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ペトロールズ『Renaissance』インタビュー

NeoL / 2015年12月30日 22時11分

ペトロールズ『Renaissance』インタビュー

ペトロールズ『Renaissance』インタビュー

2015年は、ペトロールズの1stフルアルバム『Renaissance』がリリースされた年として記憶されるべきだ。“文芸復興”を意味するタイトルを冠した本作は、三角形の紙製ジャケットに収納されたディスクに全11曲が記録されている。その音楽性も、パッケージも、リスナーへの届け方も、大衆音楽としてのポップミュージックである以前に、純然たる芸術としての音楽作品であるという発想のもとにクリエイトされている。8月13日にスタートした全国ツアー「Renaissance」の初日から会場でリリースされ、まずは最新のペトロールズのライブを体感したオーディエンスの手に渡り、その後、順次流通を広げていった。刹那的な結果を追い求める産業至上主義とは真逆にある音楽とリスナーの関係性。その先にあるものこそが、『Renaissance』=ルネサンスの萌芽になるとペトロールズは信じている。

ベースの三浦淳悟(通称“ジャンボ”)とドラムの河村俊秀(通称“ボブ”)が担うリズムのアプローチはファンクを筆頭にあきらかにブラックミュージックから派生しているが、それだけにとらわれない奥行きと行間、揺らぎがある。そこに長岡亮介の独創性しかない歌メロやギターフレーズが、夜の帳が下がった空間でひとりの男が官能に身を任せる直前の瞬間や曇りなき純情を愛らしい叙情で照らす筆致で描かれたリリックを引き連れて、躍動する。ペトロールズの比類なき音楽が発する、豊潤かつ濃密な刺激、色気、諧謔が融和した快楽。触れてもらえば、それがどれほどたまらないのか、わかるでしょう。2015年の最後に、ペトロールズのメンバー全員インタビューをお届けする。

 

――初めてのフルアルバムってどういう感覚ですか?

三浦「今までの作品はレコーディングが終わると子どもが巣立っていくような感じで、あまり繰り返し聴いたりすることはなかったんだけど。でも、この『Renaissance』はよく聴いてるんですよ」

——クルマに乗ってるときとか?

三浦「そうそう。やっぱりフルアルバムというボリュームがうれしいのかな。4、5曲だとすぐに終わっちゃうしね。でも、『Renaissance』は曲順もハマってるし、シンプルに言うと、とても気に入ってます!(笑)」

一同「(笑)」

——このアルバムを聴くと、バンドが10周年で1stフルアルバムを作ったことがすごく自然に思えるというか。

三浦「うん。べつに出し渋っていたわけでもないし」

——誠実に音楽と向き合った結果として、このタイミングになった。

長岡「そうそう、そうなんですよ。10周年で1stフルアルバムを作るってなんらおかしいことではない。いや、おかしいか(笑)。気負わないで作れてよかったですよ」




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——ボブ氏はどうですか?

河村「すごく気に入ってます。今までの作品は、自分の実力が追いついてなかったというのもあって、作ったあとにもっとこうすればよかったという反省点があったんだけど、『Renaissance』に関してはすごく納得がいってる。これからライブでやっていくことで進化していくだろうし」

長岡「すでにライブでは曲の長さが変わってる曲も多いしね」

——あらためて、長岡氏はどういう手応えがありますか?

長岡「シンプルでいいですよね。スッキリしてる。何も余計な音を足してないので。だから飽きない作品になったと思うし」

——前に話したときに、長岡氏は「フルアルバムを作るなら既発曲は入れなくてもいいかな」と言っていて。でも、結果的に既発曲の新録も複数入った作品になりましたね。

長岡「うん。1stフルアルバムって名刺代わりなるものだと思ったから。そう思ったときに必要な曲を入れてたいと思って。全部新曲でもよかったんだけど、ペト感が出ればそれこそが一番いいと思ったんですよね。10周年のタイミングでリリースする1stフルアルバムだから、『節目の作品』って言われるだろうなとは予想していたけど、そんなのはクソ食らえだと思って。10年目だけど、まだまだフレッシュですよ、という気持ちで作品をカタチにしたいなと思ってましたね」

——既発曲のアレンジも変化していってるしね。

河村「そう。アレンジも演奏もライブでやり続けてるうちに変化していて。だから、このタイミングで録り直してもいいと思えたし。リスナーにもあらたな感想を持ってもらえてると思います」

三浦「ライブでよくやってる曲は確実に上手く弾けてるしね」

長岡「どの曲もシンプルな構造だから、大幅なアレンジの変化はないんですけどね。だからこそ、年月を経てあらたに録ったときにどういう聴こえ方がするか自分でも興味深かった。変わらないのに、変わってるということを確認できたので。曲順はジャンボが『ずっと聴けるような流れにしたい』と言っていて。つまり、ループして聴けるということ。俺も確かにそれがいいなと思って。一度終わるんだけど、また始まっていくようなアルバムがいいなと。それは、『Renaissance』というタイトルにも合致するし。あとは、どう捉えるかはみんな次第だなと」

——受け取り方はリスナーに任せる、という。

長岡「そうです。このアルバムを買って聴いてくれてる人もそうだし、世の中の全体的な話としても、自分がアンテナを張ればいろんな音楽であり芸術があるんだよということを示せればなと思って」

——個々人が能動的な意志で何を選びとって、どう受け止め、いかに咀嚼するか。それがルネサンス=『Renaissance』=文芸復興が実現する一助になるはずだという思いも込められている。

長岡「うん。それって、まずは一人ひとりの気づきから始まることだと思うので」




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——新曲に関しては、個人的に「Talassa」が白眉で。どの曲もそうですけど、この曲はまさに今のペトロールズでなければクリエイトできない曲だと思います。この曲について語ってもらうことで、今のペトロールズが浮き彫りになるんじゃないかと思ってるんですね。

長岡「『Talassa』はパッとできたんですよ。調子がよかったんだと思う。得も言われぬコード感と、キラキラしたウワモノの感じと、シンプルなビートがあるというイメージから始まって」

——ペトロールズの曲は、リスナーの独立したイメージを歓喜させる曲ばかりだけれど、この曲はその極地という感じがするんです。

長岡「ありがとうございます。確かにイメージというのはペトロールズにおいて大きなキーワードだと思う。あと、他の曲は人が演奏しているというバンドの生々しさが出てるものが多いけど、『Talassa』はちょっとニュアンスが違うかもしれないですね」

三浦「そうだね」

河村「でも、この曲は最初からすごくいいものになるという予感はあったな」

——曲の構造として、クラブミュージックに近いミニマル感がありますよね。

長岡「そうですね。“音楽”というよりは“音”みたいなイメージが強いかもしれない。ちょうど10年くらい前にロンドンのクラブに遊びに行ったときに、フロアに流れてる音楽が全然踊れないと思ったことがあって。でも、現地の人たちはすごく楽しそうに踊っていて。『なんでこんな曲で踊れるんだろう?』と思ったんだけど、今なら自分も踊れると思うんですよね。『Talassa』はそういう感覚に近い曲だと思う」

——踊るモーションも個々人に託してる曲だと思うし、そういう意味でも『Renaissance』というアルバムのテーマ性に繋がりますよね。

長岡「そう思います。日本人は情報が好きだけど、情報がないと却ってクリエイティブになりますよね。新曲の中でも『Talassa』は一番実験的であると同時に、一番ペトらしい曲と言えるかもしれない」

——構造やグルーヴの極みを感じる曲が「Talassa」ならば、豊潤な歌の極みを感じるのが、「Iwai」で。

長岡「ありがとうございます」

三浦「『Iwai』は俺も大好き。あ、そうそう、その前に『Talassa』はね、ベースが2本入ってるんですよ」

長岡「LとRでベースを2本使ってるんだよね」

——そのアイデアはどういう流れのなかで生まれたんですか?

三浦「機材トラブルがあって。テイクを1回録って、もう1回録ってみようってなったときに音が出なくなって。それはエフェクターが原因だったんだけど。で、エフェクターを借りてきて、もう1回録ったときに出口(和宏/ENNDISC代表)さんが『両方入れよう』って言って(笑)。ベースが1本じゃなきゃいけないという決まりもないので、そのアイデアを採用しようってなって」

——ただ、ペトロールズはギター、ベース、ドラム、そして人の声以外は絶対に入れないじゃないですか。ミニマムな編成を重んじたうえで自由な発想を発揮している。

長岡「そうなんです。ギターやコーラスを重ねることはあっても、他の楽器は入れないですね」

——たとえば鍵盤を入れてもフィットする曲もあると思うけど、おそらくそうするとペトロールズらしさが削がれてしまう。

長岡「うん。俺はギターのことがよくわかるし、ジャンボはベースのことがよくわかるし、ボブはドラムのことがよくわかるけど、それ以外の楽器のことはわからないから。あと、何か他の楽器を入れたら、キリがなくなるじゃないですか。どんな楽器を入れてもOKになったら、トリオでやってるバンドの醍醐味が失われると思うので」

河村「『Talassa』のドラムに関しても、ライブではレコーディングの音色やフレーズを再現できないんですよ。それくらい特殊なセットで録っていて。ライブで完全に再現するなら『Talassa』用のセットを用意しなきゃいけなくなる。でも、べつにライブで完全に再現しなくても、ライブで新しいニュアンスが生まれることにペトロールズの醍醐味があるなと思うんですよね。それくらい曲がいいから。ただ、コーラスはかなり難しいだけど(笑)」




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——でも、コーラスワークもここ数年でかなりよくなってますよね。

長岡「そう。コツをつかんだんですよね」

三浦「昔はヒドいもんだったよ(笑)」

河村「それは鍛錬の賜物ですね」

長岡「シンプルだけど、やってることは難しいから。ガーン!と勢い良く鳴らしてそれで成立する音楽もあるけど、ペトの曲は一つひとつの音が重要な点のように存在してるので、それをしっかり演奏するのは難しい」

——だからこそ、ライブでやり続けることで自分たちの成長も実感できるんだろうし。

長岡「そう、演奏しながら遊べるようになってる自分に気づくから。そういう瞬間がうれしくて」

——ペトロールズの曲を聴き飽きることがない理由には、ちゃんと裏づけがあるんですよね。

長岡「あると思いますね。いかにもロック的な感じでガーン!って鳴らす曲だと、そういう成長や遊びになかなか気づけないと思うけど、音楽をよく聴いてる人も『おっ!』って思えて、そこまで音楽に詳しくない人でも微妙な変化に気づきやすい曲がいいなと思っていて」

——だからね、ペトロールズの曲は聴き手もクリエイティブにすると思うんですよ。

長岡「うんうん、いいですね、それ。感情云々ではなくてね。むしろ感情も曲を聴く人がそれぞれ自分で作れるというか」

——アーティストのみならず、クリエイティブな作品を享受する側の発想が豊かになってこそ、ルネサンスははたされると思うから。やはり『Renaissance』というのは絶妙なタイトルだと思いますね。

長岡「いい話。そうだよね。そうじゃないと世の中に無粋な音楽ばかり流れることになっちゃうと思う。そういう主張をペトロールズというバンドの存在や曲そのものでわかってもらえたらうれしいですよね」




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——あらためて、「Iwai」についても聞きたいんですけど。本当に大名曲だと思います。

長岡「照れますね(笑)。まあ、俺も多少は歌が上手くなりましたからね」

三浦「泣ける曲」

——ペトロールズの豊潤な歌、あるいはシンプルなラブソングとして「雨」超えをはたした曲だと思うんですよね。

長岡「なんか、『天城越え』みたいだね(笑)」

一同「(笑)」

河村「『Renaissance』のリリースと同時に始まったツアーでも、途中から『やろうよ』ってなって」

長岡「ジャンボもボブもそう言ってくれてね」

河村「ただ、セットリストの中の位置づけが難しくもあって」

長岡「照れるんだよね。照れますよ、こういう歌は」

河村「こいつがこんなにストレートに祝う歌なんて他にないですよ」

——歌詞には「愛」というワードも入っていて。長岡氏が今までは禁じ手にしていたワードでもあったと思うんですよね。その言葉を使わずして、そのイメージを伝えるかということを大切にしてきたと思うんだけど、でも今はシンプルにその言葉を歌えるんだと思うんですよね。

長岡「うん、そうかもしれない。そういう言葉を歌うことも表現と思えるようになったというか。曲の骨組みとしては、歌謡曲っぽいんですよね。だからこそ、間口の広い言葉が乗っけられるというのもあるし。それは『Iwai』もそうだし、『On your side』もそう」

——ペトロールズの醍醐味が凝縮されてると思います。

三浦「何もかも予測できないバンドだと思うので。リスナーからしても、『次のペトロールズはこういう曲を作ってくるだろう』って予想できないだろうし。そういう意味でもペトらしさがどういうことか、自分でも簡単に言い表せられない」

——たとえば記号としてのジャンルを持ち出してペトロールズを語ろうとすると、このバンドの本質からどんどん遠ざかっていくと思う。

長岡「そうですね。みんな『こういう感じの音楽ね』って安心したいと思うんだけど、ペトにはそういうのは必要ないんですから」

河村「『Renaissance』のレコーディングでも1曲1曲、独立したやり方で録ってるんだけど、繋げて聴いてみたときに各曲の聴こえ方が変わって、あらたに作品全体のイメージが生まれる。そういうのがすごく気持ちいいなって思いますね」

——『Renaissance』を作ったことで、ここからバンドはより自由になれるだろうし。

長岡「ね。どこにだって行けると思う。もちろん、美意識はあるから、行きたくない場所はちゃんと見極めるんだけど」

——最後に言える範囲で、『Renaissance』を経て、作りたい新曲のイメージはありますか?

長岡「これがね、あるんですよ。3人で同じメロディを歌うという」

——ハモるんじゃなくて、ユニゾンで?

長岡「そう、ユニゾンで。でも、あくまで優しく歌うんです」

河村「今、亮介にやりたいことのイメージがあると知って俺たち2人はホッとしてる(笑)」

長岡「そりゃありますよ」

三浦「楽しみだ!」

 

撮影 依田純子/photo  Junko Yoda


インタビュー・文 三宅正一/interview & text  Shoichi Miyake(Q2)


編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara


 

プレゼント:ペトロールズのサイン入りチェキを1名様にプレゼントします空メールを送信するとプレゼントに応募できます。(←クリック)ご応募お待ちしております。
後日当選された方にはいただいたメールアドレス宛にNeoL編集部よりご連絡させていただきます。

ペトロールズ

長岡亮介、三浦淳悟、そして河村俊秀の3人組。クルマ好きの長岡が英国でガソリンを意味するペトロールという言葉をグループ名に冠して2005年に結成。ひとつひとつの音が消える瞬間までを意識下に置いたその演奏は人々の集中力を引き付ける。一捻りされた催しなどでリスナーとの信頼関係を築き続け、愛好家は着実に増え続けている。10枚(※)の作品をリリース。


(※) 1.「MUSIC FOUND BY HDR-HC3」(2008)、2.「EVE2009」(2008)、3.「amber」(2009)、4.「idol」、5.「capture 419」(2012)、6.「Problem」(2012)、7.「dice」(2013)、8.「Touch Me」(2013)、9.「SIDE BY SIDE」(2014)、10.「Renaissance」(2015)

http://www.petrolz.jp

 
ツアータイトル(公演名):On The Road Again

出演:ペトロールズ

2月8日(月)会場:SHIBUYA O-EAST 東京
open 18:00 / start 19:00
前売¥3,800 / 当日券未定 (ドリンク代別)
お問い合わせ:シブヤテレビジョン 03-5428-8793

2月11日(木・祝)会場:広島クラブクアトロ 広島
open 17:00 / start 18:00
前売¥3,800 / 当日券未定 (ドリンク代別)
お問い合わせ:広島クラブクアトロ 082-542-2280

2月13日(土)会場:梅田クラブクアトロ 大阪
open 17:00 / start 18:00
前売¥3,800 / 当日券未定 (ドリンク代別)
お問い合わせ:梅田クラブクアトロ 06-6311-8111

2月21日(日)会場:仙台RENSA 宮城
open 17:00 / start 18:00
前売¥3,800 / 当日券未定 (ドリンク代別)
お問い合わせ:ジー・アイ・ピー   022-222-9999

3月11日(金) 会場:イムズホール 福岡


open 18:00 / start 19:00
前売¥3,800 / 当日券未定 (ドリンク代別)
お問い合わせ:COMMON GROUD   0977-84-38383月18日(金) 会場:ペニーレーン24 北海道
open 18:30 / start 19:00
前売¥3,800 / 当日券未定 (ドリンク代別)
お問い合わせ:WESS 011-614-9999

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http://www.neol.jp/culture/

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