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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#18 グルテンフリー

NeoL / 2015年6月16日 12時51分

藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#18 グルテンフリー

藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#18 グルテンフリー



新宿サザンテラスにある書店で目に止め、その日のうちに読み終えた本がある。著者はプロテニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチ。今年の全仏では惜しくも準優勝に甘んじ、念願の生涯グランドスラムは逃したものの、誰もが認める現役最強のプレイヤーだ。
その彼の著作のテーマは、帯にもあるように「何を、どう食べたらいいのか?」である。プロアスリートにとって、身体のコンディショニングは言わば仕事のひとつであり、一流ともなれば、私たち一般人とは違う切羽詰まった経験の繰り返しによって成された持論があるはずだ。
ジョコビッチの方法は、ずばりグルテンフリーである。ハリウッドの有名女優やトップモデルたちによって日本でもその名を知られたダイエット方法でもあるが、最強プレイヤーがなぜそこに至ったのかを知りたくて読み進めた。
アメリカなどでは、スーパーマーケットでグルテンフリーのコーナーがあるのはもはや普通であるし、レストランでもメニューにしっかりと表示がある。これはもはやグルテンフリーが一過性の流行ではないことを示している。
私もその存在は知っていたが、小麦アレルギーの人を対象にしたアンチアレルギー食の一つなのであろうと思っていた。もちろん、その面もあるのだが、対象は一般の人にも広がっている。
You are what you eat.(あなたは、あなたが食べているものでできている)という有名な諺が示すように、何を食べるかについて注意することは身体の健康を考える時の大切な出発点だ。
「旨ければいいではないか?好きなものを好きなだけ食べて死ねるのは、病気になったとしてもむしろ本望」という考え方の人は依然としてあるだろう。快楽としての食というのは、輝きを失わない。だが、その美食が体だけでなく、心にも影響を及ぼしているとしたら、どうだろう?なんとなくネガティブに考えたり、怒りっぽい日々の原因さえも、じつは食べ物によると科学的に証明されているとしたら?
話が少しだけ飛躍するが、多くの人がすでに知っているように、幸福とはネガティブではない時間のことだと思う。心にゆとりがあり、腹を立てたり必要以上に急ぐこともなく、今の状況を楽しみ微笑んでいる時間が多い状態をきっと幸福というのだろう。決して派手ではない。
だが、なかなかそう上手くはいかないことも多くの人は知っている。その原因の一つが実は食べ物にあるとしたら、ダイエット目的でなくても自分がいつも食べている物を検証してみたくはならないだろうか?
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つい検証という固い言葉を使ってしまったが、これは眉間にシワを寄せよ、ということではない。食べ物にこだわる人の中には、食料品店で眉間に皺を寄せて哲学的な佇まいになっている人を見かけるが、食べることは、楽しみであり、闘いにしてはいけない。排除ではなく、選択とポジティブに捉えて楽しくやることがスタートラインに向かう状態として好ましい。
では、グルテンとは何か?そして体にどういう影響を及ぼすのか。
グルテンとは、小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質成分のことで、糊状となりパンのもちもち感を生んでいる。ある意味、小麦製品の食感的な肝と言えるのだが、これが意外にも砂糖よりも血糖値を急に上げてしまう働きがある。さらに健康的だとされている全粒パンはスニッカーズバーよりも血糖値を上げてしまうというデータもある。この事実に至っては意外というよりも驚きだ。
血糖値が急上昇すると、それを調整するインシュリンが分泌される。詳しい説明は省くが、インシュリンの増減という不安定によって肥満や生活習慣病などは引き起こされる。血糖値の乱高下は、脳と心にも悪影響を及ぼし、気分が良くない、無気力といった状態を生む。できるなら血糖値は上げ下げさせずに、安定させておくのが良いとうことだ。
ジョコビッチの実家はピザ屋であり、彼はトマト、乳製品、小麦、これらで育ったのだ。
彼がグルテンフリーに切り替えるきっかけは、ある医師からのアドバイスによってだった。当時テニス界で二番手グループから上に行けずにもがいていた彼のゲームをたまたまテレビ観戦していた同郷セルビア人医師が、画面上でジョコビッチのプレーを観察して、ボールへの対応がわずかに遅れていることに気づいた。その原因はグルテンにあるとその医師は見抜き、ジョコビッチにコンタクトを取ったのが発端だった。
その医師の眼力もすごいが、医師の指示通りに二週間グルテン断ちに踏み切ったジョコビッチの思い切りの良さも凄い。見ず知らずの男が訪ねてきて、その指示に従えるだろうか?その辺りの事をも含めて才能というのなら、才能とはやはり冒険することに属している。
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グルテンフリーを実践した後のジョコビッチは完全に一皮剥け、世界ランキングの頂点へと一気に駆け上った。著書の中で、キレキレで疲れにくく反応速度が上がった身体の変化だけでなく、脳の霧がなくなったという表現で、メンタルがすっきりと明晰でポジティブになったことを驚きと共に語っている。その変化の素晴らしさに、二度と戻りたくないと以後グルテンを含む小麦、大麦、ライ麦と決別した。
グルテンフリー以前はいわば常に二日酔い状態と言わしめるほどの変化。
私は興味深々で、ジョコビッチが提唱する二週間プログラムにさっそく取り掛かってみた。プログラムといっても単純に小麦、大麦、ライ麦を抜くだけのことで、恐れていたほどの心的苦痛もなく、パン、パスタ、など無しで過ごすことができた。
それを期待していたわけではないが、最初の一週間で体重は2キロほど落ち、以降は心身ともにすっきりした感じが持続した。体力は落ちずに、むしろ持久力が高まったようだった。
そして二週間後に、小麦粉食品を食べてみた。ジョコビッチの本では、翌日はまるで二日酔いのように体が重く、頭の中に霧がかかっているかのようだった、とあるが、私の場合はそこまで劇的ではなかったにしても、やはり体の重さとだるさを感じた。
そもそもジョコビッチはグルテン不耐症という体質だったので、一般的な人と比べてグルテンフリーの効果は劇的だったのだろう。だが、そこまでの変化は正直感じられなかったが、私にも確かな手応えはあった。
それは肉中心の食事から、野菜中心へ、さらにはベジタリアン、ビーガン、フルータリアン、断食、などという段階的な変化を経験した時にも感じた、心身が透明化していき、生きる喜びや、各感覚器官が本来の性能を取り戻したかのように世界が瑞々しく感じられた時とも類似していた。
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食べものに制限をかけていると、禁欲的だとか思われがちだが、本質的には真逆である。食に貪欲だからこそ、素晴らしい食体験を追求しているのだろう。調理法や、皿の上でのコントラスト、貴重な食材、星の数、集う笑顔などといった美食のファクターのさらなる向う岸を見ているのだ。自分を活かす自分に合った食べものへの欲望、それは時には渇望とも呼べるだろう。日々を機嫌よく、大らかな気持ちで過ごしたいのだ。
その態度は、ヒーリング的に言えば、調和への意志である。自分というミクロコスモス的な存在内での調和。とりまく全体としての宇宙との調和。つまりは、ぎくしゃくして生きていたくはないのだ。幸福は滑らかなものだろう。
私とは、私が日々食べているものの瞬間ごとの結果である。
目の前の添加物たっぷりのスイーツが、数時間後の自分なのだ。ホルモン剤がたっぷり含まれた食肉や、農薬を飲みながら育った野菜が、明日の自分の一部なのだ。
健やかに育っていない食べものが、今日の不機嫌の原因で、寝つきと寝起きの悪さを演出しているとしたら、まずは出口よりも入り口を大切にすることが、理にかなっていると思う。
ちょっと熱量の高めな文章になっているかもしれないが、実際は食に対して、力むことなく、楽しくやっている。
繰り返しになるが、食べものを選ぶということを闘いにする必要はない。排除ではなくて、知性ある選択。知性とは寛大さとユーモアのことを言う。
そういった知性を使って、いろいろな食事法を試してほしい。肉が好きな人ならば、試しに牛だけを抜くとか、小麦好きの人ならば、麺類だけ抜いてみるとかでもいい。1日一度は発酵食を食べるとか、食後のデザートを抜いてみるとか、ちょっとした試しと、それがもたらす変化を耳を澄ますようにして観察してみてはどうだろう?
そういった注意向けから返ってくる体の声は、他人の声ではない。あなた自身の本当の声なのだ。そして一旦聞こえたら無視せずに、しばらく付き合ってみてはどうだろう?
あなたのパートナーは、まずはあなた自身である。パートナーと喧嘩をせずにうまくやっていくことで、食にとどまらない多くの気づきがあるだろう。
グルテンフリーというのは、私には合いそうなので、しばらく続けてみるつもりだ。ダイエット効果を期待している人には、自分の経験からお薦めできる。あと、気持ちがクリアになる感じも。
だが、案外一番気に入っているのは、グルテンフリーという語感かもしれない。それも含めて相性なのか。
(つづく)

※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#19」は2015年7月16日(木)アップ予定。

関連記事のまとめはこちら


http://www.neol.jp/beauty/

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