ローラ・アルバート×アヴちゃん(女王蜂)『作家・本当のJ.T.リロイ』対談
NeoL / 2017年4月19日 12時0分
![ローラ・アルバート×アヴちゃん(女王蜂)『作家・本当のJ.T.リロイ』対談](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/neol/neol_55872_0-small.jpg)
ローラ・アルバート×アヴちゃん(女王蜂)『作家・本当のJ.T.リロイ』対談
1996 年に突如として文壇に現れた天才少年作家 J.T.リロイ。虐待やセックスワーカーとしての体験を綴った自伝『サラ、神に背いた少年』は世界的ヒットを記録し、時代の寵児になった彼。しかしJ.T.リロイという作家は実在せず、著書はすべてローラ・アルバートという女性によって書かれたものだったーー。文壇を揺るがす衝撃の実話を映画化したドキュメンタリー『作家、本当のJ.T.リロイ』の公開を祝し、ローラ・アルバートと女王蜂アヴちゃんによる対談が実現。彼女たちの戦いについて語った。
アヴちゃん「ドキュメンタリーでここまで感動したのは初めてです。フィクションでありノンフィクションであり、その間を紡ぐものとして世界を動かした物語だから、表現をする仕事の人は全員観なくてはいけないと思う」
ローラ「とても嬉しいわ。私は虐待をされて育ってきて、いろんな意味で血を流してきた。ジェンダーに関してもそう。作家デビューした頃は“Gender Fluid(流動的なジェンダー)”という言葉がなく、世間の目はとても厳しかったの。トランスジェンダーというとおかしい、怖いという見方をされていた。生きていたくないと思ったこともあったけれど、いつか自分がひとりじゃないと思えて、他の誰かの人生に影響を与えられたらというのが夢だったから、さっきの言葉を聞いて大切なプレゼントをもらったような気分よ」
アヴちゃん「私も同じような経験をしているんです。全ての経験をして、全部の感情を知って、全てを表現してから死にたいと思っているんだけど、それと同じ想いを映画を観て感じました。自分の経験や感情の全部を書くことができる人はなかなかいないけど、ローラさんはこの映画までの全てを書ききって、今もまだ続きを書いているんだろうなと思います」
ローラ「まさにそう、書いているわ。自分の中の声に突き動かされて、書かざるをえないの。小さいときに虐待を受けたり、トラウマを負った人は、なにかとても大事なものを失ってしまって、もしかしたら一生失ったままかもしれない。まるでイスから足が一本取れているみたいにね。その足を補うために、多くの人は怒りを利用して破壊的、自滅的になるけど、私たちは内側にあるマグマをアートにしている。それは魂がそうせざるをえないからで、誰のためでもなく自分のためにやっていること。同情やかわいそうという声がほしいわけじゃない」
アヴちゃん「わかります。よく思うのが、軽音楽部に入りたくてギターを始めた人と、自分の中にあるウワーッとしたものをどうにか表現するためにギターを始めた人では全く違うということ。周りには軽音楽に入りたくて始めた人があまりに多いけど、この映画を観ると仲間がいたという気持ちになる。
私は、人に感銘を与えて支持される作品の中心にあるのは本人の経験であるべきだと思う。あなたの物語が世界を動かしたのも、経験に基づいたものだから。世の中には本人をスキップした作品が溢れているけど、本来、個人の経験がコアにあって作られるというのは自然なことですよね」
ローラ「その経験に性的欲求や虐待が含まれているからって、オープンに話すことで攻撃されることもあるのはおかしなこと。ちゃんと目覚めていないとセレブがどうしたこうしたみたいなことで関心が終わってしまうけど、私たちにはその目を覚ます役割があるのよ。だから『黙れ』なんて言うなと思う。耳を塞がず、実際に起こっている真実について話さなくてはいけない。声をあげることに、なんの許可もいらないのよ」
アヴちゃん「生きることはファッションじゃないから。真実に向き合うと怖いから、誰かを攻撃したり、追いつめることで安心しようとする人がとても多いけど、私はそれが気にくわない。自分にしても、トラウマのまま傷にして同情されるのがおいしいのはわかっているし、辛すぎて死んでしまう人がいるのもわかっている。でも私の中にはマグマがあるから向き合って戦う。犯されても何されても、心が常に燃えていれば、手を洗って作品にしてしまうことができるから汚されない。それはこの映画からもすごく感じた」
ローラ「そうやって作品にするためには、自分の心をおさえているものを取り除くことが大切よね。自分が経験した苦しみに正直であること、それを何らかの作品に変えていくことで、他の人にも同じ機会を与えることになり、そうやって自分はひとりじゃないと感じることができる」
アヴちゃん「そう。だからリロイを使ってあなたがやったことは、規模は違うかもしれないけど、キリスト教と同じだと思う。ゼウスがいて、キリストがいて、象徴としての十字架がある。リロイがゼウスだと思われているかもしれないけど、実はリロイが十字架で、あなたがジーザスですよね。経験に基づいた物語を媒介に真実を引きずり出したという意味で、同じことをやっている」
ローラ「非常に美しく、隠喩的な例えをありがとう。インタビューなどで自分の話をするたびに心が血を流すのだけど、それはスティグマーター(聖痕)だと思う。『サラ、いつわりの祈り』で娼婦が集っているスリー・クラッチズという所に行く場面があるけど、あれは私とジョアンナと精霊(J.T.)という三位一体を意味しているの。うまく言えないんだけど、J.T.は本当に存在していたのよ。私は嘘をついたのではなく、彼の真実を語っただけ」
アヴちゃん「私も同じで、今回“Q”という作品でお父さんに虐待された少年の曲を書いたんです。それはあなたがJ.T.を媒介にしたのと同じで、虐待された子を媒介にしなくては語れないことだったりするけれど、そこで語られているのはひとりの物語ではなく、みんなの物語なんですよね。世間では虐待をうける人のことを特別視してるけど、誰しもに起きうること。自分をそこから切り離して安全なものにしておきたい人が、封をしたり、いじめたり、追いつめたりする。でも自分にも起きうることだと気付いてほしいし、気付くときがくると思う。私はバンドで、ローラさんは作家さんで、戦い方は違うかもしれないけど、そのときまでマグマを持つもの同士戦い続けましょう」
ローラ「私たちは同じ星の人間ね。私の本を読んで曲を書いてほしいわ。ぜひコラボレーションしましょう。でもね、きっとあなたは音楽だけじゃなく、自分の物語を書くときがくると思う。私たちは音楽や本を使って仲間を次々と見つけ、ヘルプしていくのよ。そうやって真実について綴られた物語を生かし続けていきましょう」
photo Shuya Nakano
interview & edit Ryoko Kuwahara
『作家、本当のJ.T.リロイ』
新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開中
1996年に突如文壇に現れ、女装の男娼となった過去を綴った自伝『サラ、神に背いた少年』で時代の寵児となった謎の天才美少年作家、J.T.リロイ。その才能にほれ込み、映画監督のガス・ヴァン・サントは『エレファント』の脚本を依頼。二作目の著作『サラ、いつわりの祈り』はアーシア・アルジェントによって 2004 年に映画化された。しかし、2006 年ニューヨーク・タイムスの暴露記事によって事態は一変する。
監督:ジェフ・フォイヤージーク(『悪魔とダニエル・ジョンストン』)
撮影監督:リチャード・ヘンケルズ
音楽:ウォルター・ワーゾワ
出演:ローラ・アルバート、ブルース・ベンダーソン、
デニス・クーパー、ウィノナ・ライダー、アイラ・シルバーバーグ ほか
(2016年/アメリカ/111分/カラー、一部モノクロ/1.85:1/DCP/原題: Author: The JT Leroy Story)
配給・宣伝:アップリンク
© 2016 A&E Television Networks and RatPac Documentary Films, LLC. All Rights Reserved.
★サンダンス国際映画祭2016 正式出品★
●公式サイト http://www.uplink.co.jp/jtleroy/
●公式Twitter https://twitter.com/JTleroyMovieJP
●公式facebook https://www.facebook.com/jtleroy.movie.jp/
ローラ・アルバート
1965 年、アメリカ・NY州ブルックリン生まれの女性。J1996 年から J.T.リロイ名義で小説を書き始め、「サラ、 神に背いた少年」(2000)、「サラ、いつわりの祈り」(2001) がベストセラーになる。2004 年には「かたつむりハロルド」を出版。「J.T.リロイ」という名前は、先に自分が創り出していた 2 つの名前「ジェレマイア」と「ターミネーター」の 頭文字と、彼女が相手をしたテレホンセックスの客の名前「リロイ」から取っている。
http://lauraalbert.org
女王蜂
アヴちゃん(Vo)、やしちゃん(Bass)、ルリちゃん(Drums)、ひばりくん(Guitar)。2009年神戸にて結成。2010年7月 FUJI ROCK FES「ROOKIE A GO-GO」に出演。同年11月 ファッションブランド[ヒステリックグラマー]のシークレット・パーティ出演。2011年インディーズにて初の全国流通盤『魔女狩り』を発売し、1万枚の売り上げを記録。9月、ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズよりメジャーデビュー盤『孔雀』をリリース。収録曲“デスコ”が大ヒット映画『モテキ』メインテーマに起用され、本人役で映画初出演を果たす。2012年5月、メジャー2作目となるアルバム『蛇姫様』をリリース。LIVE・リリース共に精力的に活動し、話題沸騰の中、Gtギギちゃんの利き腕の不調による脱退に伴い、2013年にバンド活動を休止。2014年2月、約1年間の活動休止期間を経て活動を再開。活動再開後、NHK「あさイチ」にて地上波初登場を果たし、再び注目を浴びる。2015年1月テレビ東京ドラマ「怪奇恋愛作戦」の主題歌“ヴィーナス”を書き下ろし、初のシングルリリース後、3年ぶりのフルアルバム『奇麗』をリリース。夏には5年ぶりの FUJI ROCK FESTIVAL2015へ出演。
2016年対バンイベント「蜜蜂ナイト」を主催し、 ’’KEYTALK‘’ ’’Tommy heavenly6’’ ‘’チームしゃちほこ’’ などと異例の2マンライブを開催。5月にはVoアヴちゃんによる別プロジェクト’’獄門島一家’’とのスプリットシングル「金星/死亡遊戯」をリリース。2017年4月05日には2年ぶり5枚目のアルバム『Q』をリリースし、オリコンデイリーチャート5位を記録現在開催中の自身最大規模の全国ワンマンツアーは各地チケットがソールドアウト。リリース・ライブともに精力的に活動中。
http://www.ziyoou-vachi.com/
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