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セイント・ヴィンセント『セイント・ヴィンセント』インタビュー

NeoL / 2015年3月7日 18時55分

セイント・ヴィンセント『セイント・ヴィンセント』インタビュー

セイント・ヴィンセント『セイント・ヴィンセント』インタビュー

先日開催されたホステス・クラブ・ウィークエンダーに出演し、2日目ラストの大トリを務めたセイント・ヴィンセント。折しも、その1週間前に発表されたグラミー賞では、昨年リリースされた最新作『セイント・ヴィンセント』が最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバムを獲得。同アルバムを引っ提げての来日は昨年のフジ・ロックに続き2度目になるが、今回も高まり続ける評価にふさわしい見事なライヴ・パフォーマンスを見せてくれた。“葬式でかけても踊りたくなるようなレコード”というアルバムのコンセプト通り、ファンクやジャズのグルーヴが脈打つ躍動的なバンド・サウンドと、ムーグ・シンセを多用したドープなエレクトロニック・ビート。ステージではさらに、十八番のテクニカルなディストーション・ギターと、マリオネットのように身体を動かすエキセントリックなダンスがひときわ大きな喝采を集めていた。そんな彼女に、あらためてアルバムの背景や近年の活動、そして自身の音楽哲学について話を聞いた。


 

―先日のグラミー賞での最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバムの受賞、おめでとうございます。

セイント・ヴィンセント「ありがとう」

―ご自身としては、受賞の要因はどのあたりあると?

セイント・ヴィンセント「あははは、そうだなあ……まあ、この8年間で、わたし自身、これまで4枚のソロ・アルバムと1枚のコラボレーション作品を作って、ツアーしてきた中で、少しずつ成長できたかなって実感はしてるんだよね。そこに運とか巡り合わせとか、自分自身の努力が積み重なって、結果的にいろんな人達がわたしの音楽や活動に注目してくれるようになったおかげじゃないかな」

―想像するに、作品の音楽性や芸術性に対する評価と共に、それが実際に多くの人に聴かれて、親しまれたってことの結果でもあると思うんですね。そうした――古典的なアレかもしれないですけど、芸術性と大衆性のバランスや兼ね合いについては、音楽を作る上で意識するところはありますか?

セイント・ヴィンセント「そうだな。わたし自身は、できるだけ多くの人に自分の音楽を聴いてもらいたいっていう気持ちではあるし、自分の曲を好きって言ってもらえれば、素直に嬉しい。ただ、まったく逆のことを言うようだけど、別に人から気に入られなくたって構わないとも思ってるの(笑)。どんなに他人からいいと言われようが、自分が心の底から好きで誇りに思えるような作品でないと、気になって夜も眠れないことがわかってるから。だから、大勢の人に聴いてもらうために自分の音楽を曲げたりはしないけど、もう何年も経験を積んできたことで、自分のやりたい音楽だとかスタイルに磨きをかけることができたと思ってるし、その結果、徐々にいろんな人達に理解されるようになってきたってことなんじゃないかな」


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―今回のアルバムについて、自分の中で一番誇りに感じているところは?

セイント・ヴィンセント「そうだなあ……やっぱり、楽曲の力ってことに尽きるのかな。何だろう……曲によっては、自分の感情がそのまんまの形で表現されてるのもあるし。そこはすごく誇りに思ってる」

―先日のグラミー授賞式でベックが年間最優秀アルバムを受賞した際に、プレゼンターを務めたプリンスが話していましたよね。「アルバムって覚えてる? アルバムって大事だよね」って。ダウンロードやストリーミングが普及し、楽曲単位で音楽が聴かれるような状況の今、アルバムというフォーマットやパッケージを通じて音楽を届けることについて、何か意識されたり大事にされたりしていることはありますか?

セイント・ヴィンセント「そうね、変化してることは実感しているけど、きっといつの時代も常に変化し続けてきたんじゃないかな。それこそレコードのシングル盤に始まり、A面20分B面20分のLP盤の登場によって、40分間のアルバムっていう形が音楽作品の定型になったわけだけど、それだって今では廃れてしまってるわけだし。その前にCDが登場したことで、作品の長さが40分から75分に延長されて、多くのアーティストが75分の枠を目一杯埋めてきたよね。そうやってテクノロジーの進化と共に、アートの形態も変化し続けてるものだと思うんだ」

―アルバムというフォーマットやパッケージに対する思い入れはありますか?

セイント・ヴィンセント「そうね、個人的にはアナログが好きで、家ではずっとレコードばかり聴いてる。落ち着いて集中できるというか、35分から45分間の長さが自分にとってはちょうどいいんだよね。ただ、何だろう……それが絶対って思ってるわけでもないし、アナログが一番って思ってるわけでもないの」

―そうして音楽の聴き方が変わることで、音楽自体も変わっていくものだと思いますか? たとえばネットでの短時間の聴取を意識して、曲の展開を圧縮したりサビの位置を変えたり、みたいな。

セイント・ヴィンセント「それぞれの音楽に役割があって、その役割に添って曲の形ができていくんじゃないかな……だから、サビを入れるなら、やっぱりその曲のストーリーに添った場面で入れ込んでいくべきだと思うし。たしかに音楽を作る上で、ある種のテンプレートみたいものがあって、それに添って曲を書く方法もあるってことも知っている。実際、そうしたルールを知っておくのも楽しいと思うのね。ルールを知ることで、ルールを壊していく楽しみが生まれるわけだから。わたし自身は、今って音楽を作る上ですごく面白い時代になってる気がしてて……だから音楽の未来に対しても、そんなに悲観的ではないのね」

―なるほど。一方で、今回のアルバムはライヴ・パフォーマンスも魅力ですよね。なかでも“Rattle Snake”や“Huey Newton”でのあなたの振り付けというかポージングが面白くて。あれを見て、以前にベックが「ぎくしゃくしてたほうが、よりファンキーに見える。身体を硬くして、できるだけぎこちなく踊る。それがファンキーに踊るコツなんだよ」と話していたのを思い出したのですが。

セイント・ヴィンセント「まあ、理由の一つには、普通に踊ってたら自然にああなっちゃっただけなんだけど(笑)、わざとギクシャクした動きを狙ってたわけじゃないのよ(笑)。あとアニー・ビー・パーソンっていう天才的なコレオグラファーに振り付けしてもらってるんだけど、彼女は前回のデヴィッド・バーンと共演したアルバム『Love This Giant』 のツアーの演出も担当してくれていて。彼女もわたしと同じでまったくの素人からプロになった人で、(ミハイル・ニコラエヴィチ・)バリシニコフみたいなダンサーとも共演してるのよ」

―今回のアルバムのコンセプトは“葬式でかけても踊りたくなるようなレコード”だったそうですが、そもそも“踊る”ってことにフォーカスを当てたきっかけは何だったんですか?

セイント・ヴィンセント「デヴィッド・バーンとツアーしてるときに、お客さんが立ち上がって踊るのを見て、すごくいいなって思ったんだよね……目の前でマジックが起こるのを目撃してるような、奇跡的瞬間に立ち会ってるみたいな気持ちになって。それで実際にお客さんを動かす、身体を動かすってことに興味が湧いたんだよね」


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―“踊る”と言えば、以前にインタヴューでイゴーリ・ストラヴィンスキーをオールタイム・フェイヴァリットのアーティストに挙げていましたけど、バレエやバレエ音楽にはずっと興味があったんですか?

セイント・ヴィンセント「そうね、ピナ・バウシュとか……ピナ・バウシュがストラヴィンスキーの『春の祭典』に振り付けをつけてて、その動きを自分のライヴにも取り入れたりするんだよね。ピナ・バウシュの振り付けには、美しいんだけど暴力的なところがあって、そこが魅力なの。あとマース・カニンガムとかも好きだし」

―ダンスというもの自体に興味があるんですね。

セイント・ヴィンセント「表現に繋がるものなら何でも、それこそジャンルや時代に関係なくね……すべてのアートはパフォーマンスに通じるわけだし。それこそ照明から舞台のセットに至るまですべてに影響を受けてる」

―将来的に、ダンス・カンパニーに音楽を提供したいって気持ちもありますか?

セイント・ヴィンセント「いつか挑戦してみたいことの一つね。というか、じつはデヴィット・バーンがキュレーションを担当しているダンス・カンパニーのために曲を作ってるとこなんだ」

―へぇ! それは楽しみです。ところで、以前に「Talkhouse」というサイトに、アーケイド・ファイアの『リフレクター』のレヴューを寄稿されていましたよね。話題になりましたが、最近や去年聴いた中でとくに印象に残ったレコードとかありましたか?

セイント・ヴィンセント「去年1年間で言うなら、ラン・ザ・ジュエルス(『Run The Jewels 2』)とか、ティム・ヘッカー(『Virgins』※2013年)……ジェニー・ルイス(『The Voyager』)もよかったし、あとJディラの『Donuts』(※2006年)も好きだったな」

―ちなみに、ビョークの新しいアルバム(『Vulnicura』)は聴きましたか?

セイント・ヴィンセント「まだなの。聴いた? どんな感じだった?」

―とても悲痛で、けど暴力的なところもあるアルバムですね。

セイント・ヴィンセント「そうなんだってね。パートナー(※マシュー・バーニー)との別離について歌ってるんだよね」

 ―ティム・ヘッカーじゃないですけど、アルカやハクサン・クロークといった気鋭のビート・メイカーが参加していて。

セイント・ヴィンセント「そうなんだ。絶対に聴こう」

 

―去年の作品ということで言えば、あなたもゲストでアルバム(『To Be Kind』)に参加したスワンズが最近来日したんですけど。

セイント・ヴィンセント「へー、そうなんだ! 観に行った?」

―いや、僕は観ることができなかったんですけど。で、その来日時のインタヴューでマイケル・ジラが、最近の音楽はほとんど聴かないけど、あなたの作品は聴いてみてよいと思った、と話していて。

セイント・ヴィンセント「うわ、嬉しいな!」

―スワンズとの共演はどんな体験でしたか?

セイント・ヴィンセント「なんか、倒錯しまくった超越瞑想みたいな体験って感じ(笑)」

―(笑)印象に残っているエピソードはありますか?

セイント・ヴィンセント「そうそう、マイケル・ジラって本当に何て言うか……紳士的というか……それでハイチの奴隷の暴動についての本をプレゼントしてくれた(笑)」

―そう言えば、先ほども挙げた“Huey Newton”って曲ですけど。ヒューイ・ニュートンとは公民権運動の指導者で、ブラック・パンサー党のメンバーでもあった人物ですよね。彼の名前を曲に冠した理由は?

セイント・ヴィンセント「飛行機で移動するときには時差ボケ対策に睡眠導入剤を使ってるんだけど、ヘルシンキにいるときに使ったら、なかなか寝つけない上に幻覚が始まっちゃって。夢の中でヒューイ・ニュートンが自分の部屋に現れて、彼のことを曲に書くって約束したの。ちなみに同じ夜にライオンも夢に出てきたけどね(笑)」


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撮影 吉場正和/photo  Masakazu Yoshiba

文 天井潤之介/text  Junnosuke Amai

 

セイント・ヴィンセント
NYブルックリン在住のセイント・ヴィンセントことアニー・クラークはポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスのツアー・メンバーとして活動を開始。現在までにソロ・アルバム4枚、デヴィッド・バーンとのコラボ作を1枚発表している。2011年に<4AD>からに発表した3作目『ストレンジ・マーシー』は全米19位を獲得し、世界中で年間ベスト・アルバム上位を獲得。2012年にはデヴィッド・バーンとのコラボ作『ラヴ・ディス・ジャイアント』は各メディアの年間ベスト獲得の他、第55回グラミー賞へノミネートされ話題をさらった。2014年、セルフ・タイトルの最新アルバムをリリース。ピッチフォークでは8.6点という高得点&ベスト・ニュー・ミュージックを獲得し、ガーディアン(5/5)、DIY(5/5)、ローリング・ストーン(4.5/5)、NME(8/10)他その他多数のメディアから高評価を得、大絶賛されている。2014年の最新アルバム『セイント・ヴィンセント』が第57グラミー賞最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバムにノミネート、更にはNME誌、英ガーディアン誌、米NPR視聴者投票、Gigwiseにて年間ベスト1位を獲得。

セイント・ヴィンセント オフィシャルサイト:http://ilovestvincent.com/

 


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St. Vincent


『St.Vincent


4月8日発売


https://itunes.apple.com/jp/album/st.-vincent-deluxe-edition/id962270351?at=11lwRX


http://www.amazon.co.jp/セイント・ヴィンセント-デラックス/dp/B00TG0BNYM/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1425404695&sr=1-1


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St. Vincent


『St.Vincent 』


発売中


https://itunes.apple.com/jp/album/st.-vincent/id783566060


http://www.amazon.co.jp/セイント・ヴィンセント/dp/B00HSP0OGU/ref=ntt_mus_ep_dpi_7

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http://www.neol.jp/culture/

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