△特集: 天野太郎「アートにおける△ 」
NeoL / 2017年2月19日 11時40分
△特集: 天野太郎「アートにおける△ 」
三角、三角形は、占星術から数学といった様々な分野で、古くは紀元前から世界を構成する基本的な形として認識されてきました。また、正三角形は、火、山、神、無限といった意味を持った男性的なエネルギーの象徴として、逆三角形は、水、月、冥界といった女性的エネルギーが宿る象徴として捉えられています。自然界でも多く見られ、中でも多面体の基本は正三角形が多いことが確認されています。正三角形は、形を維持するのに余分なエネルギーを使わずに済み、変形し難いのです。最も安定した力を発揮すると言われている六芒星は、これら正逆三角形を組み合したもので、調和と安定の象徴となっています。
ギリシャの天文学者ヒッパルコス(c. 190 – c. 120 BC)によって考え出された精確な計測法である三角法もまた三角の形状が基本となっています。
このように、三角には世界の基本的な構成要素や安定した状態の象徴として理解され、国を超えて、ピラミッドの形状から、日本の籠目紋に至るまで、そしてジュエリーのデザインや美術等でも好んで使われてきました。
このミニマルな形状で良く知らせたイメージの一つが、臨済宗の禅僧であった仙厓の《○△□》です。仙厓70歳代の頃に絵画的な技術を払拭した独自の手法による「厓画(がいが)無法」の時代の代表作です。□は「徹底した思考」、△は「最終的な解答に在る不完全さ」、○は「悟るとは何か」を示しています。
仙厓 ○△□ 1819〜1828(文政2-文政11)年頃、紙本墨画、一幅、28.4×48.1cm、出光美術館蔵
また、20世紀の美術においても、と訳される。ロシアの芸術家マレーヴィッチが、ソビエト革命前後に提唱した抽象絵画の方法と哲学である絶対主義(シュプレマティズム)は、絵画の再現性を否定し、純粋な感性を絶対のものとする非対象絵画を目指しました。ここでも、矩形・円・十字などと並んで三角形は重要な形態として頻繁に画面に登場しました。
マレーヴィッチ 黒の長方形、青の三角形 1915
特に近代以降は、それまで自然を再現することが絵画の役割でありましたが、観たそのもののイメージが定着される写真の登場によってその使命が失われることになりました。そして、再現することから離れ、抽象的な表現へと移行したり、自然を構成する最小単位の形態である三角形が、純粋で完全な形として美術家たちが希求する重要なイメージとなったのです。
さて三角というのは三つの点を結んで出来る形です。この3つというのは、三種の神器、三位一体、三顧の礼といった具合に奨励されるべき数字として認識されています。2は、あれかこれかの対立関係を生みますが、3にはむしろ安定の意味があるからです。ロッククライミングをする人なら知っている三点確保という言葉も、両手、両足のうちどうあれ3点さえ岩を確保していれば滑落することありません。
ここには、対立するもの同士(2つ)を第3の存在は解決する、あるいは示唆を与えることが想定されます。2点では安定しない状態を3つ目の点が補強し安定を生むというわけです。そうするとこの3つは、それぞれ同等とは限らない場合があります。なぜなら第3の存在は、現実社会でも、喧嘩をしているもの同士(2つ)を仲裁する第3者は賢者であることを期待されるように、しばしば神であったりと、超越的な存在も想定されるからです。
天野太郎
横浜市民ギャラリーあざみ野
主席学芸員
関連記事のまとめはこちら
http://www.neol.jp/art-2/
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