あなたの中に介在する痛み—フランソワ・オゾン最新作『2重螺旋の恋人』
NeoL / 2018年8月3日 12時0分
パリに住む25歳クロエは原因不明の腹痛に悩まされており、婦人科医から精神的な原因があるのではないかと精神科医ポールを紹介される。一時痛みから解放された彼女はポールと恋に落ちるが、ある日彼の双子の兄ルイと出会い次第に惹かれていくこととなる。
本作でメガホンをとったフランソワ・オゾンは、女性のセクシャリティの解放や潜在意識の探求を常にテーマとしてきたが、本作では1960年代に確立したジャンルである“ニューロティックスリラー”のアプローチで新たな領域に踏み込んだ。
ニューロティックとは“ノイローゼ的な”という意味で、あるかどうか分からないことを恐怖に思う主人公を中心としたホラーを指す。ヒッチコック監督『サイコ』やポランスキー監督『ローズマリーの赤ちゃん』が代表的な作品で、オードリー・ヘップバーンやキャロル・リンリー、そしてミア・ファローといった60年代における女優スターの登竜門となった。彼女たちには“どこか幼さを残していて大人と子供の境目にいるかのような印象を与える顔つき”であるという共通点があり、観客は存在しない恐怖と戦う彼女たちに信頼を置くかどうかに揺れ動き“何が真実なのか?”を常に問い続けることとなる。
公民権運動やキューバ危機、ウーマンリヴ活動といったムーヴメントが起き大きな転換期となった時代に、これまでの既成概念の枠組みでは綴ることの出来ない、他ではない自分の中に介在する実存的な問題の見直しをホラーというジャンルに落とし込んだのである。
本作で主人公を演じたマリーヌ・ヴァクトは現代におけるニューロティックスリラーを再現するのに最高のミューズといえる好キャスティングであっただろう。大人と子供だけではなく、彼女の表情はフェミニンさの中に少年性を感じさせる印象を残した。
また、実際に1966年ロマンポランスキー監督によるホラー映画『袋小路』に出演していたジャクリーン・ビセットが本作では重要な役どころで参加していることも大きな鍵となっている。
同じく60年代をモチーフとした近年の代表的な作品に『ドリーム』と『シェイプ・オブ・ウォーター』がある。どちらも当時と現代における人々の社会的立場に共通点を見出したが、女性の社会的立場が世界規模で考え直されているいま、これまでもそのテーマで作品作りを続けてきたオゾン監督は1960年代のウーマンリヴ(女性解放活動)に現代との繋がりを見たのではないだろうか?
双子の間で揺れ動きながら原因不明の腹痛に悩まされるクロエには、果たしてどんなエンディングが訪れるのか。
『2重螺旋(らせん)の恋人』
8月4日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
配給:キノフィルムズ
監督・脚本:フランソワ・オゾン 原作:ジョイス・キャロル・オーツ「Lives of the Twins」 音楽:フィリップ・ロンビ
出演:マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット、ミリアム・ボワイエ、ドミニク・レイモン
2017年/フランス/1時間47分/カラー/スコープ/5.1ch/原題:L’amant Double/ 日本語字幕:松浦美奈
©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU
配給:キノフィルムズ R-18
★公式サイト:www.nijurasen-koibito.com
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