リチャード・カーン(Richard Kern)インタビュー
NeoL / 2016年6月1日 2時9分
リチャード・カーン(Richard Kern)インタビュー
先日、フィルム・アーカイヴスの特集上映と新作アートのエキシヴィジョンを東京で開催したリチャード・カーン。スーパー8で撮影されたフェティッシュかつハードコアな映像作品で注目を集め、ニューヨークのアンダーグラウンドを舞台とした“ノー・ウェィヴ・シネマ”の一翼を担った80年代。そして90年代以降は、フォトグラファーとして『New York Girls』を始めとした数々の作品を発表し、現在もニューヨークを拠点に精力的な活動を続けている。あるいは音楽ファンにとってカーンの名前は、ソニック・ユースやマリリン・マンソンのMVを通じて知られたところだろう。
「大勢の変人が精神浄化をするため、ニューヨークという汚くて貧しい街へやってきた」。カーンが活動を始めた当時のニューヨークについてそう語ったのは、彼の多くの作品で被写体を務め、また創作上の盟友でもあったミュージシャンのリディア・ランチ。今回の来日に合わせて、日本人の女性をモデルとした作品も制作していたというカーンに、これまでの活動や自身の作品について、短い時間だったが話を聞く機会に恵まれた。
―今回の特集上映に合わせて、『You Killed Me First』を始めとする80年代や90年代に制作された作品が新たにデジタル・リマスターされました。自身の作品をあらためて観返してみて、何か思い返すことはありましたか。
リチャード「オリジナルの方が暗いんだ(笑)。ガサガサしているしね。でもリマスターを作っている時は、新しい作品を見ているようだった。昔の映像を集めて、今まで見たことのない新しいものを作っているような感じだったよ」
―年内にはMoMAでの回顧上映も控えているそうですね。処女作の『Goodbye 42nd Street』(1983年)から30年以上の時間がたちますが、この間を通じて自身の作品に対する周りの評価が変わった、と実感することはありますか。
リチャード「30年前は、批評のほとんどは良いものではなかった。映画やスクリーニングを見せようとすると、その場所から追い出されることもあったくらいさ。でも、今はより多くの人が慣れていると思う(笑)。それまでにはかなりの時間がかかったからね。子供の頃、僕の作品を好きだった人たちが今は大人になっているし、反応は悪くはないね」
◎You Killed Me First
―そうした変化の背景には、“女性のヌード”というものに対する世間の見方が変わった、というのもあるのかなと。
リチャード「何かを若いときに見て、それから歳を取ってそれを振り返ると、自分がどれだけ影響を受けているかがわかる。僕の作品を若いときに見た人たちが今大人になって、その作品を自分がどう受け止めるか、どうしたいかを自分の意思で決めるようになっていると思うね。時代が変わったのもあると思うよ。パンクなんて、今やノスタルジックだからね(笑)」
―PLAYBOY誌が女性のフルヌードを掲載しないことを決めましたね。インターネットの普及で女性のヌードに価値がなくなったから、だそうですが。
リチャード「僕もそう思う(笑)。ポルノ業界で働いていた知り合いがいるんだけれど、彼はポルノのウェブサイトを持っていたんだ。でも今は、ほぼ裸なんだけれど服を着た女性をウェブサイトに載せるようになった。それで彼は成功したんだよ。ヌードが掲載されていないというのがそれに繋がったわけで、ポルノやヌードといったものは溢れているから、それを面白いものにするというのはチャレンジだと思う。ただ裸で立っているだけではダメなのさ。僕の昔の作品も、30年前に比べれば驚きは少ないだろうね。自分の作品よりも過激で稚拙なものがあれからたくさん出てきた。そういった映画が出回り、低予算と下手な演技で作られていくことで、出来がもっとひどくなっていったと思う」
―フォトグラファーとしてカーンさんが初めて制作した作品『New York Girls』が昨年、刊行から20周年を迎えました。この20年の間に様々な女性を撮られてきたと思いますが、被写体になる女性側の変化を感じることはありますか。
リチャード「最初は自分の友達を撮影していたんだ。そこから彼女たちの友だち、その友だち、そのまた友だち……を撮影するようになった。今は、インスタグラムなんかで見つけたりしているよ。でも、人に『自分も女性の写真が撮りたいんだ』と言われれば、自分の彼女や友だちから始めろとアドバイスしている。その写真がよければ、そのモデルたちが友だちや知り合いに広めていってくれるから」
―ところで、カーンさんが活動を始めた70年代末のニューヨークの雰囲気とはどのようなものでしたか?
リチャード「70年代終盤のイーストヴィレッジは、誰も住んでいないビルとドラッグだらけだった。今は全然違って落ち着いているけどね」
―当時のニューヨークについて、リディア・ランチは「大勢の変人が魂を浄化するために集まってくる場所」と話していましたね。
リチャード「その話は知らないけれど、他とちょっと違った存在になりたければ大都会へ行くよね。東京に来る人も、他とは違う何かを求めて来ているはず。僕は南部の小さな街で育ったけれど、ニューヨークだけが自分の行き先だった。それかロサンゼルス。でも、僕にとってはニューヨークの方が良かったんだ。アートがより先に進んでいたからね」
◎Sonic Youth with Lydia Lunch / Death Valley 69
―当時の音楽シーンとの関わりについて教えてください。
リチャード「リディア・ランチと一緒にショーをやったりしていたよ。彼女はスポークンワードをやっていて、僕がその後ろで映像を見せていたんだ。彼女はソニック・ユースと一緒に“デス・ヴァリー69”という曲でビデオを作っていて、何かスペシャルなものを作れるアーティストを彼らが探していた。そこで僕に依頼が来たんだ。それがきっかけでソニック・ユースに会ったんだよ。ビデオを監督していたのは僕ではなかったのただけれど、僕がビデオのヴァージョンを作ってもいいかと頼んだんだ。それで、気合を入れて自分のヴァージョンを作った。そしたら、彼らは僕のヴァージョンの方を気に入ってくれてね。そこからたくさんのミュージシャンと知り合いになっていったんだ」
―そのリディア・ランチやソニック・ユースも含めたノー・ウェイヴ・シーンと当時のカーンさんの作品との間には、互いに共有する価値観や美意識のようなものがあったように思いますが、いかがですか?
リチャード「ノー・ウェイヴは僕の世代よりも前に始まった。だから、僕はもっとパンクにハマっていたよ。セックス・ピストルズや、アナーキーなものが好きだった。ノー・ウェイヴも音楽に関してはアナーキーだったけど、パンクは、その姿勢がアナーキーだったからね。ノー・ウェイヴのファンたちは、自分たちのルックスにこだわりすぎていたと思う(笑)。あれはファッション・ムーヴメントだったから。でも、今考えてみると、ノー・ウェイヴの方が音楽的にはパンクだっかも。パンクの音楽は普通のロックンロールだけど、ノー・ウェイヴでは伝統的な音楽を崩そうとしていた。それに関して言えば、僕にとってはリディア・ランチが一番パンクなミュージシャンだった。彼女はパンクであり、ノー・ウェイヴであったと思うね。彼女は新しい音楽を追求していたから」
―では最後に。カーンさんの作品には、銃を持った女性がよく出てきます。カーンさんにとって、“銃を持った女性”とは何を象徴しているのでしょうか/何かの象徴なのでしょうか。
リチャード「僕が作る映像のほとんどが、女性との関係を表している。僕にとって、女性は怖い存在だから、それを表現するのに銃を使うこともあるんだ(笑)。銃でその強さが強調されるからね。同時に、ドラッグをやっていると、銃を持ちたくなる。全てが怖くなるから、そういったものを持ちたくなるんだよ。銃をいくつも持っている友人が2人いてそれを見てきたけど、僕はそれを使う代わりに、作品の中で使っていたんだ。それに関しての映像作品も作ったこともある。そんな感じさ(笑)」
◎x is y
撮影 中野修也/photo Shuya Nakano
ヘアメイク yoko ( the oversea )/hair&make up yoko ( the oversea )
取材・文 天井潤之介/interview & text Junnosuke Amai
企画・編集 桑原亮子/direcion & edit Ryoko Kuwahara
展示会場 ICON (http://icontky.com)
リチャード・カーン
フォトグラファー /ムービーディレクター
Sonic Youth のMVのディレクションをはじめ、
Purple Fashion や DAZED AND CONFUSED、Vice、Playboy マガジンではフォトグラファー / コントリビューターとして活躍。
80 年代のポルノシーンから生まれた被写体を切り取る独自のシューティング、ライティング手法はファッションシーンに影響を与え、写真とともに数々のミュージシャンのムービーを手がけ、その活動は多岐に渡る。1980年代のNYの The Cinema of Transgression(反逆の映画)と呼ばれるムーブメントの創設者。
Vice, Purple, Dazed and Confused, GQのフォトグラファーとして活躍。 3年前に-8フィルム「リチャード・カーン-ハードコアコレクション」をウォーホル財団のサポートによってHDビデオで高品質で再現。モスクワ「The Garage Center for Contemporary Art 」、ベルリン「 KW Institure for Contemporary Art」、パリ 「Cinematheque Francaise」、NY「Anthology Film Archives」において、これら幾つかの作品を発表している。 2016年、「近代美術館- Museum of Modern Art」にてムービーを上演する。
http://www.richardkern.com
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http://www.neol.jp/culture/
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