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一十三十一&弓削匠『THE MEMORY HOTEL』インタビュー

NeoL / 2015年12月1日 4時11分

一十三十一&弓削匠『THE MEMORY HOTEL』インタビュー

一十三十一&弓削匠『THE MEMORY HOTEL』インタビュー

「媚薬系」とも称されるシルキーな歌声と洗練されたアーバン・サウンドがジャンル横断的に高い評価を受けている一十三十一。2012年リリースのアルバム『CITY DIVE』以降、日本のシティポップ・ムーブメントを代表するシンガーとしての地位を確固たるものとした一十三十一の最新作『THE MEMORY HOTEL』は、これまでとはひと味違った、ミステリアスな一面をわたしたちに見せてくれる。このインタビューでは、一十三十一と、『CITY DIVE』以来アートディレクターとして一十三十一作品のコンセプトの元となるストーリーやビジュアル面を担っている〈Yuge〉デザイナー・弓削匠に話を伺った。


 

ーー今回の『THE MEMORY HOTEL』は長い制作期間を経てのリリースですよね。内容もこれまでとはずいぶん変化が感じられました。 

一十三十一「そうですね。『THE MEMORY HOTEL』は、『CITY DIVE』以降のアルバムと全然違う世界観で作っています。『CITY DIVE』(2012年)は、「東京横浜間の夜7時から朝7時までのデート」、そういう映画の架空のサントラというコンセプトで、ここから「ビルボード レコーズ」での一作目がスタートしました。あいだに『YOUR TIME Route 1』という邦楽のカバーアルバムを挟んで、続くオリジナルアルバムが『Surfbank Social Club』(2013年)と『Snowbank Social Club』(2014年)。ホイチョイ・プロダクション・オマージュのこの2作までは、既存の景色のなかでの物語なんです。横浜、湘南、ビーチ、ゲレンデといった、すでにそこにあるものの物語。今回の『THE MEMORY HOTEL』は、それとは違って非現実的な世界観です。なので、作詞も大きなチャレンジのひとつでした。今までだったら例えば横浜なら、「第三京浜に乗って中華街に寄って、こっち側に海が見えて、ベイブリッジがあって……」みたいな地図があるなかで歌詞を考えていくのですが、今回は自分で地図を書いていくところからの作業だったので、時間もかかりましたね」

ーー前作までは確かに具体的な場所を伴った、いわゆる「あて書き」のような感じでしたね。

 一十三十一「クルマに乗っていたり、クルマのウインドウから見える景色をデッサンしていくと、なんとなく8曲位書ける! みたいなところがあったんですけど(笑)『THE MEMORY HOTEL』は、ある日たまたま弓削(匠)さんがSNSにアップしていた写真を見て、そこからインスパイアされた作品なんです」

ーーどんな写真ですか?

一十三十一「砂丘で撮った写真です。弓削さんがディレクションしていたブランドのファッション撮影かなにかのときの写真だと思うんですが、トランクが写っていて」

ーーいつ頃見たんですか?

 一十三十一「2013年の秋です」

ーー結構前ですね!

 一十三十一「そう! 結構前から温めていたんです。『CITY DIVE』のプール、『Surfbank~』の海、『Snowbank~』のゲレンデと来て、次は”砂漠ジャケ”がいいな、というところからスタートしました」

弓削匠「僕もずっと砂漠で撮りたいっていうのがあったので、なんかのタイミングで話をして『やろうよ!』と」

一十三十一「最初は漠然と『非現実的な世界観でフル・アルバムを作ってみたいな』という感じだったんですけど、その頃がちょうど『Snowbank~』のプロモーション時期だったんですね。プロモーションということで、ラジオなんかに呼んでいただいていろいろ喋るわけなんですが、InterFMでやってた鈴木哲也さん(『ハニカム』編集長)の番組に出させていただいたとき、鈴木さんが『一十三十一、大貫妙子さんみたいなミステリアスな路線もいいなぁ』『ミステリーとかアーバンなんじゃない⁉︎』って仰ってて『なるほどなぁ』と思って、そこで『砂漠』と『ミステリー』がわたしのなかでつながったんです。それで、2014年のはじめ頃にはなんとなく『砂漠のミステリー』でアルバムをというアイディアは浮かんでいたんですが、なかなか大きなチャレンジになるので、その年の夏は無理だな、じゃあ2015年に向けて作っていこう、となって。2014年の冬に弓削さんとミーティングして『砂漠のミステリーがいい』『砂漠ジャケでやりたい』という話をして、それを受けて弓削さんがいつものように脚本から書く、ということになりました。わたしが『これまでみたいなクリアなイメージよりも、もうちょっと非現実的でアンニュイな感じーー夏を駆け抜けた大人な感じ』みたいな話をしたら、弓削さんから『ホテルっていうキーワードがいいんじゃない?』という提案をいただいて、『あ、いいですね!』と。そこから脚本を作ってもらって、今年のあたまあたりからその脚本が徐々に上がってきたのを制作陣、作家に渡して、という流れですね」


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角川映画と『THE MEMORY HOTEL』の関連性
 

ーーホテルっていうキーワードはどこから? 

弓削「ホテルってミステリーの重要な要素だったりすることも多いですよね。一番考えたのは、村上春樹の『ドルフィン・ホテル』です。異空間にタイムトリップしてしまうようなあの感じ。もうひとつはシンガポールのリゾートホテル『ラッフルズ・ホテル』です。TUBEの1987年のアルバム『トワイライト・スイム』のジャケットに写っています。

あとは、角川映画のイメージを現代にビジュアル化したかったというのもありますね。『里見八犬伝』とか『戦国自衛隊』なんかのファンタジー作品のアンバランス感、ギャップ感ーー『里見八犬伝』なんて日本の昔話なのに、忍者みたいな格好をした真田広之が馬に乗って砂漠を駆けるエンディングのテーマ曲がジョン・オバニオンって外国人が歌うめちゃくちゃドラマティックな曲なんですけど(笑)、そういうところと、松田優作なんかが出てくる都会的な雰囲気のミステリー。これをうまくミックスしてビジュアルに出来ないかな、と考えていました。これまでの一十三ちゃんの作品は統一されたイメージで来ていましたが、そこから変わった感じを出したいな、というのはありましたね」

ーーなるほど。ジャケットのアートワークについて、少し聞かせてください。

弓削「時間軸と空間軸の歪みみたいなことをアートワークでも表現出来たらと思っていて、そういうところを意識しています。縦(ジャケットの黄色いライン)が空間軸で横(同じくブルーのライン)が時間軸、顔を囲っているピンクのラインが一十三ちゃんの思考という意味です。このジャケットを見て、『怖さ』とか『なんなんだろう感』、つまりわけが分からないものに触れる感覚を誘発出来たら嬉しいですね」

ーー当然、制作前から書かれた脚本とも関連しているんですよね。 

弓削「はい。脚本では一十三ちゃんは記憶を失っている設定です。『メモリー・ホテル』という名の病院の患者さんで、記憶を辿る旅をしている。場面場面に扉が出てくるんですけど、ホテルから逃げ出そうとして扉を開けると砂漠に出てしまったり、逆に砂漠に扉を見つけて、それを開けると病院に戻ってくるんです。それを繰り返しながら、徐々に自分の記憶が蘇ってくるという。おおまかなストーリーはそんな感じですね」

ーー書くのに結構時間がかかった?

弓削「めちゃくちゃかかりましたし、最後まで書けてないです(笑)」

一十三十一「それをわたしが『こうなんじゃないか?』と推測して(笑)。でもそれが逆によかったんですよね。いろいろな可能性があって」

ーーこれまでのアルバムでも脚本は書いていますよね。 

弓削「はい。でもこのアルバムの脚本が一番時間かかりましたね。一応ミステリーということなので、物語のなかにトリックを織り交ぜないと面白くないじゃないですか。そういうトリックを考えるのに時間を要しました」

 

ーーそうして考えたトリックは、音楽の方にも反映しているんですか?

弓削「そこまで具体的にはないと思います。キーワードとか雰囲気みたいなところで使ってもらってはいますけど」

ーーなるほど。脚本があるなかで、「この部分を曲にしてください」ということでもなく。

一十三十一「そうですね。作曲陣には脚本の内容とおおまかなBPMやイメージは伝えますけど、あんまり具体的な依頼の仕方はしていないです」

弓削「あくまでも脚本は全体の統一感を出すためのガイドライン的というか」

一十三十一「わたしの詞も、完全に弓削さんの脚本に沿っているわけではなく、そこからインスピレーションを受けたもの、という感じですね。脚本をインプットして、それを消化、発展させて出てきたもの」

弓削「脚本はビジュアル表現のバックグラウンドとしては直結していますね。そこから音にいくのは、イメージを咀嚼してもらって、という感じです」


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「Labyrinth~風の街で~」がMVになった理由
ーージャケット写真の撮影は早朝ですか? 

一十三十一「そうです。夜明けですね」

ーーまた過酷な(笑)

一十三十一「(笑)でも過ごしやすい気候だったし、これまでの作品に比べたら撮影自体はそんなに過酷でもなかったです。音楽面でもビジュアル面でも、始まってからはスムースでしたね。新しいテーマだったということもあって、そこに至るまではいろいろとありましたが」

ーージャケットの衣裳に関してはお二人で話し合って決めるんですか?

弓削「衣裳については、僕から提案して進めます。今回は『Wの悲劇』だとか『メイン・テーマ』だとかに出てきそうな感じっていうので、関連しそうなものはいろいろ見ましたね。曲もたくさん聴いたし」

ーーそういうものを見直したり聴き直すなかで、影響があったものというと。

弓削「『Wの悲劇』と、村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』ですかね。『Wの悲劇』は薬師丸ひろ子の「Woman “Wの悲劇”より」を何度も聴きましたね。今回MVを制作するんだったらバラードでお願いしますとリクエストを出したのも、そういったところからです。最近だとバラードでMVってあんまりないじゃないですか。今まではアップテンポな曲をMVにしていたんですけど、今回はバラードで世界観を表現するのがいいんじゃないか、と提案して『Labyrinth~風の街で~』のMVを制作することになったんです」

一十三十一「わたし、バラードをMVにしたのこれが初めてです!」

ーーそうですか! これまで、コンセプトやストーリーを伺ってきましたが、サウンド面での変化はどうでしょう?

 一十三十一「テーマやストーリーを制作陣に渡したら、ポエティックなイメージを受け取った人が多かったようで、それが印象的なメロディにつながっていると思います。哀愁感がメロディに出ているというか」

ーーボーカルにもうっすら膜がかかっているというか、輪郭が滲んでいるような印象がありました。

 一十三十一「それはミステリアス・フィルターがかかってますね。わたしも脚本からそういう気持ちが入っていたし。なにしろ記憶を失くしている設定ですからね(笑)」

ーーところで、このコンビでやりだしてどのくらい経ちましたっけ?

一十三十一「2012年からですね」

ーーその年月を経て、改めてお互いの印象の変化とか、仕事のやり方の変化はありますか?

一十三十一「仕事のやり方……(笑)。とくに変わってないですね」

 

弓削「変わってないんですけど、3年やってきてるわけじゃないですか。そうなってくると僕のなかの一十三十一像っていうのが出来上がってきますよね。それは制作陣やまわりのミュージシャン、リスナーもそうだと思うんです。同じイメージを作ってきていたんで。でもなにかここで最初のインパクトというか、『CITY DIVE』が出た頃の衝撃みたいなものを取り戻したいなとは考えていました。そのためには、視覚でも聴覚でもなにか本当に変化がないとダメなんじゃないかという風に思ってましたね。それはこのアルバムを制作する初期の段階から一十三ちゃんはもちろん、制作陣にも伝えていました」

ーー一十三さんはどうですか? 弓削さんの印象。

一十三十一「初めの頃から変わらないですねー。例えばMVの撮影に向かう道すがらのコンビニとかで「あ、一十三ちゃん、今日の衣裳、シーツ」みたいなことを突然言うわけです(笑)。そういう無茶ぶりみたいなのは昔っから毎回あるんです。で、わたしも「はぁ~そっか~……」ってなるんですけど、それを越えて、常に新しいものに挑みつつ、納得のいくものをこれからも作っていきたいですね」


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取材・文 青野賢一 /interview & text  Kenichi Aono

企画・編集 桑原亮子/puroduce &Ryoko Kuwabahra

 

 


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一十三十一

『THE MEMORY HOTEL』

発売中

(Billboad Records)

http://www.amazon.co.jp/THE-MEMORY-HOTEL-一十三十一/dp/B013TPOTUO 

http://tower.jp/item/3992147/THE-MEMORY-HOTEL

https://itunes.apple.com/jp/album/the-memory-hotel/id1043431781 

 

 


一十三十一

札幌出身。2002年「煙色の恋人達」でデビュー。“媚薬系”とも評されるエアリーでコケティッシュなヴォーカルでアーバンなポップスを展開。リード ヴォーカルをつとめるネオ・ドゥーワップバンド「JINATANA & EMERALDS」1stアルバム『Destiny』が、MUSIC MAGAZINE誌“ベストアルバム2014 J-POP/歌謡曲部門” の1位に選ばれる。またCM音楽やナレーションなど様々なフィールドで活躍中。Billboard Recordsより、フルアルバム『CITY DIVE』『Surfbank Social Club』『Snowbank Social Club』、ミニアルバム『Pacific High / Aleutian Low』、邦楽カヴァーアルバム『YOUR TIME route 1』をリリース。

 

弓削匠
デザイナー、アートディレクター。1974年生まれ、東京都出身。2000年、アパレルブランドYugeをスタート。アパレルデザインだけでなく、ミュージシャンのアートディレクションも担当。アートディレクターとしても注目を集めている。
http://www.yuge.cc




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http://www.neol.jp/culture/

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