DAISY BALLOON「MOBILE 孤立した僕達はどうして失われた共同体を求めてしまうのか。」インタビュー
NeoL / 2016年5月22日 21時43分
![DAISY BALLOON「MOBILE 孤立した僕達はどうして失われた共同体を求めてしまうのか。」インタビュー](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/neol/neol_41861_0-small.jpg)
DAISY BALLOON「MOBILE 孤立した僕達はどうして失われた共同体を求めてしまうのか。」インタビュー
世界を舞台に活躍するバルーンアーティスト、細貝里枝。グラフィックデザイナー、アートディレクターである河田孝志。この二人から成るアーティストユニット、DAISY BALLOONは、ビョークへの衣装提供でも話題を呼んだバルーンドレスに代表される、緻密かつ大胆で想像力を喚起するような作品で多くの人々を魅了している。最新の展示に際し、ユニットでの役割から制作過程までを聞いた。
−−細貝さんは元々花屋さんからバルーンアーティストに転身されたんですよね。
細貝「はい。働いていた花屋がたまたまバルーンアートを扱っていたのが始まりです。花はずっと好きだったんですが、独立を考えた時に、花は枯れてしまうけど、バルーンは空気を入れなければ枯れない。在庫を持つのにいいなと(笑)」
——(笑)。バルーンを「枯れる」と表現されるように、花を愛でるようにバルーンを扱っているという印象です。
細貝「そうですね。でも花には敵わないです。命のあるものには及ばないけれど、その中でもどれだけ魅せられるかと常に考えています」
——河田さんはどうしてグラフィックの道に入られたんですか?
河田「小学校の頃から絵が好きで、その延長でファッション業界に入ったんですが、グラフィックに戻って仕事をしていて。ファッションとグラフィックを違う形で融合させたいと思っていたのですが、細貝と会って、バルーンの可能性を感じて2008年にDAISY BALLOONに加わりユニットとしてスタートしました」
−−河田さんがコンセプトや下絵を描き、細貝さんがそれをバルーンで形にしていくとのことですが、制作の時はどのような話し合いをされるんですか?
細貝「私は小さな頃から考えるより手を動かすタイプで、こんなことをやりたいと言うことはあまりないんです。ただ、こういう形を作るにはどうするかというようなことは常に考えていて、頭の中で練習していたり。なので、言うとしたら、こんな形を作ってみたいということ。それを受けて河田が『こういうことを表現したいからその形を活かしてこんな全体像を作ろう』と提案してくれます」
−−ビョークのDNAドレスを制作されたことはDAISYBALLOONの名前を世界に浸透するきっかけになったと思いますが、彼女が作品を見てオファーしてきたのですか?
河田「実は、僕の夢はビョークにバルーンドレスを着てもらうことだったんです。作品は常に作り続けていましたので、どこかで見てくれたのか、2013年の1月に連絡を頂きました。ロンドン公演で着たいということだったんですが、タイミングが合わず日本の野外フェスティバル『フジロック』でという話になりました。『私が宇宙となり、サイエンス(科学)とアース(地球)で私を取り巻いてほしい』という彼女の希望がありましたので、そこから半年ほど案を出し続けました。ドレスの形状は、DNAの二重螺旋は決まっていましたので、まずは、DNAに詳しい専門家の方にお話しを聞きに行ったり、とことんリサーチから入りました。また、過去ライブ上でのビョークの動きを研究してドレスの構造を練りました」
——そこからラフォーレ原宿の広告ヴィジュアルへの作品提供など、様々なお仕事がありますが、最新の展示は京都での作品と写真の展示ですよね。
河田「そうです。ビッグバン=誕生というところからテーマを広げて、個展という形で一ヶ月間開催しました。KYOTOGRAPHIE(京都国際写真展)と同時期なので、写真展に近い見せ方にしましたが、立体作品も入れています。通常は咲いている(膨らんでいる)状態のバルーンを出すのですが、今回は劣化した状態で出すことで、最終形がどうなるかをオブジェとして見せる予定です。劣化したもののほうが意味合いが深くなり、プロセスを感じられる。かつ、最終的な作品の形態がここにくるんじゃないかということで」
——バルーンは空気を入れた瞬間からしぼんでいくものですから、命のプロセスと言えます。「ビッグバン」というテーマはどのようにして設定されたんですか?
河田「去年の5月から僕が何もビジュアルが作れなくなってしまって。よくよく原因を考えてみたら、生活している中で何か問題が発生してそこから作品が生まれていたのが、恵まれた環境にいて問題がなくなったことで作品を生み出せなくなっていたんです。昨年2冊目となる作品集『METAMORPHOSIS』を作ったんですが、表現したいものを出し尽くして、マスターピースに近いものが出来たというのもあったのかもしれません。それで問題がないという問題に着目して作品を作ろうと、最初はコンセプトもなく、とにかくビッグバンという爆発を作る過程の中で気付いていくものがあるはずだと、細貝にコアから作り始めてもらいました」
細貝「でも下絵は描いてましたよね」
河田「ただそれが何を意味するのかわからないから、半年間くらい作り続けてもらって」
——細貝さんは、河田さんの状態をどう捉えていたんですか?
細貝「待ちました。歌手になりたい男性が、歌詞を考える時に訴えるものがない。世の中に不満がないから歌詞が書けない。それと同じ状態だと思うんです。表現したいものが生まれてくるまで待つしかない。私もいろんな形をやり尽くしたというのもあって、ビッグバンは答えが出てくるまでとことん作り続けてみようと思いました」
——では、無から生まれる何かを模索していたからこそのビッグバンだった。
河田「そうです。僕らのテーマは常に宇宙に関連しているんですが、今回はコンセプトが浮かばなかったので、全ての始まりであるビッグバンに頼ったという感じです(笑)。さらに撮影スタッフやギャラリーの方々などに、何も浮かばないけどどうしたらいいんだろうと話したら、少しずつ道を示してくれて、コンセプトが広がって出来てきた。コンセプトがあって作品が出来るという過程とは全く逆の形で生まれたのですが、宇宙が爆発して粒子から僕らが生まれて、それが最終的には宇宙は戻るという過程と同じで、戻るという力が働いていたんだと思います」
——なるほど。メインヴィジュアルのドレスが半年をかけて作られたものですか?
河田「はい。高次元のブラックホールで揺らいでいるドレスを作りたかったんです。そして、身体の中にも宇宙があるということと同時に、個人や孤独、そこからの広がりも表現しています。僕は今のデジタルの広がり方に問題があるように思えるし、テクノロジーへの脅威を感じています。というのも、昔は太陽を見ながら感情や信じるものなどを直接的に共有することができたのが、今ではデジタルな媒体を通してしか共有できないような傾向がある。体験していない人でもリアルに体験した気分になれるけど、そういうことがますます孤独になる要素だと思えるんです。でも、個々の関係の中で向き合っていけば、昔のように太陽の下で考えが共有できるような場が持てるのではないか。一人ひとりが何かに気付いて広がっていくことで、テクノロジーに対応できる力が出来るんじゃないかという問いかけであり、考える場を作りたかったです」
——確かに、疑似体験だけでなく、ネットショッピングなど人と会わずとも生活していけるような時代ですよね。ただ、揺り戻しは必ずあるし、画面を通してだけでは満足できない体験があるとも思います。
細貝「温度や空気感、匂いは本物でないと感じられませんから、アナログは絶対なくならない。だからこそ私たちはアナログで表現できる限界までやりたいと思っているんです。バルーンは指先の加減ひとつで大きさや張り具合が変わるんですが、それはまだ機械ではできない。百年後には精密な編み込み機が出来ているかもしれませんが、人間ができるアナログな部分を表現していくことが大切なのかなと思います」
——微妙に形が違うことも味わいであったり、そうした誤作動は機械にはできない。
細貝「だから人間の手作業のものに魅力が感じられるなんじゃないかと」
河田「いつの時代もポストモダン的な、アナログに戻す力を共有しながら、バランスを取っていますよね。その話にも通じてますが、今回の展示には『Behave』という作品がありまして、これは人間の内面的な怒りや喜びを表現しています。人間と自然の関係性で、絡み合ったり、覆われたり、差し引きしたヴィジュアルを作りたかったんです。また、今回の展示会場である京都は、日本の中心軸でもあると同時に、展示テーマでもある『MOBILE(モビール)』の中心となる支点を意識して、力点と作用点など繋がりやバランスを考えるエキシビションにしました。京都という地を通じ、人々は個として分散せずに、コミュニティとして形成しているように思えますし、京都の古き文化を支え、都市も個に還元している非常に深い関係性が存在しているように思いました」
——最後に、今後の制作の方向性を聞かせて下さい。
河田「これからはもっとグラフィックの要素を打ち出していきたいと思います。今回の展示も、グラフィックの要素をいろんな所に散りばめていますが、以前に制作したレゴドレス然り、バルーン以外でも技術というもので表現していく幅を広げて行きたいです」
取材・文 桑原亮子/interview & text Ryoko Kuwahara
DAISY BALLOON「MOBILE 孤立した僕達はどうして失われた共同体を求めてしまうのか。」
2016年4月9日〜5月8日 12:00〜19:00 *展示終了
ホテルアンテルーム京都/GALLERY 9.5
京都市南区東九条明田町7番
075-661-5656
http://hotel-anteroom.com
DAISY BALLOON Book vol.1 "Daisy Balloon"
![construction_02](http://www.neol.jp/wp-content/uploads/2016/05/construction_02-123x160.jpg)
![construction_03](http://www.neol.jp/wp-content/uploads/2016/05/construction_03-119x160.jpg)
DAISY BALLOON Book vol.2 「変態」"METAMORPHOSIS"
![METAMORPHOSIS_02](http://www.neol.jp/wp-content/uploads/2016/05/METAMORPHOSIS_02-122x160.jpg)
![METAMORPHOSIS_03](http://www.neol.jp/wp-content/uploads/2016/05/METAMORPHOSIS_03-119x160.jpg)
https://daisyballoon.stores.jp
DAISY BALLOON
DAISY BALLOONは、世界を舞台に活躍するバルーンアーティスト、Rie Hosokai(細貝里枝/1976年)とアートディレクター、グラフィックデザイナーのTakashi Kawada(河田孝志/同年)から成るアーティストユニット。2008年の結成以来、「感覚と質」をテーマに掲げ、バルーンで構成された数々の作品を制作。なかでもバルーンドレスは、繊細さが細部まで行き渡った建築物を思わせ、多くの人々を魅了している。また、彼らは日々、哲学的テーマを探求して、物や人とディスカッションすることをフィールドワークとしているか、その眼差しは常に、他者との本質的な融合に向けられている。
http://www.daisyballoon.com
関連記事のまとめはこちら
http://www.neol.jp/culture/
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