藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#45 食事法アップデート
NeoL / 2017年8月22日 10時51分
藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#45 食事法アップデート
これまで数々の食事法を試してきた。ベジタリアンから始まって、それを進めたヴィーガン、さらにはロウフード、フルータリアン、グルテンフリーなど興味と体調を合わせみながら、自分の体を使って試してきた。元々、凝り性であるが飽きっぽい性格の私。自由気儘な遊びとして取り組んだのが良かったのだろう、一つ一つが楽しい経験だった。
で、現在はどういう食生活かというと、過食や添加物や毒になりそうなものは避けるのは前提として、好きな物を好きな時に食べている、という地点に落ち着いている。野菜も果物も肉だって隔てなく食べている。結果、体調もまあまあだし、身長175センチ、61キロというのも無理なく維持できている。自分でも、まずまずだと評価している。
とはいえ、科学は日々進歩しているだろうし、最新の食事法というのを時々は仕入れて試しておこうという好奇心は相変わらずだ。
最近、たまたま部屋を整理している時に、目に付いたアンドルー・ワイル著「癒す心、治る力」という95年に出版された癒しの名著を開き、食事の項目を再読してみると、少なからず時代の流れを感じた。すでに22年前の書物である。普遍的な真理を語っているなあと納得する部分もあるが、ここにではグルテンのことに触れていないなあとか、知識をアップデートしてみたい欲求がむくむくとわくのであった。
さっそく書店に行き、(本を開いて選びたい時は必ず書店へ行くことにしている)以前から気になっていた一冊を買って読んでみた。2014年にアメリカで出版され、翌年に日本でも翻訳が出てベストセラーになったデイブ・アスプリー著「シリコンバレー式自分を変える最強の食事」である。
こういう本に限らず、面白い本には著者の風体が想像できるような、読み進めていきたくなる引力があるのだが、移動時間や待ち時間、ホテルでの就寝前などを使って一気に読んでしまった。
著者自身は、シリコンバレーで若くして成功したIT関係の人で、当時は体重が140キロに迫り、疲れやすく、頭の中もスモッグがかかっているようだったと述懐している。体調は常に悪かったらしい。それから数多の食事法を試しつつ、多くの医者や学者を訪ねて、それぞれの専門分野から得た知見を統合するようにして編み出した食事法が、ここに「最強の食事」として綴られている。
(2ページ目につづく)
その要約を記す前に、彼が若い時に旅したチベットで口にしたバター茶について触れてみたい。
実は、私も20代の頃に旅したチベットで、その味にあずかっている。最初にいただいたのは、ラサのポタラ宮でのことで、宮にいた僧侶に勧められたのだった。バター茶とはお茶にバターを混ぜたもので、これを彼らは毎日魔法瓶からかぶかぶと飲んでいる。高地で暮らす彼らにとって健康維持のための大切な飲料だということは、何の知識も持ち合わせていなかった私にも想像できたのだが、味は決して美味しいとは思えなかった。「最強の食事」の著者であるアスプリーさんは、後にバターコーヒーなるものを生み出し、これはダイエットメソッドとして大ヒットすることになるのだが、そのヒントがチベットのバター茶であったのだ。
アスプリーさんは、帰国後にバター茶の美味しさを再現しようと、お茶にバターをたっぷりと入れて飲んでみたのだが、どうもチベットでの味とは違う。その原因はバターの質にあった。
チベットの牛は放牧され大地に生える草を直接食べて暮らしている。それに対して、アメリカの一般的な牛は穀物や飼料を食べている。その食の違いがそのままバターの質の違いになっていたのだ。食について考える時に、頻繁に持ち出されるフレーズに「あなたは、あなたが食べているもので出来ている」という有名なものがあるが、「あなたは、あなたが食べているものが食べているもので出来ている」という風にアスプリーさんは言い足している。自分が今食べているものが、どういう食物連鎖の中にいるか、どういう環境で育ったのかを視野に入れることの大切さは、例えばホルモン剤入りの餌が、それを最終的に食べることになる私たちの体に取り込まれることを思えば、軽い寒気とともに理解できる。牛を食べることは、牛が食べた草を食べることであり、その草が育った土壌の成分やエネルギーを食べることである。
ただ、理想的な食というのは、作業環境や経済効率を優先している食産業の中では、消費者としては高価なものになってしまう。例えば、テニスのトッププレイヤーであるジョコビッチさんが日常的に食べている健康で清潔な食肉やその他の素材は、誰もが口に出来るものではない。贅沢という意味でなく、真っ当な素材をいただくという意味での美食は、なかなかもはや一般的でないのは残念だ。添加物を多く含む安価な食材をなるべく避けるというのは、健康であり続けるための知恵ではあるが、そこへの意識付けが、現実ではなかなか一般的ではないかもしれない。
(3ページ目につづく)
話をアスプリーさんが提唱する食事法へと戻そう。
彼は、ITで大成功を収めた人らしい例えで、体調を改良していくことを、自身の体をハックすると言う。コンピューターのシステムやネットをハックするように、自分の生態をハックできるのではないかと。「自分の健康をモニターして、気分に、見た目に、仕事ぶりに、人間関係や全般的な幸福にも影響している、隠れた変動要素を見つけ出す」と彼は記している。アスプリーさんは、自分をモニターとして、数え切れないほどのダイエットを選び出し、試行錯誤を繰り返した。
彼の導き出した答えには、にわかには信じがたいものもある。例えば、大豆、果物は、避けるべきリスクの多いものに挙げられている。それに対して、脂肪はたっぷり摂った方が痩せるのだとも言い、自身の経験過程を記している。それぞれに科学的根拠がしっかりとした最新の知見を元に記されているのだから、説得力がある。さらには、最高の飲み物としてコーヒーが挙がるに至っては、軽いショックさえ覚えた。
もちろん、これらには、条件が付く。脂肪ならばなんでもいいわけでなく、上質のものだけがそれを認められている。チベットのバター茶のようなバターコーヒーに入れるバターは、グラスフェッドバターのみに限られている。グラスフェッドバターとは、牧草のみを食べて(グラスフェッド)育った牛のミルクから出来ている物で、さらにココナッツ由来のMCTオイルを加えて、攪拌して飲むだけのもの。だが、グラスフェッドバターやMCTオイルは、結構高価なので、試しづらいのだが、これを朝食代わりにするだけで、ダイエット効果があることが、アメリカのセレブで広まり、ブームになったということだ。
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私は、このバターコーヒーに強く惹かれたのだが、何を隠そう私はコーヒーが体に合わないので試せない。きっとカフェインが合わないのだろう。そう思いつつ読み進めると、著者も実はコーヒーがだめだったのだが、探っていくうちにそれはコーヒーの質が悪かっただけだったと突き止めた。原因はカビであった。彼が紹介しているある研究では、加工前の90%以上の豆がカビ毒に冒されており、また別の研究ではレギュラーコーヒーの50%はカビているとのこと。カフェインのないデカフェコーヒーさえも体に合わなかったのは、デカフェには低品質のカビたコーヒーが使われがちだったからだ。私はそのことを知れただけでも、良かったと個人的には思う。オーガニックで、カビが発生しづらい水洗式で加工された、カビていないコーヒーで、バターコーヒーを試してみようと思う。私自身は、ダイエットの必要性は感じていないが、気分がすっきりして、脳が活性化されたハイパフォーマンス状態で生活する誘惑には、乗ってみようと思っている。
アスプリーさんは、ダイエットだけを目的としているわけでなく、食事を通して体と精神の健康を保つ術全般について詳しく調べ上げて、独自のメソッドを公開している。二週間の食プログラムは、調理法の選択まで考慮した上で出来上がっているもので、要は、体を整え、体を作り、毒を排出するための、最高の方法がメニューとして並べられている。
ダイエット効果を期待するのならば、まずは前述のバターコーヒーを毎朝飲むことが前提になり、その後の一日の食事の中で、上質の脂質と野菜をたっぷり摂り、たんぱく質をほどほどに、果糖は少しだけ、小麦粉は摂らない、をベースにしつつ、あとは個人の体質に合わせてアジャストしていくということになっている。
食事法というのは、今までに無数にあったし、これからも尽きないと思う。科学的論証というのも、アップデートされるので、完成形というのは、もしかしたら無いのかもしれない。個人に合わせても、加齢やコンディション、季節によって、軸も変わるだろう。必要な知識は蓄えながら、身体の声を聞ける感覚をも大切にして、その声を信じることも一つだと思う。何かを試す時はしっかり試し、それに拘らずに、柔軟に順応していく。結局はそんなことだろう、と思う。
※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#45」は2017年9月20日(水)アップ予定。
関連記事のまとめはこちら
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