藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#37 アロマテラピー
NeoL / 2016年12月29日 4時20分
藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#37 アロマテラピー
アロマテラピー。
すでに知れ渡った王道ヒーリングメソッドだけど、あらためておさらいしてみたいと思う。今年最後の新月譚として、旧知の友人と会うような感じで、落ち着いて読んでいただけたら。
アロマテラピーとは、直訳すれば香り療法で、植物から抽出されたエッセンシャルオイル(精油)を用いた健康法というのが一般的な定義だ。だが、その香源をエッセンシャルオイルだけに限定せずに、季節の花や潮風の香りで緊張した心が和らいだり、好きな人の体臭に癒されたり、ハーブティーを飲んだりと、香りを楽しむということ全般もアロマテラピーと言えるだろう。
日本には室町時代に整えられた香道があるが、それ以前の仏教伝来と共に香木が伝えらえられ、宗教儀式や平安時代の貴族の遊びやたしなみに浸透していた。もともと自然観察において秀でた繊細な感覚を持っている日本人にとって、香りというのは、おそらく一般市民の間でも随分昔から楽しまれていたと思う。
普段、芸術に無関心な人ですら、冬の焚き火や、街路樹の匂いを口にするくらいだから、香りというのは、生活の彩りとして古くから楽しまれてきたに違いないと思うのだ。
見聞という言葉があるように、嗅ぐという感覚は空気に触れるかのように地味なものとされ、「見聞」より一段低く扱われてきたようだが、きっと私たち人間は、世界を目や耳だけでなく、鼻を使ってしっかりと捉えてきたのだ。もっと嗅ぐことが一段も二段も上がっていいと思う。
そう鼻息を少し荒くした私だが、嗅覚にはちょっとした自信があり、「ん?臭うな」などとクンクンしながら周囲を見渡すことも多く、居合わせた人を怪しませることも少なくない。自分以外は気づかない匂いを探し当てた犬の孤独を、私は少しだけ知っている。
嗅覚が敏感なのは良いことばかりではなく、都会の雑踏においてはむしろその能力を封印しておきたいくらいだ。特に夜更けの飲食店街などにおいては。
数年前から嗅覚に膜がかかってしまった母は、食べ物が美味しくなくなったとぼやいている。老齢が原因なので仕方ないとしても、とても気の毒で、匂いのぼやけた世界というのは、食事だけに限らず色彩を失うに等しいのだろう。
そんな母の事例もあって、今こそ改めて香りを楽しんでいこうと思った次第だ。
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香りが心身を癒す仕組みを科学的に説明すると、五感のうち、視覚、聴覚、触覚、味覚の4つは、思考や言語を司る大脳新皮質を経由してから心身に作用する。つまり一旦ジャッジが入るということ。それに対し唯一嗅覚だけが、感覚や欲求を司りホルモンや免疫系の分泌を促し自律神経を調節する大脳辺縁系へ直接届く。これはつまり顧客とダイレクトにつながっているアマゾンみたいなもので、中間業者がいない分、素早く効果が表れる。嗅いだ瞬間にストレスは柔らぎ、自律神経の乱れが整う。さらに大脳辺縁系というのは、記憶や感情に携わるので、精神的な問題にもすっと効く。また、香りの有効成分は鼻からだけでなく肺や皮膚からも吸収されて、血液や体液により全身にくまなく運ばれて心身に働きかける。
天然素材の良い香りを嗅ぐだけで、心身が整うというのは、とてもシンプルで、クリーンな自然エネルギーで生活するような清々しさを感じる。医療や化粧のために精油を用いていた古代エジプトの頃から数えると五千年以上もの歴史があるのに、とても現代的で未来的な質感もある。これを用いない手はないのではないか。
とはいえ、すでにメジャーなヒーリングである。アロマ用のオイルウォーマーやディフューザーはインテリアとしても部屋に馴染むし、それがあるだけで、知的で健康的な演出となりえる。さらなる利点として、見る、聞く、食べる、着るに留まらずに、香りを楽しむ日常がある人は、目に見えない何かを愛でることが出来る人として、感覚の豊かな人として、相手に好印象を一つ加えることができると思う。
日本には香道というものもあるし、ヒーリングと分けて見ても、香りを楽しむというのは、粋な遊びだと思う。
厭世的な物言いをするつもりはないが、所詮この世に生きるということは、遊びでしかないと私は思っている。好みの人と、好みの場所で、好ましいことをする。それに尽きるのではないだろうか?そういう当たり前を夢物語だの、白昼夢だのと揶揄するのは簡単だし、揶揄以前にぴんとこない人ばかりが群衆として世を闊歩しているのなら、私はなんとも時代外れのまさしく一門外漢でしかないのだが、それを知って敢えて言えば、香りを愛でるというのは、鳥が歌をうたうが如く、ごくごく自然な遊びだと思う。そして遊びのない人生は、せいぜい見栄えの良い双六程度の紙一枚に過ぎないのではないか。
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ちょっと話が逸れてしまったが、要は、香りを遊び、ヒーリングとして楽しむのは、結構素敵です、と言いたかったのだ。
で、道具などについて言うなら、エッセンシャルオイルは水には当然溶けないが、水や湯に浮かべて熱すれば、揮発して空気中に広がる。つまりオイルの香りを楽しむには、温める何かが必要になる。そのための主なものとして、前述のオイルウォーマーや、ロウソクの代わりに電球の熱で温めるアロマライト、霧状にして拡散するディフューザー、のいずれかが必要になる。自分はオイルウォーマーを使っている。ロウソクの炎が見た目にも好きだからだ。安全性ならアロマライトだろうし、拡散させたければディフューザーだろう。浴槽に数滴垂らしてから入浴するのも皮膚から直接体に浸透するので効果的だし、浴室に広がった香りの中での半身浴などは、一日の終わりを豊かに癒してくれる。
他にも、お香やアロマキャンドルなども扱いやすいし、旅先にも持参しやすい。自分がよく使っているのは、ホワイトセージの入ったスプレータイプのもので、ホテルの部屋などで夜をゆったり過ごす時などではお清めとして重宝している。
エッセンシャルオイルはたくさんの種類があるので、時間が許すならば、専門店の店頭で実際にテストするのがいいと思う。
リラクゼーションとして使うなら、単純に好きな香りを選べばいいし、薬効を期待するとしても、まず好きな香りでなければ途中で使いづらくなるので、まずは好みの香りをいくつか持つといいだろう。
たくさんの種類はあるが、ハーブ系、樹木系、スパイス系、樹脂系、エキゾチック系、フローラル系、柑橘系の主に7つに分類される。これら7つから一つずつ選んでおくのもいいし、好きな種類をとことんまで追求するのもいいだろう。
また相性の良い種類の中からブレンドしたりして、自分好みのオリジナルを作るのも楽しい。
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精神にもダイレクトに働くので、現在の自分の状態をカバーしてくれるオイルを選ぶのも、自分と向き合う意味で大切だろう。大きく二つに分けるなら、心を鎮静させてくれるものと、逆に高揚させてくれるものとに分かれるが、あとは香りの好みと、強弱、他の効用などを参考にして選ぶのもいいだろう。
私は、サンダルウッドが大好きで、体への効用よりも、精神的な安らぎを得るために選んでいる。インドに旅する時は、路上などで木片を売っているので、それを買ってベッドの枕元に置いておいたり、カバンに入れて移動中の列車やバスの中で楽しんでいる。また、たった今は、オイルウォーマーにユーカリとティーツリーを入れてある。停滞した風邪を早く治すために、殺菌解毒効果の高いそれらを組み合わせ、その香りの中で原稿を書いているのだが、微熱はどうやら収まったようだ。
そんなに多くのオイルを持っていないので、リストを眺めながら次は何を求めようかと想像するのも楽しい。自然と植物の造詣も深まったり、いろいろな効用に思い巡らすことは健康への日常的な意識を上げたりする。そのことで、病気の予防となるような振る舞いを日頃からできるようにもなるだろう。
まだオイルを買ったことのない人なら、ラベンダーあたりからが入りやすいと思う。万能オイルとされ、まずはこれといったオイルだ。
オイルウォーマーや、ディフューザーなども選ぶ楽しさがある。シンプルなものから、個性的なものまであるが、癒しを考えるのなら、質感の高い、デザインの抑えめな飽きのこないものがいいと思う。
アロマテラピーを入り口として、生活の楽しみ方がきっと一つ増えるだろう。いつもの散歩やジョギング中に、気になった草花の香りの主を探して脇道に入っていったり、その主の想像とは違う様に驚いたり。また敏感になった嗅覚のおかげで、いつもの食事がさらに美味しくなったりと、きっと良いことが多いと思う。
ところで、今年はいかがな一年だったでしょうか?
私自身は、ぬるめのお湯にゆっくりつかるようにして心身を休めつつ、ゆく年来る年を、ちょっと距離をとり、眺めて過ごそうと思います。あまり遠くを見ずに、近くばかりを見るでもなく、特に目標も掲げずに、目の前のことを丁寧に積み重ねていこうかと。両肩の力を抜いて、良い呼吸をとって、ひとつぶひとつぶを楽しもうと思います。
では、良いお年を!
※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#38」は2017年1月28日(木)アップ予定。
関連記事のまとめはこちら
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