“The Conquest of Happiness” 映画『パターソン』にみるラッセルの幸福論 6/7
NeoL / 2018年3月19日 20時0分
Bラッセルの『幸福論』は、発表され90年近く経った2017年に公開された映画『パターソン』の中にも息づいている。
今回も、その二つの作品から幸せについてを読み解いていこう。
『幸福論』第一部4章「退屈と興奮」
”最良の小説は、すべて退屈ないくつかの節(くだり)を含んでいる。最初のぺ-ジから最後のぺージまで生彩があるような小説は、偉大な本ではないことは、ほぼ間違いない。”
ラッセルは、例えば聖書をはじめ孔子の古典、コーランをまるきりの新作として出版社に持っていったら恐らく「まるで起伏がない」、と突き返されると言っている。つまり、刺激や興奮のみを求めそれを失うことを恐れるあまり普遍性や偉大さの本質が目に入らなくなるという例だ。
さらに、偉人の生涯も2、3の偉大な瞬間を除けば、興奮にみちたものではなかったとも言う。ソクラテスもカントもダーウィンも、いくつかの歴史的なときを除けば毎日をおしゃべりや散歩に費やしていた、と。
”'退屈'は,本質的には,事件を望む気持ちのくじかれた状態をいい,事件は必ずしも愉快なものでなくてもよく,'倦怠の犠牲者'にとっては,今日と昨日を区別してくれるような事件であればよい。退屈の反対は,ひと言で言えば,快楽ではなく興奮である。”
これは言い換えれば、退屈を恐れるべきではなくむしろ楽しむことが幸福な生活へ導くということである。そして、楽しむためには毎日の暮らしの中の些細な違いに気付くことが必要だ。「刺激や興奮を求めすぎている現代人」、と約90年も前に指摘されている点も恐ろしい事実である。
パターソンは毎朝6時頃に起床する。朝ご飯を食べたあと出勤し決まったルートにバスを走らせる。帰宅して夫婦で夕食を済ませると、愛犬マーヴィンの散歩ついでに行きつけのバーでビールを一杯飲む。このような彼の毎日の中の、ラッセルが言う「今日と昨日を区別してくれるような事件」とは、例えば起きたときに妻のローラも目を覚まし会話を交わすこともあれば、眠ったままの日もあるといったようなことだ。また、バスの中の乗客のたわいもない会話の内容。ローラが作るランチボックスの中身。バーで会う客の面々やマスターとのやり取り。毎日同じようで、まるきり違う。彼の平凡で幸福な生活は、上記の偉人たちのそれと何も変わらないのである。
『パターソン』
自分らしい生き方をつかむ手がかりは日々の生活にある
“パターソン”に住む“パターソン”という名の男の7日間の物語。
【物語】 ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン。彼の1日は朝、隣に眠る妻ローラにキスをして始まる。いつものように仕事に向かい、乗務をこなす中で、心に芽生える詩を秘密のノートに書きとめていく。帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅しローラの隣で眠りにつく。そんな一見変わりのない毎日。パターソンの日々を、ユニークな人々との交流と、思いがけない出会いと共に描く、ユーモアと優しさに溢れた7日間の物語。
【監督・脚本】ジム・ジャームッシュ
【出演】アダム・ドライバー/ゴルシフテ・ファラハニ/永瀬正敏/バリー・シャバカ・ヘンリー 他
【 2016/アメリカ/英語(日本語字幕)/デジタル/1時間58分 】
Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.
提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド
©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.
上映情報
目黒シネマ OFFICIAL SITE
3/17~3/23 一週間アンコール上映
リリース情報
パターソン [DVD] Amazon.co.jp
[Bru-lay]Amazon.co.jp
引用:Bラッセル『幸福論』 堀 秀彦訳(KADOKAWA; 新版 2017/10/25)
Amazon.co.jp
text by Shiki Sugawara
関連記事のまとめはこちら
http://www.neol.jp/culture/
この記事に関連するニュース
-
40代になったら「誰かを誘う」必要はない…年をとっても魂が清らかな人が「1日30分」やっている習慣
プレジデントオンライン / 2024年9月20日 8時15分
-
お仕事帰りの1人映画が最高のリフレッシュ!最近観て良かった映画2本をご紹介(十束おとは)
ガジェット通信 / 2024年9月14日 10時0分
-
バーボンの伝説、ジミー・ラッセルがワイルドターキー®バーボンで70周年を祝う:「一日も働いたことがない」と語る
共同通信PRワイヤー / 2024年9月13日 10時11分
-
「何も居ません、何も来ません」散歩中、一点を見つめて動かなくなった愛犬、なぜ?SNSで聞いてみたら…
まいどなニュース / 2024年9月3日 19時50分
-
イスラム教の問題作『悪魔の詩』の作家が自叙伝を発表「自由という理想の火を消してはいけない」
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月29日 14時50分
ランキング
-
1認知症や急激な老化を呼ぶ免疫暴走が起こる真因 免疫が処理できないほど体内にゴミが溜まる恐怖
東洋経済オンライン / 2024年9月20日 7時0分
-
2マザー・テレサもスティーブ・ジョブズも実は「サイコパス」って本当…? 人口の1%しかいない“反社会的人格者”の知られざる正体
文春オンライン / 2024年9月20日 6時10分
-
3政府は夕張市の「限界医療」から何も学んでいない…増え続ける「コロナワクチン健康被害」に医師が訴えたいこと
プレジデントオンライン / 2024年9月20日 10時15分
-
4社交辞令で褒めるとき、例えばゴルフがヘタな上司に「すごいですね!」はNG。気分をよくさせる、ひろゆきが考える“ズルい”言いまわし
日刊SPA! / 2024年9月20日 8時46分
-
5コスパが良いと思うエアコンのメーカーランキング! 2位「ダイキン」、1位は?【家電のプロが解説】
オールアバウト / 2024年9月18日 20時35分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください