14 Issue : 中尾憲太郎/Kentaro Nakao(Bassist / Music Producer)
NeoL / 2019年1月5日 12時0分
オトナになるという境界線は、公的には”20歳(もうすぐ18歳に引き下げ)“となっているけれど、もちろんその年齢になったからといって突然に精神が成熟するというわけではない。なんなら、20歳を超えてもまだオトナになりきれていな人はたくさんいるようだ。じゃあ一体”オトナ”ってなんなのか。確固とした定義は難しいけれど、自分だけの換えのきかない毎日をしっかりと歩むことの延長線上に、自分なりの答えが見つかるかもしれない。
進路が少しずつ重きを増してきて、身体も気持ちも毎日少しずつ変化する14歳の頃、いま楽しく仕事したり生活している先輩たちはどんなことを考えて、どんなことをしていたんだろう。そんなファイルを作りたいと始まった「14歳」特集に、ベーシスト/音楽プロデューサーの中尾憲太郎が登場。独自の音を鳴らし、多くのミュージシャンをインスパイアする中尾はどんな幼少期を過ごし、そのアイデンティティを築き上げたのか。
――14歳の頃でなにか強烈な思い出ってありますか?
中尾「小学校のとき、上級生が下級生の面倒を見るシステムがあるじゃないですか。それで仲良くしているつもりだった先輩がいて、小学生だったからタメ口きいてたんです。で、うちはエスカレーター式だったのでそのまま中学校に上がって彼がいたから”あっ〇〇くん!”と言ったら”〇〇くんだってよ、ハハ”とバカにしたように笑われて。その扱いにすごくショックを受けたことは未だに覚えていますよ。その瞬間、自分の中で何かのフタを完全に閉めました。洗礼でしたね」
――年功序列的ないわゆる大人の世界や世間というものの洗礼ですね。
中尾「そう。結果的にそれが良いことか悪いことかはわからないけれど、あのとき閉じていなかったらもっとはやめに自分の心が人や世界に向けて開けていたかもしれないとちょっと残念に思います。……それが12、3歳の頃か」
――中尾さんは一見強面のベーシストですけど、実は読書家だし優しい芸術肌ですよね。生来の気質が世間との交わりで変化していくこともあると思うんですけど、そういう繊細なエピソードを聞くときっと昔から優しい子だったんだろうなと思います。実際はどんな子でした?
中尾「小学生の頃は絵を描いたりゲームをやったりするのが好きだったんです。当時はドラゴンクエストが流行っていたこともあってファンタジー系が好きでした。でもゲームは学校に持っていけないから”ゲームブック”でよく遊んでいて。小説なんだけれど、読み進めていくと”交差点に来た。右の道に行くなら何ページ、左の道に行くなら何ページに進む”と書いているようなやつです。今はもうないかもしれないね。そういうのに熱中していた小学校6年生のときに転校生が来たんですけれど、そいつがイギリスのテーブルトークRPG“ダンジョンズ&ドラゴンズ”というゲームを持ちこんできて。それは、プレイヤーズ・マニュアルというプレイヤーが読むルールブック、マスターズルールブックというマスターが読むルールブックが入っていて、マスターは全ての物語を自分で考えていいんですよ。プレイヤーは戦士や魔法使いの職業に就いてマスターの作った物語内で冒険をしていくわけなんですけれど、それを見て”なんじゃこれは!”と(笑)。そこから中学3年間はそれしかやってないです」
――どういうところがツボだったんですか?
中尾「自分たちで考えて作るテーブルトークRPGのおもしろさにハマったら一方的に与えられるだけのTVゲームのRPGができなくなったんですよね。1本道しかないから、そういうのがすごく嫌で。テーブルトークRPGは無限なんです。細かい決まりはあって、宝物はここになきゃいけないんだけどどうやって見つけるかを考えたりする、どう誘導するかというそこが腕の見せ所だったり。それから他のもっとルールが複雑なテーブルトークRPGも掘り下げていって、毎週末そういうゲームのイベントをやっているおもちゃ屋や公民館を探して中学生の俺らが大学生たちに混じってやるという(笑)。その後は自分たちで新しいゲームを作るというところまで至って。作っていくうちにどんどんシンプルなルールになっていって……最終的に一番最初に転校生が持ってきたゲームが完ぺきだったということに気づくわけです。シンプルで想像力が幅をきかせるものの方が圧倒的におもしろくなるということに、様々なものを経験した後に気づいたんですよね」
――中学でその答えまで行き着いたのはすごい。テーブルトークRPGを極めたわけですね。
中尾「並行して剣道部にも入ってたんだけど、部員みんなをゲームに巻き込んでワイワイやって(笑)。授業終わってから9時頃までゲームをやってて、先生に『いい加減に帰れ』って言われる。剣道部なのに長髪だったし、自由な毎日だったと思います。でも北九州だったので、普通に怖い人も街にはいたんですよ。超危険な地域もあったし、常にそういう不安感もどこかにありつつ生きていたかな」
――ただ安穏だったわけじゃなく、危険についての肌感覚もあったというのも生きるうえでは力になりますね。そこから高校は美術系に進まれるわけですが、やはり美術芸術が好きだった?
中尾「中学の成績は悪かったんですけど、絵が昔から好きで学校でもずっと一番だったので、先生から薦められて、親も”好きにしなさい”と。親は美容師だったんですけど、勉強や進路について“こうしなさい”と言われることはなかったです」
――音楽に携わるようになったのは?
中尾「高校に入ったら友達がバンドを組むと言いだして、”お前は背が高いからベースな”と言われて、言われるがままにベースを始めたのが最初ですね。大学でも芸術学部に入ったんですけど、そこでまたバンドをやってる先輩を紹介されて、レコードがビシーッとある先輩の家に入り浸るようになって。そこでSonic Youthだのジョン・スペンサーだの当時のグランジ・ムーヴメントの洗礼をガッツリ受けて、カウンターと呼ばれる音楽がものすごく好きになったんです。その人経由で福岡のライヴハウスでバイトすることになって、ナンバーガールに入って今に至ります」
――背が高いからというひょんな理由だったんですね(笑)。ちなみに中学の頃は画家になりたかったのですか?
中尾「何も考えていなかった。その後も何になりたいとかは考えたことなかったと思います。来る状況に対して面白そうな方に進むだけ。あ、でも何か選択するタイミングにはRPGを思い出すかも。人生において何かをする時の基準がそれになっている。”俺は今交差点に立っている”とか”俺は今サイコロを振っているということだな”とか。で、サイコロも4面体から20面体まで使うので確率が変わるんですよ。なので、何か物事を成し遂げたいときに面が少ないサイコロを振った方がいいでしょう? 人生においても”今俺がやろうとしていることは6面体くらいのサイコロを振っているわけだけれど、こっちのことをやるとなると20面体のサイコロになるぞ”とかね、そういうマインドになっていくわけです。面白そうなほうに行くのは変わりないんですけれど、根底にその基準がある。そうやって生きてきていますね」
――音楽においてもそのマインドが活かされることはあります?
中尾「深いところだと、結局自分がやってきたのは欧米文化圏のゲームなんです。だから西洋哲学みたいなところには影響されているかもしれない。親父も“リーバイスが正義”みたいなタイプだったし。具体的なことでいうと、プロデュースは完全にゲームマスター感覚でやっています。プレイヤーたちをその気にさせないといけないし、どこかにたどり着くにも一本道じゃなくていくつもの方法、手段がある。音楽も、自分が演奏していて高揚した気分になるための道のりはなんでもありで自分が考えればいいし、自分のバンドでも他のメンバーに伝えたいときに”このコードを弾いてくれ”じゃなくて”深い霧が立ち込めた森を想像してくれ”と言ったほうがいい。レコーディングの時もギターの奴に映像を見せたりして、”この曲は『テキサス・チェーンソー』のイメージだから”と言うみたいな(笑)。曖昧であれば曖昧であるほどいいんです。人からこう弾けと言われて弾いたものってその人から出てきた音じゃないけど、想像して自分なりに導き出した音はその人のものじゃないですか。だからすごく良いものになるんですよ。結局は想像する余白だよなと思うんですよね。絵を描いたり音楽を演奏したりなんでもそうですけれど、違う事象を表現することが重要で。風景を見てそれを音に変えるだとか、音を聴いて絵に描くとかってことが大事なんです。そこには想像力が不可欠だし、余白が絶対に必要で。それを教えてくれたのは“ダンジョンズ&ドラゴンズ”というテーブルトークRPGゲーム。14歳のみなさんにもこのゲームをオススメしたいです(笑)」
photography Yusuke Torii
text&edit Ryoko Kuwahara
Special Thanks Mintei/珉亭
中尾憲太郎
ベーシスト/プロデューサー。1974年生まれ。福岡県北九州出身。1999年から2002年までナンバーガールのベーシストとして活動、その後は自身のバンドCrypt Cityをはじめ現在はACO、浅井健一& The Interchange Kills、ART-SCHOOL、Seagull Screaming Kiss Her Kiss Her、younGSoundsなどのバンドに参加の他、サウンドプロデュース等も行う。
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