古舘佑太郎 「青春の象徴 恋のすべて vol.6」
NeoL / 2016年10月15日 2時51分
![古舘佑太郎 「青春の象徴 恋のすべて vol.6」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/neol/neol_50112_0-small.jpg)
古舘佑太郎 「青春の象徴 恋のすべて vol.6」
僕の脳みそは、どうやらあまり勉強向きではないようだった。クラス内での学力ランキングは、いつだって下から数えた方が早く自分の名前を見つけられた。小学校五年生にもなると、算数の授業は、クラスごとで行われるのではなく、学年全体での一斉テストを元に、点数順に三つのランクに分けて、受けることとなった。Aクラスは、学年トップの先鋭15人ほどが集まり、算数科の一番偉い先生が請け負っていた。Aクラスの「A」は”エリート”のAだと僕は思った。これが社会の縮図か、とさえ本能で感じ取っていた。Bクラスは、平均的な生徒たちで、彼らはいつもの自分たちの教室で、今まで通り担任の先生に教わることとなった。そしてCクラスと云えば。もう説明する必要がないだろう。学年下位15人が集められた、吹き溜まりのようなクラスであった。Cクラスの「C」は、”失格”のシー。教室も、狭く、先生ももっぱら若い女性講師であった。人間失格。案の定、僕はCクラス認定を受け、毎週水曜日と金曜日の算数の授業になると、クラスメートを横目に、廊下の一番奥の多目的教室へと向かう羽目となった。ただ、一つ僕は声を大きくして言いたい。この現実を受け、全然落ち込んだり、恥ずかしいという気持ちにはならなかった。何故かと云えば、まずは簡単な話だ。人間失格”C”クラスには、なんとユータとセイヤがいた。僕のクラスからこの3人が代表として選ばれたわけだ。どう考えても嬉しいに決まってるではないか。そして、追い打ちをかけるようにして誇りに思わせたのは、他のクラスから集まった逆先鋭たちの、まぁ面白いことなんの。僕らの学校は、他のクラスの教室には絶対入ってはいけない、というかなり厳しいルールがあり、あまり他クラスとの交遊がない。それに、クラス替えも一切ないため、他クラスと云えば、ちょっとした外国のような存在であった。つまり、勉強が出来ないお陰で、僕ら3人は長い鎖国の時代から解き放たれたのだ。さしずめ、算数界の”ジョン万次郎”とでも云うべきか。とにかく、海の向こうは僕の常識を遥かに超えていた。
まずは、右斜め前の席に座るコッサンは、制服のズボンに長いチェーンをぶら下げ、頭にバンダナを巻き、いつも英語のラップを口ずさんでいた。意味はよくわからなかったが、1分に一回は「ファッキン」と云う単語が聞こえてきた。その度に、セイヤはクスクスと笑っていた。僕は、セイヤに
「ファッキンってどう云う意味なの?」
と聞くと、セイヤは決まって、
「エロカッコイイやつ」
と答えてきたので、意味不明だった。コッサンは授業中なのにも関わらず先生を無視して、僕に色んなことを教えてくれた。その大半が、アメリカでのラッパー同士の紛争についてだった。毎週ごとに、色んな奴が死んだ。そして色んな奴がそれを歌にしていた。僕にはよくわからなかったが、コッサンのお陰で、2PACと云う男は凄い人なんだ、と認識した。事実上、このクラスの実権は先生ではなくてコッサンが握っているように見えた。
そしてもう一人。教卓の真ん前、最前列に座る彼の名はニシちゃんと云って、低学年の頃は他のクラスにもその名が響き渡る、喧嘩っ早い暴力少年だった。僕も正直、ついこの間までは恐怖に慄いていた。ひょろっとした体に危なげな目つき、そしてよく右腕にギブスをしていたせいで、なるべくなら近寄りたくない存在だった。しかし、このクラスで机を並べる彼は、今までのイメージの真逆を行く性格だった。彼のことをよく知る人物に話を聞いたところ、この4年生と5年生の間に、考え方が180度変化したらしいのだ。彼は、人を殴ることよりも、人に優しさを分け合うことに生きる喜びを見出したようだった。その結果、彼はいつもポッケいっぱいに煮干しを詰め込んで来て、会う人会う人、皆に煮干しを配るようになっていた。
そのお陰で、多目的教室、僕らの吹き溜まりは、いつも煮干しの匂いが充満していた。ある時、僕が煮干しを齧りながら、
「なんで、配ってんの?」
と尋ねると、
「迷える子羊たちを救いたい」
と、即答で答えた。そして、何故かユータを見るとすぐさま追いかけて、ユータの股間を揉みしだき、
「迷いすぎだよ!」
とユータに伝えていた。ユータは股間が痛くて絶叫していた。ニシちゃんは恐ろしく勉強ができない。多分、このクラスでも1番と云って良い。定規とコンパスを使って二等辺三角形を書きなさい。という問題を、ささっと手書きで書き上げていたのを目撃したことがある。因みに、ニシちゃんはとても有名な歴史上人物の子孫であった。奇才のオーラは、遺伝か。はたまたDNAの悪戯か。僕らも先生も手に負えないほどの男であったが、見ていて飽きなかった。
他にもこのクラスには沢山の面白い友達がいたが、全部紹介するのは大変だ。それほど色が濃かった。僕は、正直このクラスでいることを、五年生の間ずっと誇りに思っていた。Aクラスの”エリート”の人たちが羨ましいとも、Bクラスの人たちに劣等感を抱いたこともない。何故なら、Bクラスなんて、”凡人”のBとしか思えなかったからね!
古舘佑太郎
ミュージシャン。ロックバンド・The SALOVERSを、2015年3月をもって無期限活動休止とする。現在、ソロ活動を開始。2015年10月21日アルバム「CHIC HACK」を発売。2016年11月9日1stフルアルバム『BETTER』をリリース。http://www.youthrecords-specialpage.com
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