デニズ・ガムゼ・エルギュ ヴェン『裸足の季節』インタビュー
NeoL / 2016年6月17日 18時27分
![デニズ・ガムゼ・エルギュ ヴェン『裸足の季節』インタビュー](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/neol/neol_43023_0-small.jpg)
デニズ・ガムゼ・エルギュ ヴェン『裸足の季節』インタビュー
人生の伴侶である結婚相手を選ぶ権利、今私たちが当たり前に享受しているその権利が奪われた時に私たちはどう思うだろうか?
トルコの田舎、伝統を重んじる保守的な村に住む5人の美しい姉妹。彼女たちは事故で両親を失い、祖母、叔父に引き取られる。学校の帰り道、海で男子生徒を交え、肩車をされてふざけていた彼女たちの行為を「淫ら」だと密告され、彼女たちは徐々にその自由を奪われていく。次から次へと見知らぬ男のもとへ嫁がされる姉の姿を見る末っ子のラーレは自分たちの自由を手に入れるためにある行動に出る。
トルコのアンカラ出身の監督デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン。フランス、アメリカで映画を学んだ彼女のフィルターを通して生み出された処女作は、彼女自身がもつ美しさと強靭さ、そして少女の儚さ全てを兼ね備え、美しい御伽噺のように語りかけてくる。女性として生きる私たちの葛藤、そしてそれを乗り越える時に発せられる烈しいエネルギーについてこの作品を通し、多くの人たちと語り合いたい。
——トルコでは強制的な結婚というのは現在でも一般的にあるものなのでしょうか?トルコ国内での映画の反響はどんなものでしたか?
デニズ「トルコ自体は多様性のある社会で、一方ではモダンな生活を送る人々がいて、その一方では非常に保守的な生活を送る人たちもいる。児童婚は現在トルコでは一般的なものではないけれど、わずかではありながら残っている慣習で、それに対して反発する人たちもいれば同じ価値観を持っている人たちもいるのが現状です。児童婚のような古いしきたりを守る層の人たちの中には、この作品によってあたかも自分たちが否定、裁かれたと感じる人たちもいました。そこからの厳しい批判の声もありました。この作品に出てくる女の子の目を通して、彼女たちが何を感じたか、何を見たか、それを作品に含むことによって、問題提起ができたと思います」
ーデニズ監督は女性の立場についてどう思いますか? 国や地域によってその自由度にも違いがあると思うのですが。
デニズ「あらゆるところで平等には至っていないと思います。お金の稼ぎ方ひとつにしても男女という概念だけでなく不平等ではあると思います。最近、私たちがよく議論する題材として『女性はどのように給料を稼いでいるか?』ということがあって、会社でも役職に就くのはだいたい男性だと決まっているし、女性監督もマイノリティだと思うの。女性の力が制限されているのは明らかなんです。トルコにおいて悲しい状況が続いています。女性の価値を汲まなければならない状況でもそれがなされていないんです。トルコでは早い段階から女性の権利を保証する法律があったはずなのに、その状況が後退しています。トルコの現大統領であるエルドアン大統領は『女性と男性は平等ではない』と恥じることもなく明言していますし、『女性は母親になるために世の中に存在している』という彼の発言を支持する人たちがいて、それが私たちの日常の細かいところにまで影響を及ぼしているんです。ハラスメントや暴力が起こることもトルコでは女性軽視が一般化していることが原因になっています」
ー5人姉妹を演じた女の子たちはそれぞれに個性的で美しく、特にラーレの瞳が持つ強さやエネルギーに惹かれました。彼女たちをキャスティングするにあたって、「これだけは外せない」と思っていた点は何ですか?
デニズ「話を聞いてくれる女の子という点は外せなかったですね。心や色んなドアが開かれることがスタート地点ですから。理解があってこそ、想像力をはたからせて、与えられた役を演じられると思います」
ー 彼女たちのルックスのイメージは作品を撮る以前から固めていましたか?
デニズ「自分の家族からインスピレーションを受けていますね。自分もそうでしたけど、みんなロングヘアだったんです。3三女を演じてくれたエリットを映画で見た時に、彼女の美しい長い髪が印象的で。自分の少女時代を重ねて見てしまいました。5人姉妹をキャスティングするにあたって、やはりロングヘアは必須条件でした。この5人姉妹を、腕が10本、足が10本、頭が5つ持つ一つの怪物だと捉えていたので、彼女たちの共通項にその美しい長い髪があります。それは作品の原題『MUSTANG(野生の馬)』という野生の動物の魅力とも通ずるものですよね。作品の中で、彼女たちの美しさがアドバンテージではなく、問題を起こす原因となっていることに焦点を当てています」
ーー作品が公開され、各国で賞を受賞したり、評価されることについてはどう感じていますか?
デニズ「もちろん私が映画で描き出した世界は実際の私を取り巻いている状況とは非常に違うものです。これは映画の中の世界ですから。私は監督として世界各国の映画祭に呼ばれ、綺麗な洋服を着て撮影やインタビューに答えることもあります。でもそれは、エンターテインメントの華やかなところを抜粋しただけであって、実際、この映画を発表することで私が持つ責任について意識をすることが重要だと思っています。この作品には世界中の女性たちに対して訴えていきたい非常に重要なテーマがあります。5人姉妹はそれぞれ異なる存在で、それぞれが女性としての問題を抱えています。この作品を見た世界中の女性がどこかの部分で、彼女たちと自らを重ね合わせて見てくれたらと願っています。この作品と出会うことによって、新しい観点で女性たちを取り巻く環境について考えてもらえたらと。あなたたちは孤独ではないのだと。そう認識してもらえたらと願っています」
ーこの作品が公開され、周りの環境や自らの生活、心境に変化はありましたか?これからどういったことに挑戦していきたいですか?
デニズ「この作品が公開される前に、金銭的にもテーマ的にも理由があって制作を中断しなくてはいけない作品がありました。この『裸足の季節』はヨーロッパ規模で見ればとても低予算で作られた作品です。これが成功したことによって、その中断されていたプロジェクトを再開できるチャンスを得ることができました。 映画を作ることは責任が伴いますし、小さな小さなステップをつなげ、私は一つの作品を作り出しています。アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたことによって、作品を届けられる層が厚くなり、より多くの人と対話する機会が増えました。そして、それによって責任も増えていきます。私がトルコの現状について語ることは、権利でもあり、同時に任務でもあると感じてます」
——エンディングに向かう中での車窓から見えるイスタンブールの街の風景がとても幻想的でした。デニズ監督は彼女たちを待ち構えている未来をどういう風に描きたかったのですか?
デニズ「イスタンブールという地で安全と自由を二人は手にしました。彼女たちの身を保証していくれるシンボルとなる先生が登場することによってここからポジティブな展開に向かうことを象徴しているのです」
——デニズ監督はこの作品を制作中に出産も経験していますよね。出産を経て、何か感じたことはありましたか?
デニズ「私は自分が母親になる前に、子供を産んだからと言って、教訓を垂れるような女性には絶対にならないと周りに誓っていました。母親になってからもちろん発見もありました。一番驚いたことは、社会の中で女性が出産や授乳の話題を大っぴらに話をすることはタブーというか、とても内密なものだと思っていたのですが、実際は割と平気に、カジュアルにしていたことが衝撃でした。今のトルコのエルドアン大統領のスタンスとは両極端なもので、私にとって嬉しい発見でしたね」
撮影 田口まき/photo Maki Taguchi
取材・文 多屋澄礼/interview & text Sumire Taya
企画・編集 桑原亮子/direction & edit Ryoko Kuwahara
『裸足の季節』
シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー中
監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
音楽:ウォーレン・エリス
出演:ギュネシ・シェンソイ、ドア・ドゥウシル、トゥーバ・スングルオウル、エリット・イシジャン、イライダ・アクドアン、ニハル・コルダシュ、アイベルク・ペキジャン
2015年/フランス=トルコ=ドイツ/97分
配給:ビターズ・エンド
©2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
第88回アカデミー賞/第73回ゴールデングローブ賞 外国語映画賞ノミネート、第68回 カンヌ国際映画祭ヨーロッパ・シネマ・レーベル賞
http://www.bitters.co.jp/hadashi/
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関連記事のまとめはこちら
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