[試写会ご招待] 観客を”目撃者”にする衝撃のラストシーン『ジュリアン』
NeoL / 2019年1月2日 10時30分
離婚が決まったベッソン元夫妻は二人の息子である11歳のジュリアンの親権をめぐって争っている。本作は、そんな二人の張り詰めた調停シーンからはじまる。妻ミリアムは夫アントワーヌの家庭内暴力を主張しジュリアンの単独親権を求め、アントワーヌはこれを否定する。裁判官と観客はお互いの相反しあう主張から状況を判断しジュリアンにとって最善であるかを決定しなければならない。この妻は子供を盾として使っているのか?この夫の暴力は真実か?第三者である我々に真実を見抜くことは到底できない。全てを知るのは、二人の娘18歳のジョゼフィーヌとジュリアンだけである。しかし裁判所という場で二人の声に耳を傾けられることはない。なぜなら、彼らは”子供”だから。
子供にとって家庭内の問題は災害とも呼べるかもしれない。理解できない、しかも自分の力ではコントロール出来ない不幸に為すすべもなく、通り過ぎるのをただただ祈るしかない。今日はどうにか何もなかった、けれど明日は何かを奪われたり、恐怖を与えらえ傷つけられるかもしれない。そうやって指を折るようにして一日一日を数えながら祈るように毎日を過ごす子供は少なくないように思える。
そして、最も子供たちを傷つけるのは「両親の仲たがいは自分の存在のせいなのではないか?」という思いが頭をよぎる瞬間である。聞こえてくる両親の口論に自分の名前が登場したときや、「お母さんはこんなにひどいことをしている」「あなたはお父さんの味方なの?」と言われるとき、子供は自分が仲たがいの要素の一つとして巻き込まれ自分を責める。しかし、子供の心の傷は家庭の外からは見えない。病院からも診断書が貰えない、隣人や祖父母にすらも目の届かない暴力だ。
本作で初長編作デビューを飾った新鋭グザヴィエ・ルグランは、外からは見えないが確実にそこに横たわっている問題をタブーを恐れず勇敢に描く。チャールズ・ロートン『狩人の夜』(1955年作品)やスタンリー・キューブリック『シャイニング』(1980年作品)、ロバート・ベントン『クレイマー・クレイマー』(1979年作品)といった名作をベースに、フィルムノワール/ヒューマンドラマに加えてホラーの要素を絶妙なバランス感覚で組み込むことで、ドメスティック・バイオレンスという複雑なテーマを鮮やかに顕在化している。ストーリーが進むごとだんだんと押し寄せる緊張感は、ジュリアンが感じる恐怖・プレッシャーをリアルタイムで追体験させ、観客にベッソン家の実態を身をもって感じさせる。
ジュリアン役を演じたトーマス・ジオリアは、セリフが少ない本作のなか繊細な表情や息遣いの強弱で、彼の内面世界を立ち上げている。初の映画出演というのが信じられないほどの豊かな表現力だ。
いよいよ臨界点を迎える本作と家族関係の緊張感は、冒頭の家庭裁判所にいた誰しもが頭の片隅にも置くことはなかったであろう想像を超える展開を生む。この最悪なラストシーンの目撃者となった観客は、エンドロールを観ながらどんな”判決”をベッソン家に下すだろうか。
『ジュリアン』トークショー付き一般試写会へのご招待券5組10名様
日時(上映時間93分)
1月23日(水)18:30 開場/19:00 開演※特別ゲストによるトークショーあり
場所
ユーロライブ (渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F)
特別ゲストによるトークショーを開催!(予定)※ゲストは予告なく変更になる場合がございます。
空メールを送信するとプレゼントに応募できます。(←クリック)ご応募お待ちしております。
後日当選された方にはいただいたメールアドレス宛にNeoL編集部よりご連絡させていただきます。
『ジュリアン』
2019年1月25日(金)よりシネマカリテ・ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
OFFICIAL SITE
2017年ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞受賞。フランス映画界の新星グザヴィエ・ルグラン監督、衝撃のデビュー作。長編初監督作品ながら、卓越した演出力で俳優から素晴らしい演技を引き出し、ヴェネチア国際映画祭をはじめ、世界各国で拍手喝采! 2013年フランス映画祭で上映されたルグラン監督の短編『すべてを失う前に』がアカデミー賞短編部門にノミネートされるなど実力はかねてから評価されていた。今作は同じテーマを長編化した念願の1作。第65回スペイン・ンセバスチャン映画祭の観客賞部門では、アカデミー賞受賞作品『スリー・ビルボード』に次ぐ第2位の高評価を得て、アメリカの映画批評サイトRotten Tomatoesでは94点を獲得。フランスでは40万人を動員しロングランするなど快進撃を続けている。身近な物音や暗闇などを効果的に使い、観客の想像力を最大限に引き出す手腕は見事。サスペンスを超えるドラマが誕生した。
【ストーリー】
両親が離婚したため、母ミリアム、姉と共に3人で暮らすことになった11歳の少年ジュリアン。離婚調整の取り決めで親権は共同となり、彼は隔週の週末ごとに別れた父アントワーヌと過ごさねばならなくなった。母ミリアムはかたくなに父アントワーヌに会おうとせず、電話番号さえも教えない。アントワーヌは共同親権を盾にジュリアンを通じて母の連絡先を突き止めようとする。ジュリアンは母を守るために必死で父に嘘をつき続けるが、それゆえに父アントワーヌの不満は徐々に溜まっていく。家族の関係に緊張が走る中、想像を超える衝撃の展開が待っていた。
監督・脚本:グザヴィエ・ルグラン 製作:アレクサンドル・ガヴラス 撮影:ナタリー・デュラン 出演:レア・ドリュッケール ドゥニ・メノーシェ トーマス・ジオリア マティルド・オネヴ
2017年/フランス/93分/原題:Jusqu’a la garde/カラー/ 5.1ch/16:9ビスタ/日本語字幕:小野真由子 配給:アンプラグド 後援:在日 フランス大使館 / アンスティチュ・フランセ日本 © 2016 - KG Productions – France 3 Cinéma
text Shiki Sugawara
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