、それが映画の中に現れているのかもしれません。奈々ちゃんは一緒に仕事をしていて、リラックスできる女優さん。そういう雰囲気の中から、様々なイメージが湧いてくるようなタイプの方で、つぐみという役にこれ以上なく合っていたと思います。本人は無意識なんでしょうけど、監督とタメ口で話していた時は、さすがだなーって(笑)」
−−まさに、リラックスされていたのかもしれませんね。劇中の海江田が放つ色気は、イコール豊川さんご自身の持つ魅力が担ってらっしゃる部分が大きいと思いました。
豊川「……難しい質問ですね。ひとつ言えるのは、男の色気というのは年齢や経験に依るものではないということでしょうか。すごく色っぽい少年もいれば、おじいさんもいる。自分ではわかりませんが、コミックの海江田の持つ色気が、少しでも表現できているんだとすれば、光栄ですね」
−−最近の出演作では『ジャッジ!』での適当な広告マン役も楽しかったし、『春を背負って』で無骨でたくましい山男姿も印象的でした。作品選びをするときのポイントなどはあるんでしょうか。
豊川「良く聞かれるのですが、これという基準があるという訳ではなく。ただ、キャラクターの種類として、前とは距離があるような役をやりたがる傾向にあるとは思います。毎回、全く違う人間を演じてみたいっていう願望が強いのかな。僕はどちらかというと、髪の毛伸ばしたり切ったり、ビジュアルもいじるほうなのでそういう作業も楽しいですし。うまく出来ているかどうかはわからないですけどね。最近は、若い時よりはマイペースに芝居をさせてもらってますけど、中身的にはあまり変わってないですね。これからも自分がやってみたいという役に出会えて、演じ続けていければいいかなって。情熱と言えるほどのものなのかはわからないけど、それこそがこの仕事の醍醐味なんだと思います」
撮影 中野修也/ photo Shuya Nakano
文 加藤 蛍/text Hotaru Kato
『娚(おとこ)の一生』
全国ロードショー中
公式サイト:http://otokonoissyou-movie.jp/
配給:ショウゲート
監督:廣木隆一
原作:西炯子『娚の一生』(小学館 フラワーコミックスα刊)
出演:榮倉奈々 豊川悦司 / 向井理
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