藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#47 日光浴
NeoL / 2017年10月20日 4時0分
![藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#47 日光浴](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/neol/neol_61427_0-small.jpg)
藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#47 日光浴
この夏に、50の身となった。
早いもので、という気もするし、随分かかったなあ、という気もある。10,20,30,40と区切りの良い年齢はあるけれど、50というのは、半世紀という言葉の迫力もあって、歳なんてどうでもいいと思いつつも、まるっきり無視するのも不自然に思える。でも、本当はどうでもいいのだが、周りは、いよいよですねえ、などと言葉に出さなくても雰囲気で伝えてくる。それに乗って、半生を振り返るような仕草をすれば、割と好きに生きてきたなあと思う。
フリーランスという職業名以上に自由気儘にどうにか生きてこれたのは、運が良かっただけだと思う。その過程で、私から去っていった人、私から去った関係など、やはり恋愛の思い出というのは、人生の大きな彩りであることには間違いない。遠距離も、超近距離もやったが、程よい距離感というのは、おそらく一生かかっても掴めないのだろう。未来に対してため息をつく思いである。もし、これから誰かと親しくなるのなら、距離感はさておき、日光浴を共に出来るような人と出会ってみたいと小さく願う。
日光浴というのは幸福な時間である。
ただ、お日様の光を浴びて、ぼんやりとするのである。
そもそも、私は随分前から日光浴に親しんできた。大方の場合一人で庭や公園などに座って、ぼんやりとしている。それは子供の頃からなので、随分と年季の入った日光浴者である。何か特別に楽しいわけではないが、幸せなのである。
言うまでもなく、この星のほとんどの生物が、太陽光線の恩恵を受けて命を繋いでいる。それはずっとずっと昔からのこと。もし、太陽が消えてしまったら、人間などすぐに絶えてしまうのだろう。それ以前に、そもそも太陽の存在を条件にして地球に生命が誕生したのであり、日光浴というのは、その太陽の恩恵をしかと感じ取る上で、これ以上ないシンプルで優雅な楽しみ方ではないだろうか。
旅行などで外国などに行くと、欧米人はカフェの屋外席に陣取って長い会話や読書を楽しんでいる。彼らは日光を浴びることが大好きで、母国の日照時間の短さも関係しているのだろうが、とにかく日に肌を晒すことが目的でバカンスに出るといってもいいくらいだ。国内でも公園などで時間を過ごす外国人の姿を見ると、わざわざ時間を作って外出し、歩き、軽い運動をし、日を浴びることが、さも人として当然といった感じだ。
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一方で、紫外線の悪影響を懸念する態度もある。
私たち日本人を含む有色人種よりも白人の方がその影響を受けやすく、特にオーストラリア圏ではオゾン層の破壊などの現象と共に、太陽に肌を晒すことへの抵抗が強まっているようだ。悪影響の具体例としては、皮膚ガン、しわ、たるみ、白内障などがある。有色人種は日焼けをすることで紫外線のブロックするのだが、白人は肌が赤くなるだけでブロック効果が弱いために、もろに悪影響を被るということだ。
自然破壊、環境汚染などにより、牧歌的な自然との付き合いが、ここ数十年で急速に対応を変えなければいけないことになっているようだが、実際はどうなのだろうか?恐怖を煽るというのはビジネスの定番手法だからといって様々な危惧を無視するには、それなりの確証が欲しいところだ。紫外線の悪影響を気にすることで、日光浴もままならなくすることは、果たして正しい対応なのだろうか?
まず皮膚ガンなのだが、これそのものは、転移しないため局部治療で済み、死に至ることは少ないガンである。皮膚ガンで亡くなった人をこれまで私の周囲では知らないし、例えば芸能人などの訃報や、何かのニュースで死因が皮膚ガンであることは、聞いたことがない。私が知らないのは偶然だと思うが、皮膚ガンは早期発見しやすく、進行も遅いために致死率が低く、10万人に1.3人ぐらいだ。また皮膚ガンの原因の全てが紫外線というわけでもない。そして、年間の死亡者でいうと、男性で700~800人ほどで、肺がんでのそれが50000人をゆうに超えることと比較すれば、皮膚ガンのリスクに怯える必要はさほどないことが分かる。それよりも肺がん、胃がん、大腸がん、膵臓癌への予防に気を回す方が先決だろう。
もともと地球に燦々と降り注ぎ、命を育んできた日光を恐れるのは、むしろ美容面からの方が遥かに多いのではないだろうか。肌に乾燥などのダメージを与え、シミ、たるみの原因となるのだから、特に女性にとって避けたいのは当然だろう。
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だが、美白を追求するばかり、日光を避け続けるのは、健康を損ない、美容以前に様々な体調不良や病気を誘引してしまうことも知識として入れておきたい。食物から摂取しづらいビタミンDは、カルシウムの吸収を助ける役目があるのだが、紫外線を材料にして皮膚がこのビタミンDを生成する。このビタミンDが不足すると、骨阻喪症や、精神不安定、免疫の低下、冷えなどの原因となる。つまり老化が進んでしまうというわけだ。
ここは悩ましい。短期的な美白を取るか、長期的な本当の意味でのアンチエイジングを取るか。私個人は、男ということもあり、美白にはこだわっていないが、極端な日焼けによる疲労感、一時的な免疫機能の減退、シワやシミは好ましくないと思っている。敢えて日に灼けようとビーチで寝そべっていた事は遠い昔で、沖縄で暮らしていても敢えて肌を灼こうなどとは思いもしないし、普通の生活で灼けてしまうのは仕方がないとくくっている。肩や背中には、かつての日灼けが、シミとなって居座っているが、それはすでに気にしていないが、ことさら増やす気はない。
だがいろいろ思いめぐらした結果、日光を避ける、特に極端に忌み嫌うというのは、やはり不自然だと思う。
人類の尺を持ち出せば、エジプトの第5王朝のレリーフには、すでに日光浴を楽しむ王族の姿があるし、ギリシア時代は、ヒポクラテスをはじめ医者たちから日光浴が勧められてきた。その頃にも皮膚ガンはあったのかもしれないが、それを持っても有り余る効用の方が良しとされたのだろう。
紫外線の効用は、現在では様々に証明されていて、骨の強化、糖尿病の予防、頭痛の緩和、食欲増進、胃腸の調整、歯が強くなる、アトピー性皮膚炎の良化、花粉症の減退などがある。これらの効用を眺めると、やはり太陽の存在を大前提に生命を進化させてきたのだから、その太陽光線には多くの効用があって当然だと改めて納得する。
妊婦や乳児にとって日光浴が必要な事は、比較的知られているかもしれない。これもビタミンD不足にならないためのことだ。乳児がビタミンD不足になると、O脚の原因になりやすく、また妊婦時の女性は通常よりも光線感受性が1.5倍になることからも、身体が光を求めていることが分かる。光を取り入れて、カルシウムを吸収しようと努めているのだから、これが不足するのは当然避けるべきで、積極的に日光浴をするべきだろう。このことは室内で飼われているペットにも当てはまることなので、ベランダや庭や戸外に積極的に連れ出す工夫が必要だろう。
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では、実際どのように日光浴をすればよりのだろうか。
カルフォルニア大学・ガーランド博士によれば、1日あたり、10~15分、肌の40%以上を日光に当てることで、適切なビタミンDレベルを達成でき、癌の予防につながるとされている。白人に当てはめたものなのだが、参考になると思う。肌の40%とは夏でなくては無理なのだが、一般的には1日に30分ほど日焼け止めを塗らずに普通の服を着て戸外を歩けばいいのではないだろうか。
出社して日没後に帰宅するとなると、朝の通勤時と昼休みを利用してなるべく外に出ることが精一杯になるだろう。ちなみに紫外線は透過率が低く、ガラスさえも通れないので、窓際での日光浴は赤外線による温もり効果ぐらいしかない。あくまで直に浴びなくてはいけない。
紫外線を求めるに当たって、どうしても生活パターンから難しい人には抜け道がある。ビタミンDは脂溶性なので、ビタミンCなどと違って尿などと共に体外に排出されることなく、留まってくれる。つまり日光浴溜めが可能なのだ。休日に外に出て活動し、紫外線をしっかり浴びて溜めておける。さらに言えば、東北・北海道など冬の日照時間の少ない地域では、春夏秋にしっかり日光浴を浴びて蓄えておくことが可能だ。人間の身体はつくづくすごいと思う。
私は、なんとなく日光浴が子供の頃から好きで、それは私の精神の向日性を養ってくれた。光のある方へ、希望のある方へと、誰にも教わることなく、顔を向けてこれたのは、日光浴のおかげだと思う。太陽の下で、その温もりに幸福を感じること。私はその場所から立ち上がり歩いてきたのだと思う。そして、日々その場所に帰り、座り、休む。その循環の中で、好きなことを思い巡らし、好きな人を想い、自分と自然を愛しているのだ。
蛇足だが、ウルトラヴァイオレットという言葉の響きと、紫外線という字面も、いいなと思う。
※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#48」は2017年11月18日(土)アップ予定。
関連記事のまとめはこちら
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