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Animal Collective『Painting With』Interview

NeoL / 2016年11月5日 21時35分

Animal Collective『Painting With』Interview

Animal Collective『Painting With』Interview



今年の初め、最新アルバム『ペインティング・ウィズ』をリリースしたアニマル・コレクティヴ。かれらが音楽をつくり始めてから早15年ちかく。スタジオ・アルバムだけでもすでに10枚を数えるが、なかでも今回の『ペインティング・ウィズ』は、その創造性あふれるサウンドがさらに新たな扉を開いたことを窺わせる一枚、と言っていい。パーカッシヴなビートやカラフルな電子音が映えるモダンなプロダクション。いっそう輪郭鮮やかに絡み合う多彩なヴォーカル・ワーク。そして何より、昨今のメインストリームのポップやR&Bにも通じる、しなやかに脈打つダンス・グルーヴ――。そんな意欲作を引っ提げてサマーソニックの深夜のイベント、HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER出演のために来日したかれらに、アルバムのことはもちろん、シンパシーを寄せるというケンドリック・ラマーやLGBT問題について、さらにいまのアメリカをテーマに話を聞いてみた。




―最新作の『ペインティング・ウィズ』はこれまでのアルバムとは違い、スタジオで一から曲作りが行われたということで、いろいろと新たな試みや発見があったと思うのですが。



―ノア・レノックス(パンダ・ベア)「そうだね。今回そこが一番難しかったかもしれない。ライヴ用に表現できるようにシステムを構築し直すっていう。ライヴで一切演奏しない状態でレコーディングするのが初めてだったわけで、ライヴするにあたって一人一人の役割分担を決めたりとか、どれだけライヴで再現するのか話し合ったりとか……。あと、ライヴでドラムのジェレミー(・ハイマン。ポニーテイル、ボアダムスetc)と初めて一緒に演奏するわけで、そこでの絡みとか考えなくちゃならないことがあったからね」



――今回の新曲をライヴで再現する際のポイントとは?



―ブライアン・ウェルツ(ジオロジスト)「まあ、全体的に曲が長いってことはあるかもしれない。あとはアルバムよりも少し要素が少なくなってたり……とは言ってもまあ、ほんの少しだけど」




―デイヴ・ポートナー(エイヴィ・テア)「リサイクルした結果、省略されたというか……まあ、ライヴの方が全体的に緩い感じではあるよね。スタジオではもっとエレクトロニックなリズムを中心に音を組み立てていったというか。ライヴをやるときにはジェレミーも入ってくるから、それも考慮しつつ全体的にオープンで緩いという。ライヴのほうがアルバムよりもジャムっぽいかもしれない」



――今回のアルバムは、過去にマイケルやリアーナも録音したことがあるハリウッドのスタジオでレコーディングが行われたんですよね。



―ノア「まあ、たまたまというか。実はあのスタジオの前にロンドンとパリのスタジオを予約してあったんだけど、どちらも直前になってキャンセルになっちゃって。しかもレコーディングが始まる寸前で……で、なんやかんやいろいろあって、直前になって急遽あのスタジオが候補として挙がったというか。どこでもいいかからとにかく使えるスタジオを探しまわってたっていうだけで、デイヴはとくに気乗りしてなかったけどね。スタジオがある場所がロサンゼルスで、デイヴの住んでるとこでもあるし。本来なら知り合いとか誰もいないところにスタジオを借りて、レコーディングだけに集中できる環境で作業するのが好きなんだ。ただ、話を聞いてみると今回のアルバムで求めている方向にも合ってる気がしてね。結果的にあのスタジオでレコーディングできて良かったとは思うけど、最初は他に選択肢がないからやむを得ずっていう感じだったんだ」




――そういえば去年、今回のアルバムがアナウンスされる前に“Michael, Remember”という曲を公開されましたけど、あれは――



―ノア「“Michael, Remember”は、2週間で作った曲なんだけど……みんな離れて暮らしてるから、それぞれが自分のパートを作って、やりとりしていった感じで。それで2015年の5月だったかにノースキャロライナに集まって、完成させたという。ただ、機材をセットするだけで最初の何日かは完全に潰れちゃったけど。でまあ、その設定でどんな音が出るのか、感触を確かめながら作っていったという」



――てっきり、今回のアルバムのレコーディングで使われたスタジオにちなんで付けられたタイトルなのかと。



―ノア「いや、あれは何て言うか、ジョークみたいな……」



―ブライアン「ハハハハ」



―ノア「とりあえずマイケル・ジャクソンとは全然関係ないんだ(笑)。ちょっとおふざけみたいな」



―デイヴ「友達のスタジオでインプロヴィゼーション的に作った曲だよね」



―ノア「あれはマイケルと同じスタジオでレコーディングするってことが決まる前に作った曲だから」


――ただまあ、とはいえ今回の『ペインティング・ウィズ』の曲って、これまでの作品と比べるとR&Bとかブラック・ミュージックっぽい要素が強く感じられると思うんですね。とくに“Vertical”とか“Bagels in Kiev”とか……そう言われて思い当たるところはありますか?



―デイヴ「実際、3人ともマイケル・ジャクソンの大ファンで、子供の頃から聴いてるからね。自分達でも気づかないうちにR&Bから影響を受けてたのかもしれないし……。もともとこのバンドを始めた2000年前後に、あの時代に流行ってたティンバランドとかアリーヤとかのプロダクションにハマってて、すごくインスパイアされてたこともあるし。具体的なサウンドっていうよりも、そのユニークさっていう部分においてね。誰にも真似できないユニークなサウンドを作ろうという姿勢というか……。あとは今回のアルバムはエレクトロニックってことを前提にしてるから、それでブラック・ミュージックな要素が色濃く出ている印象になってるのかもしれないよ。ただまあ、それだけではなくて、オーガニックな感触も取り入れつつだけど。全体的にエレクトロニック色が強い作品になるだろうってことは感じていたし、自分達なりにブラック・ミュージックやR&Bから影響を受けた結果が、今回のアルバムの形に出てるってことなんだろうね」



――ちなみに、最近の音楽でとくに刺激を受けたものといえば?



―デイヴ「ケンドリック・ラマーとか、最近3人の中で盛り上がってるよね」




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――ケンドリック・ラマーのどこに一番惹かれます?



―デイヴ「やっぱり、ミュージシャンとしての姿勢に共感できるというかね。自分達も日々いろんなジャンルの音楽を聴いてるわけで、ケンドリック・ラマーもきっとそんな感覚なんだろうなって、そこがまさに現代的なヒップホップって感じがするんだ。作品を聴いてるとやっぱりいろんな音楽に影響を受けてるなっていうのがわかるし、ジャズとかもともと自分も好きで、ここ最近の何年か3人とも前にも増して聴くようになってるんだけど、そういう影響が垣間見えるところとか。あとはライヴだよね。生楽器を取り入れてたりとか……そういうところが、ここ5年か10年くらいのブラック・ミュージックやR&Bよりもオーガニックな色合いが強くて、すごくいいと思う」



―ブライアン「あと、全体的な構成の仕方とかも面白いよね。いくつものセクションに分かれてて、それをあちこちで活用しながら全体を組み立てていくみたいな……だから、エレクトロニックなんだけどオーガニックで、ある意味コラージュ的というか。そこがまた面白いと思うんだよね」



――サウンド的な魅力もそうですが、一方で、作品の背後にあるストーリーや政治的なメッセージについては、率直にどう思いますか? 共感する部分もある?



―ノア「まあ、共感というと、すごく個人レベルの話になってしまうけど」



―デイヴ「自分もまさにそこに賛同するみたいなね」



―ノア「そう、賛同してるような」



―デイヴ「ケンドリック・ラマーは自分のいるコミュニティに向けて、ああいう政治的なメッセージを発しているわけで、自分達はブラック・カルチャーの中で育ったわけでもないし、ゲットーで暮らしたこともないから。だから、共感って言ってしまうと言葉は強いかもしれないけど、彼がやっていることに対してはすごくいいなと思うし、自分のコミュニティのために何かしたいっていう姿勢は共感できるよ。しかも、それをすごくポジティヴな形で伝えてて、それがすごく新鮮だよね。その伝えているメッセージが、ここ最近の世界の各地で起こってることにも当てはまるような気がするし……過激な表現であるとか、そういうことは関係なしに音楽を通じてこういう形でメッセージを伝えていくこともできるんだなっていう。そこもすごく新鮮だよね」



――あなた方はこれまで、アニマル・コレクティヴとして政治的なメッセージを発信することは意図的に控えている、と語ってこられたと思うんですね。ただ、そうも言っていられない状況がいまのアメリカでは起きてるのかな、という気もするのですが。



―ノア「まあ、たしかにそう思うこともあるよね。実際、ノースキャロイナで起こったことで……」



―デイヴ「こないだ法改正があってね」



―ブライアン「そう、たとえ性同一障害でも自分の出生証明書にある性別のトイレを使わなくちゃいけないっていう法律が決まって、それに対する抗議に少し関わったりはしたよね」



―ノア「まあ、あれはわりと関わりやすいケースではあったからね」



―ブライアン「実際に抗議活動に参加したりとか、特定の候補者を支持するようなことはしてないよ。ただ、このあいだアメリカ大統領選の日に自分達がどこにいるのか調べたら、ちょうどツアーでフロリダあたりにいるかもしれないことがわかって。今回の選挙の鍵を握る州だから、選挙権のある若い人達に向けて何か発するべきなのか考えたりもしたし……って、まだ何も決まってないけど。できれば選挙の日にフロリダにあたらないといいと願ってる(笑)」
デイヴ「関わらないで済むようにね(笑)」



――そのLGBT差別の州法に対する抗議うんぬんって話は、先日リリースされたライヴ音源のチャリティ・アルバムのことですよね。あれはどういった経緯で?



―ブライアン「あの頃、ちょうどその法改正に反対するバンドやアーティストが、ノースキャロライナのライヴをキャンセルして抗議するっていう運動が起こってて。もともとは音楽ジャーナリストの呼びかけから始まった企画だったと思うんだけど、〈Merge〉とか地元のレーベルにも呼びかけて、ライヴをキャンセルするよりも抗議活動の場として活用することを提案したんだよね。ライヴの会場で法改正に反対するチャリティ団体とかNPOが啓蒙活動をしたりして、バンドのほうもライヴの収益の売り上げを支援活動に寄付したりとか、そうした一連の流れに僕らも賛同したという」



――ところで、このあいだポートランドのラジオ局の企画で、「90年代」をテーマにしたミックステープを公開されてましたね。(※https://www.mixcloud.com/GalaxyMyDear/galaxy-my-dear-56-july-19-2016-w-animal-collective-guest-mix/)。あれを聴きながら、やっぱあの時代の音楽って特別だな、となんだか感慨深くなってしまったんですけど……。



―デイヴ「まさにドンピシャの世代だからね(笑)」



――あの時代の音楽にはあって、今の時代の音楽には失われてしまったものとは?ともしも聞かれたらとしたら、何と答えますか?



―デイヴ「まあ、全部の音楽にあてはまるわけじゃないけど、あのミックステープのテーマの一つとして、90年代特有の、いわゆるローファイで、アマチュアな感じの音楽を取り上げようというのがあって。自分達もまさにそういう音楽に影響を受けたクチだから。レコーダーさえあれば、それがどんなに粗末だろうが(笑)、音楽を作ってしまうっていう。自分達が音楽作りに目覚めたきっかけが、まさにそういうところにインスピレーションを受けてだったから」




―ノア「あと、多感な時期に聴いた音楽だからこそ思い入れが強いってこともあるんじゃないかな。たぶん、今新人と言われているバンドにとっては、2000年代の音楽が一番思い入れがあって輝いてるんだろうし。やっぱり、時代によって音楽のテイストが違うよね。90年代の音楽は、僕達にとっては一番甘くて馴染み深い味なんだ(笑)」



―ブライアン「まあ、ノアが今言った通りだよね。90年代の音楽が必ずしもベストとは限らないけど、ちょうどいま、ここ最近のインディ・バンドによる紹介とかもあって、90年代の音楽が再び注目されてたりとかしてて……ただ、自分達の聴いてた90年代の音楽とは若干違うかなって感じがしてて。自分達が聴いてたのは、90年代でももっと歪んだマイナーな感じの音楽をやっているインディ・バンドがむしろ中心で……この番組を企画したラジオのプロデューサーは友達でもあるんだけど、彼もどちらかと言うと同じ90年代でもわりと変な音楽のほうが好きで、そっちにもっとスポットライトをあてようと思ったんだよね。あまりにも変わりすぎてて、時代に置き去りにされてしまった音楽を、再び発掘しようというね」



photo Akihito Igarashi(TRON)
interview & text Junnosuke Amai
direction&edit Ryoko Kuwahara





Animal Collective / Painting With (jake-sya)(HSE-1052) resize


Animal Collective
『Painting With』
発売中
(Domino / Hostess)
https://www.amazon.co.jp/Painting-Animal-Collective/dp/B018RLBA8E
https://itunes.apple.com/us/album/painting-with/id1058904300






Animal Collective
1990年代半ば、ボルチモアの友人同士で自然発生的に結成。2000年、デビュー・アルバムとなる『スピリット・ゼイアー・ゴーン、スピリット・ゼイヴ・ヴァニッシュド』を自主レーベル<Animal>からリリース。アルバム毎に参加メンバーが異なる不定形コレクティヴとして数枚のアルバムを発表、アンダーグラウンド・シーンで注目を浴びる。2004年<FatCat>より『サング・トンズ』(04年)、続いて『フィールズ』(05年)を発表すると世界的な絶賛を浴びる。その後UK人気レーベル<Domino>と世界契約を結び、07年に『ストロベリー・ジャム』、09年に『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』、12年に『センティピード・ヘルツ』をリリース。どの作品もその年を代表する傑作として高い評価を受け、数々の年間ベストに選出される。16年、4年振りとなる最新作『ペインティング・ウィズ』を発表、8月にはHOSTESS CLUB ALL-NIGHTERにヘッドライナーとして出演を果たした。
http://myanimalhome.net/

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http://www.neol.jp/culture/

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