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haru.『たたかう女は食う』過去編

NeoL / 2019年4月25日 20時30分

haru.『たたかう女は食う』過去編



最近よく「たたかう」という言葉を口にしている気がする。
私は戦士で、日々いろんなことと戦っているのだ。自分との戦い、女性としての戦い、表現者としての戦い。
ここ数年は「無敵そうだね」と言われることが多い私だけど、共鳴する映画のヒロインたちはいつだってどこか冴えなくて、自分に自信がない人ばかり。人との付き合い方もへたくそ。けれどそんな彼女たちが自分に失望することを繰り返しながらも強くなっていく姿は、完璧なヒロインなんていなくていいんだと思わせてくれる。
毎日の戦いで疲弊して、どうしようもなく悲しくなっても、私たちのお腹は減るようになっているんです。不思議なものだなあ。悲しくて苦しくてもお腹が減る。
「最強でも無敵でもない自分さん、こんにちは。ひとまず腹ごしらえでもしましょうか。」






vol.1 『涙とおにぎり』


今日は日々たたかう私と、あなたのことを祝福する機会を設けようと思う。ついでにおにぎりを発明(?)した人も。


おにぎり。艶めく米粒エネルギーの集合体。歩きながら片手で食べることができるし、中に入れる具材次第で無限に種類の幅も増やせてしまう。こんなに素敵な食べ物ってないんじゃないかな。最近の昼食はもっぱら移動中に食べるおにぎりだ。ツナマヨと明太子が好き。


スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』で、ハクから受け取ったおにぎりを大粒の涙を流しながら頬張る千尋のシーンを覚えているだろうか(大半の日本人はこの映画を観た前提で話をしているけど大丈夫だよね、、、)。両親を豚にされ、慣れない環境でいつ終わるのかもわからない修行をさせられている千尋の緊張感がどれほどのものだったのか、本当によく表現されているシーンだと思う。ぱくぱく。ぽろぽろ。しゃがみこむ千尋の背景には彼女の気持ちとは裏腹に植物が青々と輝いている。いつだって自分を取り巻く世界と心には大きな温度差がある。


自分のティーン時代の痛みを忘れたくないと思う。とはいえ人間はうまくできていて、楽しかったことも辛かったことも忘れるようにできている。あの頃のことを自分ごととして思い出せない日が来るのかわからないけど、仮にその日が来た時のために私はこれを形に残しておきたいと思う。あの時の私へ、今から思春期を迎える女の子たちへ、全てのたたかう人へ。


今から8年前。
3.11の一週間後、私はドイツにいた。
日本から持っていたものといえば当時リリースされたばかりのRIP SLYMEのCDと数冊の雑誌、服装もそのとき履いていたジーンズ一本のみという軽装だった。
空港のトイレの個室にママに呼び出されて、たくさんの現金を手渡された。ママは残りを自分のブラの中に入れた(今思い出しても間抜けなスパイ映画かと思う)。ドイツに住んでいるじいばあの家に遊びに行くと聞かされていたのに、飛行機の中でママは、「もうしばらく日本に帰ってこないで」と言った。
そのまた一週間後に私はデュッセルドルフのシュタイナー学校に編入。受かっていた東京の女子校は一度も通わずに退学した。
そこからドイツで過ごした4年間はもう本当に千尋の修行ばりに色々あったのだけど、これを書くきっかけにもなった出来事に、今回は触れたいと思う。
11年生(日本でいうと高校2年生にあたる)になった頃、私の自分に対する不満とコンプレックスは頂点に達していた。
言葉の壁は相変わらずに立ちはだかったままだし、何より自分の見た目が嫌だった。周りのみんなが理想とする長くて美しい髪や整った眉、大きなおっぱい。何一つ持っていなかったし、持ちたいとも思わなかった。むしろみんなの追い求める「女らしさ」の呪縛から解き放たれたかった。それとは別の、自分だけが放つ光みたいなものが欲しくて欲しくてたまらなかったのだ。綺麗だね、と言われていた黒髪をベリーショートにし、男の子の洋服を着た。思春期特有の体型の変化でついた肉は全て削ぎ落としたかった。性別も、国籍も捨ててしまいたかった。


私が自分に課したルールは厳しいものだった。本気だったから。
小麦はダメ、と思い込んで小さなおにぎりだけ学校に持っていった。甘いものなんて食べないし、間食は野菜のみ。家に帰ると森に2時間ほど歩きに行き、夕飯前にはおかしなスクワットをする。食べたものは毎日記録した。一見健康的なプログラムに見えるかもしれないけど、私はこれに取り憑かれていて一つでもルールが守れなければ自分が自分でなくなってしまうような気がした。恒例の親友との放課後フライドポテトも行かなくなった。食べることを放棄すればするほど、食べ物のことを考えるようになった。まだケータイも持っていなかったしInstagramもやっていなかったから、Tumblrで美しくディレクションされた美しい食べ物の写真を「いつか食べたいものシリーズ」フォルダに保存した。
語学の習得と違って、見た目の改造は割とすぐ変化が起きる。一ヶ月ほどで5キロ以上痩せた。満足感はなし。自信をつけるどころか私は以前に増して泣き虫になり、寒がりになり、更には生理が止まった。


どこで戦い方を間違えてしまったのだろうか。
誰かに自分のことを相談するのが恐ろしいほど下手くそな私は(今でもそう。)、ただただ呆然としていた。とりあえず生理が止まった、とだけおばあちゃんに伝えると婦人科に連れていかれた。年齢の割に子宮が小さいのと、あとは恋愛小説でも読んだらいいんじゃない、とのことだった。とんちんかんなアドバイスに目が覚めた気がした。恋愛して子宮に信号を送れとでもいうのか。自分を愛せない人間の人生に他人が入り込む余地などない。私は過剰なストレスと食事制限でホルモンのバランスが乱れていた。間違った戦い方をしていたことを認めるのが怖くて、悲しくて、一日だけ学校を休んでひたすら泣いた。
まずは森へ行くのをやめた。サンタの形をしたチョコレートを食べてしまう自分を責めるのをやめた。お弁当のおにぎりを少し大きめのサイズにして再開した。
体重は徐々に戻り、いつしか生理も来るようになった。


今ではこの話を他人にできるまでになった。まだ私がZINEをつくる以前のストーリー。もう二度と戻りたくないと強く願うから、ここにアーカイブとして残しておく。
私だけじゃない。似たような苦しみや痛みを感じていた、もしくは現在も感じている子達を私は知っている。今日みたいななんでもない日も、私は画面越しのあなたを、そして自分を祝福したい。


自分の幸せや居心地のいい世界を追い求める過程にある複雑な感情の渋滞や苦しみ、涙が一滴も無駄ではないこと。むしろそこからよくしなければいけないことがたくさんあるということ。
私は気付いてしまったから、今日もたたかいは続く。


そして今日も食べる。


「何を食べたのか、どうやって出したのか。
結局のところ、それがすべてなのかもしれない。」
イ・ランさんの『悲しくてかっこいい人』から抜粋。


シンプル。


今朝はお茶漬けでも食べようかしら。


戦友たち、一息つくことも忘れずに。




NeoL_haru_fight_eat2






MOVIE - produce Reita Tanaka(TORIHADA) diretion / Casting haru. camera / edit Kazuki Ikegami title graphic Mariko Kobayashi
STILL - direction & text haru. photography Mariko Kobayashi






haru.
1995年生まれ HIGH(er)magazine 編集長 

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