長場雄「Express More with Less」インタビュー“『自分って何なの?』みたいなところを見つけていく”

NeoL / 2019年6月14日 12時0分

長場雄「Express More with Less」インタビュー“『自分って何なの?』みたいなところを見つけていく”



シンプルなラインで描かれているのに、見事に特徴を捉えたミュージシャンや映画のワンシーンのイラスト。雑誌や広告などでも幅広く活躍し、一目見れば彼のものだとわかる作品を見かけない日はないほど活躍している長場雄が、東京・原宿のGallery Targetにて個展「Express More with Less」を開催した。ACE HOTELのメモ帳に描かれたイラストでおなじみの彼だが、今回は自身のキャリアでもあまり選ばれてこなかったキャンバスに描かれた作品を発表。その新たな挑戦を目にしようと、会場には多くのアートファンが駆けつけた。アーティストとしてのルーツから今後の展望まで、個展の会場で話を聞いた。



――まずはアーティストになった経緯をお聞かせください。子どもの頃からアートに親しんでいたのですか?


長場雄「わりと美術とか芸術に関しては寛容な家庭で育ちました。特に母方の祖父は絵や陶器などが好きで、子どもの頃からよく絵を描くとほめてくれました」


――本格的に絵を始めたきっかけは?


長場「10歳のときに親の仕事の関係でトルコに引っ越したのですが、同じ通りに油絵を描くトルコ人の女性アーティストが住んでいたんです。その方と知り合って、ちゃんと絵の勉強をしてみたいと親に頼みました。自分の中ではその方に習ったことが大きなきっかけです。そこに通って油絵やコラージュ、水彩画など、いろいろ教えてもらいました。通った期間は2年間だけだったのですが、最後に先生の家の庭で個展みたいなものを開いてもらったんです。僕は12歳くらいだったのですが、それが最初の個展でした」


――素敵な思い出ですね。


長場「実は今、その先生がトルコから日本に来ていて、昨日は30年ぶりに再会したんです。当時から一度も会っていなかったのですが、今はもう70代くらいで、ホテルまで迎えに行ってこの個展を見に来てもらいました。今は油絵ではなくコンセプチュアルな作品を手がけていて、けっこうぶっ飛んだ人なんです(笑)。確かに子どもの頃、先生が薄暗い部屋で大きなキャンバスにおどろおどろしい人物画を描いていて、ちょっと怖かった記憶があります。僕がアートとかイラストとか、そういう方向に進んだことをすごく喜んでいました」


――トルコから帰国した後も絵はずっと続けていたのですか?


長場「帰国前の最後に先生から、『あなたは何を描きたいの? 何を表現したいの?』と聞かれて、でも自分の中で描きたいテーマが出てこなかったんです。それまでは『これを描きなさい』とか『あれを描きなさい』とか、特に小学校では課題を与えられて描いていたので、何を描いていいかわからなくなって、つまずいてしまいました。ただ好きだから描いているのではダメなんだと思って、少し絵と遠ざかるというか、あまり好きではなくなってしまったんです。それでしばらく描かなかったのですが、高校で進路を決める段階になって、やっぱり子どもの頃から絵が好きだったのとトルコでの体験もあったし、他に進みたい道も思いつかなかくて、アートの方面に進みました。でも進学後はイラストではなく、家具や空間デザインの勉強をしていました」






















――作品を見れば一目でわかる今の長場さんのスタイルは、いつ頃に確立されたのですか?


長場「2014年です。それまでは色を使う作品や写実的なものなど、様々な作風で描いていました。でも、自分が何をやりたいのかよくわからなくて、請負仕事みたいなものが増えてきてしまって。本当はちょっと違うことを考えているのに、世の中に出て行くものは違う。そこにすごく矛盾を感じて、どうしても違和感のようなものがありました。辛いな、もっと自分を出さないといけないなと考えて、2年くらいかけて今の作風にたどり着いたという感じです」


――今回の個展はなぜ「Express More with Less」と名付けたのですか?


長場「2015年に、2014年から描いていた仕事の作品集『I DRAW』を発表したのですが、本を作るにあたって英語の翻訳をつけました。そのときに英語ができる人が『こういう言葉がいいんじゃない?』と教えてくれた言葉が、”Express More with Less(少ない情報でより豊かな表現をする)”でした」


――ものすごく的確に長場さんのスタイルを表現していますよね。


長場「ミース・ファン・デル・ローエの"Less is More"のような言葉がすごく好きだったので、自分にもそういう言葉がないかなと思っていたんです。そのときは『I DRAW』にちょっと入っているくらいでした。今回この言葉をタイトルにしたのは、今まであまり制作してこなかったキャンバス作品を作ったからです。自分の中で本格的にキャンバスに移行するというか、アート方面を目指して行く決意という感じです」


――キャンバスに大きく描かれた長場さんのイラストは新鮮でした。


長場「今まではACE HOTELのメモ帳や紙にペンで描いたものを発表していたんですけど、キャンバスは何百年、下手したら何千年と残る支持体じゃないですか。そこに描くということは、やっぱり紙に描くこととは別物なんです」






















――そもそも、なぜACE HOTELのメモ帳に描き始めたのですか?


長場「最初はニューヨークで(ACE HOTELに)宿泊して、メモ帳をもらってきたのが始まりです。ずっと引き出しの奥に入っていたのですが、グループ展をやるときに、紙に落書きしたような感じで展示しようということになって。ただ紙に描くのも味気ないし、あのメモ帳あったな、と思い出しました。アーティストが旅先で暇つぶしに(ホテルのメモ帳に)絵を描いたみたいなイメージにしようと思って始めたんです」



――ミュージシャンなどたくさんのポップアイコンや映画のワンシーンなどを描くようになったきっかけは?


長場「今の作風になったときに、線が少ない面白さを伝えるにはモチーフ選びがすごく重要だと思いました。ただの風景や人物よりも、みんなが知っている人や見たことがありそうなものをモチーフにした方がいいだろうな、と。線が少ないのに『あれモナリザだね』とか『ビースティ・ボーイズだね』とわかる方が絶対に面白いと思って、ポップアイコンをモチーフに描くようになりました。好きなものや影響を受けているもの、気持ちを動かしてくれたものだと自分も入って行きやすいので、そういったものを選んでいます」


――自分の好きな映画のワンシーンが描かれていると、すごくうれしくなります。


長場「出会って良かった作品があるときや、この気持ちをちゃんと表現しなきゃと思うときには、絵に描きたくなってしまうんです。ニッチな作品とメジャーな作品を行ったり来たりしたいと思っています。僕は『タンジェリン』のようなインディーズ映画も好きだし、スピルバーグみたいな大作も好き。作品の規模は受け手にとっては関係ないじゃないですか? でも、良いと思ったものは良いと表現したいと思っています」


――今回のキャンバス作品には、マティスの名画「ダンス」もありましたね。


長場「マティスの作品には、軽やかさやシンプルな中にも感情があって、目指したいアーティストの一人です」


――ご自身にとって、キャンバスに描くということはどのようなチャレンジでしたか?


長場「僕はイラストレーターになりたくてずっと活動していたわけではなくて、どちらかというとアートの方がすごく好きだったんです。ただ、この作風になってからポパイの仕事をして、たくさんのお仕事のオファーをいただくことになって。まずはやってみよう、せっかく声を描けてくれるんだから頑張ろうと思い、雑誌や広告などの仕事を受け始めました。だからイラストレーターと名乗っているのですが、どこかでキャンバスに描くアートも頭の片隅にあって、いつかは挑戦したいなと思っていました」
































――雑誌や広告などのコマーシャルの仕事をきっかけに、ファン層も幅広くなっているのではないかと思います。今回の個展に込めた思いは?


長場「クライアントワークはある程度お題に沿ったものを作るのが仕事なのですが、今回の個展ではそうではない部分、自分はどうしたいのかという生の気持ちをそのままぶつけている感じです。そういったものも受け取ってもらえたら面白いかなと思いました」


――インスタグラムでは毎日イラストを投稿されていますが、どうしてもアイデアが降りてこない日はないのですか?


長場「全然あります(笑)。全然あるけど、もう毎日やると決めているのでやる。この作風になってから、そういう風に自分を追い込もうと思っています。絵を描くか描かないかのイエスかノーかだったら、イエスでしょ、ということです」


――今回は大きなキャンバスに描かれた絵で新たな魅力を見せていただきましたが、今後はどのようなことをしていきたいですか?


長場「シリーズとしてキャンバス作品を制作したのは今回が初めてですが、これをきっかけに次のアプローチの仕方を考え続けていかないととは思っています(笑)。どんどんキャンバスを大きくしたり、テーマを絞っていったり、もう少しフォーカスしていって、『自分って何なの?』みたいなところを見つけていくというか。そういうことをしたいですね」









photography Sachiko Saito
text Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara



長場雄
イラストレーター、アーティスト。
1976年東京生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。雑誌、書籍、広告、様々なブランドとのコラボレーションなど領域を問わず幅広く活動。2014年より、自身のインスタグラムにて1日1点作品をアップし続けている。過去のワークスに、UNIQLO、ASICS、G-SHOCK、BEAMSとのコラボレーション、その他、マガジンハウス、RIMOWA、Technics、Spotify、Universal Music、Monocleなど国内外問わず様々なクライアントにイラストレーションを提供している。
http://www.nagaba.com


GALLERY TARGET
東京都渋谷区神宮前2-32-10
03 3402 4575
www.gallery-target.com

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