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『ピンクとグレー』行定勲×後藤正文×山田貴洋(ASIAN KUNG-FU GENERATION)インタビュー

NeoL / 2016年1月9日 4時44分

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『ピンクとグレー』行定勲×後藤正文×山田貴洋(ASIAN KUNG-FU GENERATION)インタビュー

加藤シゲアキ(NEWS)の小説デビュー作を、行定勲監督が大胆に映像化した『ピンクとグレー』。ある人気スターの死にまつわるこの物語は、幾重にも張り巡らされた仕掛けと予想外の展開を通して、自己という存在の耐えがたい不確かさ(あるいは他者を理解することの絶望的な困難さ)を、観る者に容赦なく突き付けてくる。美しさ、切なさの中に生々しい感情が脈打つ、きわめて挑戦的な作品と言えるだろう。その緊張感に心地のいい風穴を開けてくれるのが、エンディングで流れるASIAN KUNG-FU GENERATIONの書き下ろし楽曲「Right Now」だ。行定監督たっての希望で実現したこのコラボ。楽曲に映画では描ききれなかったある希望を託した監督と、思いを受けとったアジカンの後藤正文、山田貴洋の3人に舞台裏の話を聞いてみた。

 

 

──今回の『ピンクとグレー』は、エンディング曲が非常に大きな意味を持っているタイプの映画だと感じました。単なるタイアップではなくて、むしろ曲が持っている空気感なりメッセージを観客が受けとったところで、初めて世界が完結するという。

行定「本当はどの映画も、そうあるべきだと思うんだけどね。今回は特に悩みました。例えばエンディングに主題歌を付けず、あのままのラストで唐突にプツッと切ってしまう選択肢もあった気がするし……」

後藤「それだときっと、映画の印象も変わってたでしょうね」

行定「実際、アジカンに主題歌をお願いする前の段階で、いくつか海外の映画祭に出品する機会もあって。そのときには劇中で主人公たちが歌う『ファレノプシス』という曲のデモバージョンを付けてたんです。劇伴を書いてくれた半野喜弘さんが歌っている曲で」

山田「あの劇中歌、すごくいいですよね。僕も大好きです」

行定「ありがとうございます。それはそれで、とても味があった。でも、当たり前の話だけど、半野さんはエンディングを想定してあの劇中歌を書いたわけじゃないし。美しいバラードだからこそ、どこか観客に静謐な印象を与えるような気がして…。そこにちょっと違和感があったんですよ。で、集を最終的に詰めていく過程で、この映画にはやっぱりテーマ曲が必要だなと思うようになった」

後藤「ああ、なるほど」




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行定「僕は本来、映画に押しつけがましいメッセージは要らないと思ってるんです。物語の中で起きた出来事をそれぞれが受け止めればいい。でも『ピンクとグレー』に関しては、作品を観終わった人が、その先どこまで歩いていけるかが気になったんですね。メッセージというほど大袈裟なものじゃないけど。中島裕翔くんが演じた主人公が最後の最後に言うセリフの、その先に広がっていく未来を、何とかして肯定してあげたかった。その思いをリレーしてくれる曲がどうしても必要だなと」

後藤「そこは加藤シゲアキさんの小説とまた違う、映画版ならではの部分かもしれませんね。僕自身、最初にフィルムを見せていただいたとき、いい意味で原作を裏切る展開にすごく驚いたんです。なので、映画を観終わった後、それぞれの生活に戻っていく観客を祝福したいという監督の気持ちも、僕なりにわかる気がした。今回『Right Now』はそういう抜けというか、広がりを意識して作りました。もう少し具体的に言うと、『ごっち』『りばちゃん』『サリー』という物語の軸となる幼なじみ。複雑に絡み合ってしまったこの3人の自意識をどうにか解きほぐし、それぞれがインディペンデントな存在としてまた新しく始まる──みたいな感じが出せればいいなと」

山田「そこは僕も同じです。監督からのリクエストも『観た人にすっきりして帰ってもらいたい』というものだったし。僕自身、実際に作品を見せていただいて、『うん、たしかにそうだよな』と納得しました。曲作りの過程ではいろいろ考えることも多かったけど、行定監督が提案された方向性と今のアジカンのモードをうまく融合して、いい形で昇華できた気がしています」

──行定監督は今回、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのどこに惹かれてオファーされたんですか?

行定「最初期の『君という花』(2003年)という曲を聴いたときから、実はすごく気になっていたんですよ。何かに似ているとか、影響を受けたとか、そういう日本のロックとは明らかに違う世界観みたいなものを感じて。ちょっと衝撃だったんですよね。あれってたしか、2枚目のシングルでしたっけ?」

山田「ええ、そうですね」

行定「あの曲、ミュージックビデオを豊田利晃監督が手掛けているでしょう。たまたま僕、彼が日活スタジオでオフライン編集をしているときに居合わせて、聴かせてもらった。で、ファーストアルバムを出てすぐ買いました」

後藤「ありがとうございます(笑)」

行定「自分と同期の映画監督が若くて才能あるバンドの出現に立ち会っているのが、当時はすごくうらやましかったんですよね。その意味では、いわば10年以上の片想いとも言えるわけで(笑)。今回オファーを受けていただけて、率直に嬉しかった。ただ、自分でお願いをしておきながら、ある種の迷いがあったのも事実なんですね」




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──それはどういう?

行定「ここ数年アジカンの楽曲を聴いていると、いい意味で重みが増してきた感じがするんですよね。構造的にはシンプルだけど、心に深く刻まれる音楽。そういう成長というか成熟を、個人的には強く感じてきました。ただ、さっきも話したように、その感じがこの映画が求めている終わり方と合うかどうかは、また別の話なので…」

後藤「はははは。よくわかります、その葛藤(笑)」

行定「かといって、初期のアジカンの楽曲をラッシュの映像に当ててみても、それはそれで何かが違うんですよね(笑)。で、迷いに迷った結果、こういうのは結局キャスティングと同じなんだと。役者のキャスティングというのは一種の賭けなので、もちろん読みが外れることだってある。でも監督として一番幸せなのは、そういう制作側の見込みとか経験値をはるかに凌駕して、役者さんがその映画を、当初イメージしていたよりずっと遠くへ連れていってくれる瞬間なんですよ。主題歌もきっと、それと同じじゃないかと」

──監督からバンドへは、具体的にどんな発注があったのですか?

後藤「何だろう……シンプルにたった3文字、墨汁で『疾走感』と書いた紙をもらった、みたいな? 感覚的にはそんなオファーでしたよね(笑)」

行定「打ち合わせとかも特になかったしね(笑)。僕の中にあった『疾走感』というキーワードをお伝えして、あとは丸投げ」

──デモを作るにあたって、2人の役割分担は?

山田「まず僕が、イントロから前半部にかけてベーシックな部分を作って。そこにゴッチがブリッジ(展開部)と大サビを付けてくれました。『疾走感』というのは、けっこう難しいリクエストで…。単純にBPM(Beats Per Minute:テンポ)を上げても出せない。でも行定さんが仰ったように、もし仮に10年前にやってた感じを意図的になぞったとしても、それはそれでチープになっちゃうのが目に見えているし…」

後藤「そうなんだよね。青春の真っ直中でもないのに、青春っぽい曲を書くと。ハリボテ感が半端ない(笑)」

山田「あとさっきも話に出ましたけど、劇中で中島(裕翔)さんと菅田(将暉)さんが、2人で『ファレノプシス』という楽曲を歌うところがあるじゃないですか。高校時代、自分たちで初めて作ったオリジナル曲として。すごくイノセントで好きなシーンで。楽曲としても素敵だったので。そのプレッシャーもあった(笑)」

行定「ははは」




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後藤「僕自身の経験から言うと、『疾走感』と言われたときに求められてるものって、ある種『内省的なロック』であることが多いんですよ。例えば『自分って何だろう』とか『アイデンティティって何なんだろう』とか…。いわば自分の内側に向けた言葉とビート。その意味は山田くんが書いてくれた、イントロから前半にかけての展開はすごくいいと思った。ノイジーで激しい導入部分とか『うん、間違ってないぞ』と。と同時に、この内省的な感覚をどっかで引っ繰り返さなきゃいけないとも感じたんですよね」

山田「うん、そう。そうなんだよね」

後藤「映画のタイトルは『ピンクとグレー』ですけど、この楽曲についてはむしろ反対で。何だろう……真っ黒なところから始まったものが、展開部のミドルエイトのあたりからちょっとずつ明るさを増して灰色に変わっていって、最後には真っ白になってる──みたいな感覚かな?」

山田「だと思う。黒のイメージの前半から、楽曲のトーンが白へと引っ繰り返っていく。その中でいかに疾走感を表現するか。2人の間でも特に話はしなかったけど、その感覚は同じだった気がする」

後藤「通常“Jロック”的な手法だと、サビの後どうしても前半部に戻りたくなるんですよ。ただ僕ら、最近のモードだと無理に展開を付けるのがあまり好きじゃなくて。なるべくシンプルなリフだけで最後まで押し切ってしまう、洋楽的なやり方の方がしっくりくる。日本のポップスでも、例えば山下達郎さんなんかはそうですよね。曲の頭からいきなりサビがあって、次にそれをちょっと展開させたBメロがきて。延々その繰り返しだったりするのに、すごく豊かな音楽になっていて」

行定「本当にそうだよね」

後藤「まぁ、僕らはその域にはまだ全然達してなくて。同じことをやると骨格しか残らなかったりするんですけど(笑)。少なくともこの曲については『Aメロがあって、Bメロがあってサビがきて、また最初に戻る』みたいな定型スタイルは、あえて外しています。そもそも行定監督の映画そのものが、前半と後半で異なる色合いをしていて。そこが『ピンクとグレー』の肝だったりするし。だったら楽曲の入口と出口とでまったく違う印象になっていてもいいんじゃないかなと」

山田「あと、2015年に『Wonder Future』っていうアルバムをリリースしたことも大きかったかもしれないですね。僕らにとってあの作品は、自分たちなりのシンプルな8ビートロックを見直すという意味合いも強かった。その直後にいただいた仕事だったから、こういうシンプルなリフが生まれた部分もあったと思う」

後藤「もちろん僕なりには、ちゃんと“Jロック”的な展開も入れてますよ(笑)。前半と後半のコントラストが鮮明で、パッと聴いた印象的はむしろ、久しぶりに派手だと思うし。ただ、やっぱり山田くんが最初に、黒をイメージできる硬質なリフを書いてきてくれたのは大きかった気がします。そのキーとかコードを用いつつうまくずらしたりして、全体を仕上げていった感じですね」




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──実際に上がってきた楽曲を聴いて、監督はどう思われました?

行定「そりゃ、めちゃくちゃイイ曲だと思った。もう全部が好き!」

後藤・山田 「ああ、よかった(笑)」

行定「詞を読むと、言葉数は少ないのにとても複雑で繊細なことを歌っていて…。しかも「グレー」と「ピンク」という言葉が絶妙に織り込まれてたりして、映画に寄り添った構造にしてくれている。でも僕が本当に嬉しかったのは、そこで止まってないこと。物語のストーリーラインをなぞるだけじゃなくて、さっき言ったみたいに最後の最後で、観客を新しい地平へと連れてってくれる。それって本当に稀有なことだと思うんですよ」

後藤「そう感じてもらえたなら、すごく嬉しいです」

行定「実を言うと、今回のエンディングでは、今のラストカットの少し先まで描くことも考えたんですよ。内容を話すと楽しみがなくなっちゃうので、映画をご覧になった後でいろいろ想像していただけると嬉しいんですけど(笑)。要は主人公の中島くんの他にも、彼を眺めてるもう1人のキャラクターがいて。実際にそのカットも撮ってるんです」

後藤「ああ、やっぱりそうだったんだ…。『どっちだろう、最後に映ったりするのかな』って、僕も観ながらずっと考えてました」

行定「映像でそこまで見せると、逆に世界がそこで閉じちゃう気がしたんだよね。だから最初にも話したように、悩みに悩んだ結果、今のところでスパッと切ってしまった。逆に言うと、映画では描ききれないその先の広がりについては、エンディングの楽曲に託してしまったわけです。もしかしたらそれは、監督である僕の力量不足かもしれない。でもアジカンの楽曲は、結果として僕の期待をはるかに上回るような広がりを作品に与えてくれました」

──単なるタイアップを超えた、ある種の必然性が生まれたと。

行定「うん。本音を言うと、最近の日本映画における主題歌って、本来あるべき姿と逆になってるケースが多いと思うんです。いわゆる“大人の事情”ってやつでアーティストとタイアップし、話題性や知名度で観客を映画館に呼ぼうとするわけだけど、実はその楽曲が作品を台無しにしてたりする」

──たしかに、多い気がします。

行定「ミュージシャンがどんなに素晴らしい曲を書いても、それが作品の内容──物語が向かっていくべき方向性とあっていなければ仕方ないでしょう。その意味で今回、後藤さんと山田さんが作ってくれた曲が『Right Now』という題名だったのも、僕にはすごく象徴的に思えたんですよね。“まさに、今”ここから始まっていくという高揚感が、たしかに鳴っていたので」

山田「じゃあよかった(笑)」

後藤「心の底からホッとしました(笑)」

 

撮影 中野修也/photo Shuya Nakano


取材・文 大谷隆之/interview & text  Takayuki Otani


企画構成・編集 桑原亮子/edit  Ryoko Kuwahara


『ピンクとグレー』


2016年1月9日(土)全国ロードショー


出演:中島裕翔 菅田将暉 夏帆 岸井ゆきの 宮崎美子/柳楽優弥


監督:行定勲 脚本:蓬莱竜太・行定勲 原作:加藤シゲアキ「ピンクとグレー」(角川文庫)


音楽:半野喜弘  製作:「ピンクとグレー」製作委員会


配給:アスミック・エース


(C)2016「ピンクとグレー」製作委員会


http://pinktogray.com


公式Facebook: :pinktogray


公式Twitter:@pinktograymovie


【STORY】


大人気スター俳優・白木蓮吾が、突然、死んだ。


第一発見者は幼い頃からの親友・河田大貴。蓮吾に何が起きたのか?


動揺する大貴は、6通の遺書を手にする。遺書に導かれ、蓮吾の短い人生を綴った伝記を発表した大貴は、一躍時の人となり、憧れていたスターの地位を手に入れる。初めてのキャッチボール、バンドを組んで歌ったこと、幼馴染のサリーをとりあった初恋…。


いつも一緒で、いつも蓮吾が一歩先を進んでいた―。輝かしい青春の思い出と、蓮吾を失った喪失感にもがきながらも、その死によって与えられた偽りの名声に苦しむ大貴は、次第に自分を見失っていく。


なぜ、蓮吾は死を選んだのか?なにが、誰が、彼を追い詰めたのか?


蓮吾の影を追い続ける大貴がたどり着いた“蓮吾の死の真実”とは―。


芸能界の嘘とリアルを現役アイドル加藤シゲアキが描いた問題作を、『GO』『世界の中心で愛をさけぶ』の行定勲が、映画初出演・中島裕翔を抜擢し、映画化。


幕開けから62分後の衝撃。ピンクからグレーに世界が変わる“ある仕掛け”に、あなたは心奪われる―。


 

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http://www.neol.jp/culture/

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