Alexis Taylor『PIANO』インタビュー
NeoL / 2016年7月21日 12時38分
Alexis Taylor『PIANO』インタビュー
美しく透き通ったピアノの音色と、穏やかで親密なぬくもりをたたえた歌声。この、みずみずしくも削ぎ落とされた音楽を作り上げたのは、ロンドンのエレクトロ・ポップ・ユニット、ホット・チップのフロントマンであるアレクシス・テイラー。クラフトワークやニュー・オーダーの影響も受けたエレクトロ/ダンス・サウンドで知られるホット・チップだが、今回の3枚目となるソロ・アルバム『ピアノ』の制作でテイラーが用いたのは、自身のヴォーカルとピアノのみ。ホット・チップ以外にもアバウト・グループ、フェインティング・バイ・ナンバーズなど様々なプロジェクトに参加するテイラーだが、いわく、この『ピアノ』は長年温めてきたアイデアがようやく実現した作品なのだそうだ(「15年ほど前に僕の友達が、実際は制作されなかったけど提案はされたアレックス・チルトンのソロのピアノのアルバムがあったんだよ、と教えてくれたんだけど、この話がインスピレーションとなったんだ」)。
つい先日には、今作の収録曲とともに、敬愛するプリンスの“Old Friends 4 Sale”をピアノの弾き語りでカヴァーした映像を公開したテイラー。自身のキャリアにおいて特別な作品となった『ピアノ』について、テイラーにメールで話を聞いてみた。
―まず、ピアノとヴォーカルだけのアルバムを作ろうとした一番の理由、動機とはどのようなものだったのでしょうか?
アレクシス「音のレイヤーを剥ぎ取って、シンプルな中でもリッチに響くようなアルバムを作りたかったんだ。あと、簡単に陥りがちなある種の制作方法から離れたかった。たとえレコーディングで電気が使われていても、純粋にアコースティックに響く、シンセを使用しない作品を作りたかったんだ。プラッシュの『モア・ユー・ビガムズ・ユー』やマーク・ホリスの『マーク・ホリス』といった、飾り気はないけど美しいレコードにインスパイアされたよ。あと、ブルース・スプリングスティーンの『ネブラスカ』にもね。これらのアルバムは何年も聴いてなくて、レコーディングを始めた時には僕の中では重要なアルバムとして認識してなかったんだけどね。アルバムのレコーディングはShuta Shinoda(注:ドーターなどの作品を手がけ、マーキュリー・プライズにもノミネートされたことのあるプロデューサー)と行ったんだ。僕が今まで演奏して聴いた中でもベストであるブリュートナーのグランドピアノと、これまた歌った中でもベストなマイクであるRCA 44BXを彼は偶然にも持ってたんだ。だから、それらを使わざるを得なかったよ。あと、聴いた人に僕が好きな曲のいくつかを思い起こさせて、新しい何かを感じさせるようなアルバムを作りたかった」
◎Plush / More you becomes you
―ピアノだけのアルバムを作りたい、というアイデアをあなたは長らく持ち続けていたそうですが、それがようやく実現してみて、どんな気分ですか?
アレクシス「とてもハッピーだよ。このアルバムを聴いた時に僕を誘ってくれるムードや空間が好きなんだ。この作品は他のレコードとは異なったスぺースを持ってるように感じるんだよ。ここには、驚くべきコラボレーション、サイトのアクセス規制、職場での閲覧注意画像、といった類の人々の注意を喚起するものはない。心から歌われている曲が好きな人たちに届いてほしい作品なんだ」
―あなたはホット・チップのメンバーであり、アバウト・グループのメンバーでもあり、そしてソロとしても活動されています。そうした様々な活動の中で、ソロとしてのキャリアはあなたの中でどのような意味合いやポジションに位置づけられるものなのでしょうか?
アレクシス「ソロは僕にとってとても大きなものだよ。14才の時、まずソロとして僕は音楽を作りライヴでプレイしていたからね」
◎Alexis Taylor / I'm Ready
―ソロとしては今回の『ピアノ』も含めると3枚目のアルバムをリリースされています。その中で、今回の『ピアノ』は、あなたにとってこれまでの作品とは違った特別な意味を持つ作品、と言えると思いますか? だとするならば、それはどのような理由で?
アレクシス「もちろん違った意味を持っているよ。なぜなら新たな環境下で作られた新しい作品だからね。しかし大きな違いは、この作品はピアノ、オルガン、ヴォーカルのみの最も使用楽器が少ない作品であるのに、アルバム全編を通して僕が他の誰かと作った最初の作品なんだ(Shuta Shinodaがエンジニアとしてアルバムをレコーディングしたんだ)。あと、自宅ではなくレコーディング・スタジオで作られた僕の初めての作品だね。サウンドも全く異なっているよね。僕の他の作品ではレコーディングやプレイに対してのアプローチはもっと実験的だけど、この作品はより古典的だ」
―今回の『ピアノ』を聴かせていただいて、過剰にドラマチックな演出をすることなく、聴き手に語りかけるような歌声や音色の親密さに強く心が揺り動かされました。今回のアルバムを作るにあたって、あなたの中でもっとも大切にされたことは何でしたか?
アレクシス「演奏だね。好きだけどライヴの演奏で説得力がなく感動を呼び起こさない曲は、あえて忘れるようにした」
―以前にソロ用に書かれていた曲はアバウト・グループの2作目『スタート・アンド・コンプリート』に使われた、とのことですが、その時に書かれていた曲と今回のアルバム用に書かれた曲とで、一番の違いを上げるとするならばそれは何でしょうか?
◎About Group / Don't Worry
アレクシス「『スタート・アンド・コンプリート』の曲は元々はソロのピアノで僕一人で全くのソロとしてレコーディングされたんだ。けど、アバウト・グループのセカンド・アルバムとして、リハーサルもなくアルバムそのままのライヴでのアレンジで一日で再レコーディングしたんだ。その中の曲のいくつかはこの作品でも使用されている。僕のソロの曲の多くは、声と一つの楽器だけでの演奏となったら、同じようなフィーリングを持っているんだ。新しいソロのヴァージョンとアバウト・グループのヴァージョンとの間にある大きな違いは、プレイ自体と僕、チャールズ、パット、ジョン(注:アバウト・グループのメンバー)によるインプロヴィゼーションだね」
―楽器はピアノのみ、という極めてシンプルな作品を作り上げる過程は、あらためて自身のソングライティングを見つめ直す機会でもあったと想像しますが、その点で新たな発見や気づきのようなものはありましたか?
アレクシス「このアルバムは僕のソングライティングの片面のみを反映していると思う。ホット・チップの共同ソングライターであるジョー・ゴッダードとの曲はこの作品の曲とはかけ離れているよね。この作品にはより精力的なソングライティングのスタイルと、遊び心と自信にみちたヴォーカルがある。対して、一緒にダンスミュージックを作り、互いのアイデア、個性、エネルギー、提案を利用するのがホット・チップのやりかただよ」
―リリックについては、どのようなことがテーマになっているのでしょうか?
アレクシス「愛、喪失、音楽、友情、神学、紛争、光、いろいろだね」
―今回の楽曲の中で、自分の素の部分、プライヴェートな心情がもっとも赤裸々に表現されている曲を挙げるとするならば、それはどの曲になりますか? あるいは、ストーリーテラーとして最も手応えを感じた曲を選ぶとするならば?
アレクシス「”So Much Further to Go”と”I Never Lock That Door”かな」
◎Alexis Taylor / So Much Further to Go
―最後に、あなたにとってフェイバリットのシンガーソングライターを教えてください。出来れば理由も併せて。
アレクシス「プリンス。彼の深い感情、自信、崇高、プロダクション、創意、ユーモア、セクシュアリティ、ドラムプログラミングだね。あと、彼の感動的な能力。EU離脱の国民投票がおこなわれた直後のグラストンベリーで彼のレコードをかけている時に、未来に対しての彼のヴィジョンと、生活を変える恐ろしい出来事だけどダンスしてメイク・ラヴをしよう、という彼の呼びかけを感じとったんだ。そうした僕を涙させるような、彼の感動的な能力」
◎Alexis Taylor / Old Friends 4 Sale (Prince Cover)
取材・文 天井潤之介/interview & text Junnosuke Amai
企画・編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara
ALEXIS TAYLOR 『PIANO』
アレクシス・テイラー『ピアノ』
発売中
【収録曲目】
1. I’m Ready
2. So Much Further to Go
3. Crying in the Chapel
4. Without Your Name
5. In The Light of the Room
6. Lonely Vagabond
7. Repair Man
8. Don’t Make My Brown Eyes Blue
9. I Never Lock That Door
10. Just For A Little While
11. Don’t Worry
https://www.amazon.co.jp/PIANO-ALEXIS-TAYLOR/dp/B01FK5NOT8
関連記事のまとめはこちら
http://www.neol.jp/culture/
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