宇宙特集:画家・笠井麻衣子インタビュー
NeoL / 2017年3月29日 17時25分
宇宙特集:画家・笠井麻衣子インタビュー
夢から醒めた / awoken from a dream
2015
油絵という手法をとりながら、常に「物語」を織り込んだイメージを描く画家・笠井麻衣子。日常で目にした光景から想像するものから歩を進め、2015年の『竹取物語』を題材にした個展「おはなしのつづきのはなし」(Yuka Tsuruno Gallery)では、既存のストーリーを自身の中で更に膨らませて描くという試みをスタートした。日本における物語の始祖であり、月の子を描いた『竹取物語』を選んだ理由について、話を聞いた。
——笠井さんの作品は、「おはなしのつづきのはなし」以前から物語性がキーワードになっていますよね。最初はいろんな方のプライベート写真を見て、そこに自分が作ったストーリーを投影していたとか。
笠井「はい、物語のアプローチは大学を出たすぐくらいから始めました。人がいない景色を見て、その中で人物をどういう風にアクションをさせていくとおもしろいかを考えて描くという手法です」
——モチーフでは子ども、特に女の子が多い。なぜ少女で物語が進行させるのでしょう。
笠井「自分や兄弟の小さい頃の写真を見て描いていたのが原点なんですが、そこから進んでいっても大人や男の子をあまり描く気にならなかったんです。意志のしっかりした成人を描く肖像画などは、その人に対して思いを馳せることに限界があるというか……うまく言えないけど、この子が考えていることを知りたいと思えるような存在として、誰しもが自己投影したり、誰かを思い起こさせる依り代として少女が存在している。だから、すぐに感情がわかる表情を避けたくて顔を隠したりもしていて。そうすると見てくださった人から全く予期せぬ感想がもらえたりするのでおもしろいです。
あとは、やはり生命的なものに惹かれているからだと思います。未知のものを生み出すのは女性ですし、宿り方も宇宙的でファンタジー要素を強めている。そういう宿す力と無垢とのバランスのようなものに強く惹かれるんじゃないかな」
——なるほど。私には、初期の“Training”シリーズで描かれた少女たちは、強くあろうとする意志を持っているように見えたんです。それが人を超えた存在を描いた『竹取物語』の世界で飛翔するという作品に繋がるのは自然に思えました。
笠井「ああ、嬉しいです。2015年の展示まではすごくパーソナルなことを描いていたのでうまく伝えきれないことが多かった気がして。それが既存の物語を題材にすることで、ある種の共通認識を持つことができるので逆に表現の幅を広げられると思ったんです。
最初は『竹取物語』を詳しく知らなかったんですが、この頃から絵巻物に関心を持ち始めて、調べていると竹取物語の場面がよく出てくるんですね。それで興味を持って辿っていくと、日本最古の物語でこんなに多くの人に愛されているのに作者がわからないという謎めきにウワッとなって。多くのパロディが生まれているのも、作者不明だから物語を自由に自分の身に置き換えられるというのもあるし、物語自体も自由で、“自由”って人間の一番の強みじゃないですか。それを絵でも伝えたい。そのためには『竹取物語』しかないと思いました」
——静かなお姫様ではなくもっと動的な子たちが登場し、自然もたくさん入っていて、既存のイメージとは違うものでしたよね。あれは月に帰った後のおはなしですか?
笠井「タイトルが『おはなしのつづきのはなし』なので、その後と受けとってもいいですし、それも自由でいいと思うんです。『竹取物語』から発想を得ているけれど、それがわからないと言われても構わないというくらいの感じで描いていて。例えば、三連の大きな作品で、女の子たちが何人か並んで少し跳ねながら歩いているシーンがあるんですが、あれはメインになるストーリーの裏側にいる、本編では登場しない人たちを描いている。私にとって、あの女の子たちは宇宙人なんですよ。無邪気で、無垢な月の子。かぐや姫にあげるための綺麗な羽衣を持って、踊りながら竹やぶを歩くシーンがパッと思い浮かんで。それをどうしても斜め上から見た風景で描きたかった。あの展示は全部、俯瞰してる目線で描きたかったんです」
密かに、大胆に愛でる(光)/ admire secretly and boldly (Sunlight)
2015
密かに、大胆に愛でる(影) / admire secretly and boldly (Shadow)
2015
密かに、大胆に愛でる(風)/ admire secretly and boldly (wind)
2015
やさしい守護者たち / affectionate guardians
2015
——そこまで俯瞰の目線に惹かれたのはなぜでしょう。
笠井「上空から第三者が見ているというのは、絵巻物にも繋がる目線なんです。西洋画は描かれている場面も含め、被写体と目線が伴っていて、鑑賞者と同じ高さになる。日本の絵は、机や床で見る文化だったからか、斜め上の俯瞰図が西洋よりもものすごく卓越しているんですね。昔の四大絵巻はそれこそ作者不明なんですけど、描いていた人たちは自分を何者と思って描いていたのかなと考えたりします。神様だと思って描いていたのか、もうちょっと気軽に鳥が人間を茶化したような目線だったのか。家の中の仕切りも屋根を外した感じで描いているのも、地上の人たちが地上にいる人物を描いたと思えない、客観的すぎる視点なんですよ。実際にそれがどういう意図だったのかはわからないけれど、あの構図が当たり前のように受け入れられているのがすごいと思うんです。一切パースがないので、絵の中で全部が平行で、手前も奥の人も同じぐらいの強さで見えるんですよね。誰がメインでもなく、全部平等に見えるというのも天からの目線っぽい。色も強さも平等に描かれているのが美しさにも繋がっていて、全部にピントが合ってるとも言えるし、逆に全部がぼやけて見えるとも言える。ピント合わせの西洋的な美術の勉強と全く逆のこの視点を、どうしても取り入れたかった」
——油絵で絵巻物の目線をミックスさせるというのはものすごくおもしろいですね。
笠井「こんなことをやっていることを異様にも思うんです。物語を絵画に置き換える必要が果たしてあるのか、絵画とはなんぞやとわからなくなるときもある。そのときに油絵にしてもマテリアルにしても制約がある中でいかに自由に表現をできるかを考えるとおもしろくなってくる。そしてそれが時代とマッチしているかは常に考えています。
例えば油絵は絵画組成ですごくアカデミックなところから学ばなきゃいけない部分もあって、一層目、二層目、三層目があるのが当たり前なんですけど、スピードがはやい現代には沿っていないのではないかと、あえて一層しか塗らない絵を描いてみたこともあります。いまはそうした技法ではなく物語に軸を置いていて、絵画は構図や色合い次第で道がたくさん開いてくるので、それが既存の物語をどう発展させていくかにトライしているところ。『竹取物語』から発展して、聖書を描いた西洋絵画や神話を題材にしたものも描いていますが、それも現代の日本にいる私ならではの視点を入れた、メタ的な表現にしたくて、手こずりながらも形にしていっているところです」
見知らぬ地 / unknown land
2015
夜明け前に / before dawn
2015
(c) the Artist, Courtesy Yuka Tsuruno Gallery
interview & edit Ryoko Kuwahara
笠井麻衣子
1983年、愛知県⽣生まれ、⾦沢美術⼯芸⼤学大学院修了。2008年『シェル美術賞 2008』準グランプリ受賞。主な展⽰に『アーツ・チャレンジ2010』(愛知芸術文化センター、愛知、2010年)、『第30回損保ジャパン美術財団選抜奨 励展』(損保ジャパン東郷⻘児美術館、2011年)、『シェル美術賞 アーティスト セレクション(SAS)』(新国立美術館、2012年)、『VOCA展2016 現代美術の展望 - 新しい平面の作家たち』(上野の森美術館 、東京、2016年)。コレクションにピゴッチ・コレクション、髙橋コレクション、昭和シェル石油株式会社など。
http://kasaimaiko.com
宇宙特集
『Voyage of Time : Life’s Journey』Sophokles Tasioulis Interview
http://www.neol.jp/culture/54182/
関連記事のまとめはこちら
http://www.neol.jp/art-2/
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
ぴいぷる 画家・吉野祥江 「悪」を食べちゃう華ヤギのエネルギーを感じてほしい 夫・ミッキー吉野のゴダイゴに影響され
zakzak by夕刊フジ / 2025年1月15日 6時30分
-
【「オークション 盗まれたエゴン・シーレ」評論】実話にインスパイアされた現代の「金の斧」のような物語
映画.com / 2025年1月12日 19時0分
-
日常の枠を超えた世界を切り取る。大谷尚哉個展「見えていた何か」1月31日より2月12日まで開催!
@Press / 2025年1月10日 10時0分
-
アートは難しく考えずに「ぱっと見」で買うに限る!あとから「この作家さんどんな人なのかな」と世界が広がるから
OTONA SALONE / 2025年1月8日 11時51分
-
【累計20万部突破】大人気の『マンガでカンタン!』シリーズに西洋美術の「名画の見方」が登場! アートブロガーの第一人者と人気コミックエッセイストの強力タッグによる7日間のマンガ講義で、脱・美術初心者!
PR TIMES / 2024年12月26日 11時45分
ランキング
-
138万円で“運転免許不要”な「“軽”自動車!?」がスゴかった! 400kgの“超軽量ボディ”&MT採用の「斬新モデル」! “RR”採用の全長2.7m級“2人乗りマシン”「フライングフェザー」とは
くるまのニュース / 2025年1月19日 16時10分
-
2たこ焼き屋を営んでいた50代男性の後悔。「タコの代わりに入れたもの」がバレて店が潰れるまで
日刊SPA! / 2025年1月19日 8時53分
-
3中居騒動でフジが露呈「日本的組織」の根深い問題 いかに内部が狂っていても外まで伝わらないワケ
東洋経済オンライン / 2025年1月19日 8時40分
-
4睡眠研究でみる「眠りの質」良い人・悪い人の特徴 「よく寝た」と思っても熟睡できていないことも
東洋経済オンライン / 2025年1月19日 12時0分
-
5CM消えた「窮地のフジ」ヤバい会見で見えたリスク ここから起死回生するにはどうしたらいいのか
東洋経済オンライン / 2025年1月19日 8時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください