秋田犬との「畳色」の思い出

NewsCafe / 2013年8月9日 17時51分

今となっては懐かしい思い出だが、昔は東京メトロの日比谷線に乗るのが怖かった。
別に乗り物や人混みが怖いというわけではない。
ではなぜ怖かったのか。

日比谷線の駅名を頭に浮かべてみてほしい。
これぞ「都会で成功した人間が闊歩する街」を代表するような土地だ。なので日比谷線を使うたびに「自分はこんな土地を歩けない」と変な苦手意識を持っていたのだ。
電車に乗るだけでも周りは明らかにエグゼクティブな雰囲気をバリバリ出している人ばかりであり、日本人でも外国語の新聞を読んでいる人が非常に多かった。
当時は社会人になったばかり。世間と都会が怖くてしかたなかったゆえ、過度なほど自分にコンプレックスを抱いてしまっていたのだ。

やはり今でも日比谷線は苦手だ。どう見たって「めったなことでは止まらない、某赤い電車」とは色々な意味で違うのは明らかだ。
更に筆者、苦手なのは日比谷線だけではない。オシャレそうな場所は全般的に苦手だ。
自分のようなタイプの人間は他人から見たら「汚っ!」と言ってしまいそうな場所の方が性に合うのだ。

そんな筆者も社会人になってからしばらく経ち、色々な意味で調子に乗り始めた頃、飼い犬を連れてドッグカフェとやらに行ってみたくなった。
行こうと思ったきっかけは忘れたが、とりあえず「犬と一緒にカフェでお茶」をしてみたかったのだ。

ちょうど家の近くにオシャレなドッグカフェができたので早速でかけることになった。

「すみません、うちの犬、見ての通りのおっきな秋田犬なんですけどいいですか?」
とまず店員さんに聞いた。
我が家の犬は秋田犬なのである。しかもオス、50キロはある大型犬だ。
「秋田のワンちゃんですね。大丈夫ですよ!」と明るく返されたので遠慮なく店内に入った。「秋田のワンちゃん」という言い方に微妙な違和感を感じつつも、とりあえず入る。内装はオシャレで周りには小型犬しかいない。飼い主もなぜだか美男美女ばかりだ。

筆者と秋田犬、入った瞬間に場違いだと気付いた。
わが愛犬の表情は心配そうだ。
しかし今更引き返すわけにもいかず、とにかくお茶を一杯だけ飲んでからすぐに帰ろうと決めた。

注文してからお茶を飲み終わるまでの間、筆者とわが愛犬の周りだけが変な雰囲気を醸し出していることを感じていた。

なんていうか、店内の内装がフランスのアパルトマンのようなのに、我々の周りだけが完全に日本のお茶の間なのである。空気が「畳色」なのだ。

「くっそう、お金を払ってなんでこんなに緊張しなきゃならんのだ・・・」と来たことを後悔していると、わが愛犬がまたもや心配そうに筆者を見つめてきた。

「ご主人、あっしはこんなオシャレなところ、合いませんよ。いつもみたいに味噌汁の匂いが漂ってくるような場所が一番落ち着きますよ。帰りましょうよ」

そう言っている気がした。
そしてそうっと、ぶっとい前足を筆者の手の平に乗せてきたのだ。

それから家に帰るともう夕飯の時間。
台所では母親が魚を焼いており、いい香りがしていた。
「幸せだな」。

・・・と思ったのも束の間、わが愛犬がその巨体で力いっぱい台所へダッシュし始めたのだ。
突然のことに驚いた筆者は家の前で派手に転び、あまりの痛さにうめいた。

「このヤロウ・・・」。

その時、犬の激しい本能を垣間見たのだった。

【執筆者:猫紫】

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