『The Neon Demon』Nicolas Winding Refn Interview
NeoL / 2017年1月4日 17時0分
『The Neon Demon』Nicolas Winding Refn Interview
鬼才。いや、我々はむしろ彼を、モンスターと呼ぶべきなのか。何れにしてもレフンの作り出す強烈なヴィジュアリティは、観る者の目を見開かせ、畏怖の念すら起こさせる。そしてこの怪人の放つ最新作が『ネオン・デーモン』だ。幾度も孵化し続ける蝶のごときレフンが本作で描くのは、ファッション・モデル界を舞台にした寓話的な絵巻物。もちろん一筋縄では行くはずもなく、やがて狂気は静かに美しく暴走し、想像の範疇をはるかに超えた展開へーー。
取材部屋に現れたレフンは思いのほか、家庭的なお父さんと言う印象だった。殺到する取材の中、どうにか時間を作って自分用のフィギュアを買いに中野ブロードウェイに、そして子供達へのお土産を買いにジブリ美術館へ行きたいと口にし、ふと表情を緩める。しかし、いざクリエイティブについて話題が移ると、「映画」という概念にとどまらない非常に鮮烈な言葉が飛び出した。なぜ常識を覆し続けられるのか。そのパワーの源は何なのか。このインタビューを通じて、未知なるレフン・ワールドへ迫ってみたい。
————いやはや、今回も強烈な作品でした。前作のライアン・ゴズリングから今回の新作ではエル・ファニングへと主人公の座がバトンタッチされています。二人はいわば唯一無二のレフン・ワールドからやってきた親善大使とも言える存在かと思いますが、彼らが持つレフン作品の主人公たり得る資質とは一体どのようなものなのでしょう?
ニコラス・ウィンディング・レフン(以下、レフン)「だって、二人ともまるで火星から来たみたいだろ?それくらい飛び抜けてユニークなんだ。他の誰とも違う。なのに、何かこう、ぐっと共感できる部分を持っている。彼らは『現実』と『映画』の狭間にある世界を、どちらに振り切れるということなく歩き続けることができる人たち。それでいて、まさに私の分身のような存在とも言える。今回の『ネオン・デーモン』でも、エル・ファニングがどんどんデーモン化していくにつれて、私自身の“乗り移った感”はどんどん高まっていったね(笑)」
————田舎から上京してきたヒロインがオーディションに受かり、あどけない表情が徐々に変化し自信をみなぎらせていく様は観ていて圧巻でした。
レフン「うん、私はトランスフォーメーション(変化・変身)という概念がすごく好きなんだ。実は過去の作品でも全て一貫してこの概念を投影させていて、毎回、全く異なるストーリーの中でこのテーマを成立させようとするものだから、それはそれで随分と頭を悩ませることになるんだけれど」
————なるほど。そのトランスフォーメーションをもたらす一因として、『ネオン・デーモン』では“美への執着”が描かれます。しかも何かを破壊してまで願望をかなえようとする壮絶な過程を垣間見た思いがしました。これはレフン監督の映画作りやクリエイティブに関する姿勢、向き合い方とも共通するところがあるのでしょうか?
レフン「そうだね、私にとってのクリエイティビティもまた、ある種の“破壊”を伴うものだ。その破壊された残骸の中から再び何か新しいものが生まれてくるものと考えている。壊して、再構築する。それがクリエイティブの基本だと思うし、私が映画を作り続ける意味と言ってもいい。
また別の言い方をすると、クリエイティブとは、あるいは欲望を掴み取る行為とは、絶対に手に入れられないものをどうにかして手に入れようともがき苦しむ事でもある。でもいくらそう望んだところで、欲しいものはいつもスルッと手からすり抜けていってしまう。だからこの過程には終わりがないんだ」
安定とは、私にとって不健康そのもの
————いま、“破壊”問いう言葉が出ましたが、既存の概念を壊すためにはとてつもない意志や勇気が必要だと思います。それを打ち破るにあたって恐怖を感じますか?
レフン「もちろん恐怖は感じるよ。誰だって安心を好むし、安心できる場所に留まっていたいと願うものだから。けれど、ことクリエイティビティに関して言えば、“安心”は目指すべき場所の真逆に位置するものだと思う。結果、これはあくまで私の考え方に過ぎないが、安心、安定というものは不健康そのものと言えるだろうね」
————どうやってそれほどの表現に対する強靭な意志を獲得できたのでしょうか。幼い頃からご両親にそのように教えられたとか、学校で学んだことが実ったとか、才能を実らせた背景があるのでしょうか?
レフン「私の人生?そんなの面白くもなんともない、フツーの人生さ。デンマークで生まれて8歳の時にニューヨークに移り、両親もフツーだった。もちろんトラウマ的な出来事や事件に見舞われたこともない。だったらどうしてこんなになったのかと思われるかもしれないけれど、それはこっちが聞きたいくらいだよ(笑)。
ただ、昔から『普通に生きて何が楽しいんだ?』と自分に問いかけるタイプの性格ではあったな。それにディスレクシア(失読症)を患ってもいた。そう聞くと日常生活における負の側面にばかり目が行くかもしれないが、逆にディスレクシアの人は脳の働きが一般の人と異なるそうで、ある種の制約が生じる一方、ある部分に関してはとてもスマートになるという見解もあるみたいだよ。そうやって脳内の機能を補完しているんだろうね。そう知ってから『これは一つの才能かも』と考えるようになった。脳内でいかなる変異が起ころうとも、それをそのまま資質として肯定的に受け止めるようになったんだ」
「映画とは何か」という命題に興味はない
————監督の作品を拝見していると、もはや映画を超えているのではないかと思うことがよくあります。
レフン「私がよく聞かれるのが、『映画作家として物語よりもビジュアルを重要視しているのか?』ということなんだけど、そう聞かれるたびに『だったら高品質の物語ってどんなものなんだよ?』と問いたくなるんだ。そういった一方的な物の見方はこれから映画が進化していく上での大きな妨げになる気がする。私自身はビジュアルをあえて強く打ち出そうとか、そういった狙いがあって映画作りをしているわけではないし、別に物語をおざなりにしようと考えた試しもない。
私はね、映画の力というものは、それすなわち、“答えがない”ということだと思っているんだ。なんらかの明確な“答え”を導き出す作品があるとしたら、それは映画というよりもむしろ数学のように思えるし、そういったロジスティックな考え方は映画にはそぐわないように私には感じられる」
————監督はこの「映画」という枠組みをどのように捉えていますか?
レフン「私は『映画とは何か?』といった命題にはいっさい興味はないよ。むしろ、「何が映画ではないのか?」といった部分に興味があるのかもしれないな。そう考えることによって、その先に未知なる可能性が見つかる気がするから」
————人は何かをすぐに経験則でカテゴライズしようとしがちですが、そういったことに全くとらわれていないんですね。
レフン「うん、クリエイティブの分野において“定義付け”はできるだけ避けるべきことだと思う。定義することによってその作品を包み込んだ神秘性の皮膜が取り除かれてしまうからね。私にとってはそれだけでも作品の半分に相当するくらいの魅力が損なわれてしまうものと思っている」
————もしかすると、あなたは“映画監督”と呼ばれることにすら違和感を覚えることもあるのでは?
レフン「ははは(笑)。そうかもね、実は肩書き欄に自分のことを『映画監督』と書くのも苦手なんだ。だってそれが意味するところのものが自分の中で全く掴めていないから。また、自分がその定義にふさわしい人間と自称するのはおこがましいという羞恥心もある。職業不定というか、うーん、やっぱり職業は何かと問われたなら『わからない』と答えさせてほしいな」
————つまり、枠にとらわれず、監督自身も常に“トランスフォーメーション”しつづけている、と。
レフン「ああ、自然にそういう風になっていくんだと思うよ。私自身、変わっていくことがすごく楽しみでもあるから。クリエイティビティはその人の絶え間のない欲望の延長線上に発露するものだと思うし、私は、自分の欲望を常に形にして表現できなければ機能できなくなる人間でもあるんだ。
とは言いながら、きちんと現実の世界にも属していたい。何よりも私には妻や子供もいるし、彼らの存在が何よりも大事だという点は何ら変わりはないからね。そのバランスは何なのかといった部分をこれからも模索しつつ、自分の“フェティッシュ”というものを追究し表現していきたいと考えているよ」
『ネオン・デーモン』
2017年1月13日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか 全国順次ロードショー
配給:ギャガ
© 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
公式HP:http://gaga.ne.jp/neondemon/
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http://www.neol.jp/culture/
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