90s Memories : Minority Movies
NeoL / 2018年3月6日 12時52分
第二回「マイノリティ映画」
昨年から今年にかけて多くの秀作が発表され、注目があつまるマイノリティ映画。ドラッグがはびこる地域で育ち自身もディーラーとなっていく黒人男性のアイデンティティの模索を描いた『ムーンライト』は、昨年度見事アカデミー作品賞を受賞。また『ゲットアウト』は人種差別のテーマをホラーと笑いに昇華させ新ジャンルを開拓、ゴールデングローブ賞では『ミュージカル•コメディ』部門にノミネートされたーーー。それらの下敷きとなっているのもまた、90年代の映画なのだ。自由競争の動きで有色人種のホワイトカラー人口が格段に増加した90年代。また、1985年に初のエイズ患者の確認がなされ、不完全に進む認知や関心ゆえに人々の深い拒絶反応も顕著に現れた中で叫ばれたLGBTの社会的権利。マイノリティに対して恐怖や嫌悪、拒絶感など否定的な感情を抱く層も多く、暴力や誹謗中傷というわかりやすいものだけではなく、無視など陰険なものもあり問題はより一層深刻化していく事となる。変化する価値観の元で多くのマイノリティ映画がこれまでにない幅広いアプローチをもって製作され、人々の心に一石を投じたのだ。
最初に紹介するのは、1990年公開『パリ、夜は眠らない』。
NYハーレムで行われていた有色人種によるゲイコンテストの様子を、女流監督の目線で見つめたドキュメンタリー作品。
特に性意識や人種問題の存在が大きく浸透してきたNYでの、厳しい人々の目は彼らに「我々は単に異端でしかない」という意識をももたらした。
そんな中コミュニティの指針は「より独創的に自己主張する」ことになっていく。上流階級の好みや所作をパロディ化したヴォーギングというダンス・スタイルはここで誕生し、後にマドンナが『VOGUE』でこのスタイルを取り入れ90’sに大流行する。
「異端」な彼らが追求した独創性が生み出した大きな影響力と、当時の彼らの実情が生々しいほどに詰まった作品。
次に紹介するのは、1996年公開『ウォーターメロン•ウーマン』。
レズビアンでもある黒人女性監督が、1930年代の映画に召使い役で端役を演じたある黒人女優を追ったフェイク•ドキュメンタリー。
偶然見た古い映画に「スイカ女」としかクレジットされていない召使い役を見つけたシェリルは理由なく心惹かれるものを感じ、その変わった名前だけを頼りにその女優の過去を追い求め奔走するというなかなか非凡なストーリーだ。
レンタルビデオ店で働く彼女は、「良い女が来たら、私の名前を覚えてもらえるでしょ」といつも名札を付けている。
取材を進める中で1930年代当時のハリウッドでは、名前はクレジットなしで使用人役というのが黒人女優の常であった事を知る。
社会的マイノリティとしてのシェリル自身が、暮らしの中で異常者ではなく”少し変わり者”でいる現状は過去すべての「スイカ女たち」の望んだ未来だったのだろうか。
なお、実在の人物からインスパイアされた本作はフェイクドキュメンタリーであるが、シェリルが「自分の人生を創り上げることだって必要な時もあるでしょ?」と語っているのも面白い。
最後に紹介するのは、1994年公開『クルックリン』。
監督スパイク•リー自身も少年時代を過ごした1970年代のブルックリンで繰り広げられる下町的情景を子供たちの成長とグルーヴィーな演出を通して描いた作品。
概ね世界をフラットに見る事の出来る子供の目には、当時の黒人社会に横たわる常識がどう映るのか。
ご近所界隈という狭いコミュニティ、そして家族という最小の社会で描かれるエスニック•コミュニティーの人間関係からは、前作「マルコムX」とは一転してシンプルかつ人情深いテイストがうかがえる。カーティス・メイフィールド、アイザック・ヘイズ、スティーヴィー・ワンダー、ジェームズ・ブラウンなど、70年代のソウルナンバーのサウンドトラックも合わせて「黒人であること」ひいては「自分でいること」の誇りをさり気なくだがしっかり主張している。
人々の真摯に生きるエネルギッシュな息づかいがビビットなファッションともしっかりマッチしているのも印象的。
近年では「マイノリティ映画」というジャンルでももはや括れずほとんどの映画がどこかの点で「多様性」というテーマを普遍的かつ必然的に扱っている。
冒頭でも言及した『ムーンライト』では同性の幼馴染に思いを寄せる黒人のドラッグディーラー、という観客にとっては一見共通点を見出し難そうな主人公の半生を少年期・青年期・成人期に分けて美しく観せ、まるで彼に優しく寄り添うように描いた。
また、今年公開の『デトロイト』。1967年デトロイト暴動でのアルジェ・モーテル事件に至るまでと戦慄の一夜のあらましをアニメーション、当時の映像、そして徹底したリアリズム演出をもってまざまざと見せた本作の心理的臨場感は、目を背けたくなる生々しい痛みから見る者を決して逃さない。
傾向として近年みられる、社会的マイノリティとしての主人公を非凡な存在でなくあくまで身近に描写することで「他人事ではない」と見る者に認識させる点は、行き過ぎた個人主義のゆり戻しという見解も出来る。
text Shiki Sugawara
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