テロ対策、共謀罪ありきでいいのか?
NewsCafe / 2017年4月17日 15時18分
共謀罪(テロ等準備罪)を新設する組織犯罪処罰法改正案が審議入りしています。今国会での、与野党の攻防戦の一つです。共謀罪というのは、組織的犯罪集団が、一定の犯罪を企て、メンバーが同意したことを罪とするものです。その準備行為をした段階で検挙されることになります。そのため、重大な犯罪を事前に防ぐためという前提に立てば必要性が強調されます。しかし、一般市民の生活に多大な影響を与えるために慎重な声が出ています。
テロ対策や暴力団を想定するとすると、治安対策として、一般市民を守ることにもなります。しかし、想定する団体に限定はありません。犯罪集団ではない団体だとしても、捜査当局が、途中から「組織的犯罪集団に変質した」と見なせば、共謀罪で検挙する対象にもなり得るわけです。その意味では、多くの人たちに関連する法案になります。
刑法で罪になり、罰の対象になるのは、原則として行為です。たとえば、万引きをしようと考えたとしても、それ自体は、罪になりません。万引きをした段階で罪になるのです。もちろん、行為をしなくても、例外として罪になる場合があります。たとえば、殺人です。誰かを殺そうと思ったとしても罪になりませんが、殺人の目的でナイフを買ったとします。すると、殺人の準備行為をしたとして、殺人予備罪が適用される可能性があるのです。
もちろん、準備行為で罪になるのは、複数の場合も同じです。凶器準備集合罪がそれです。二人以上の人が、他人の生命、身体、財産に対して、共同で害を加える目的で集合した場合、凶器を準備したり、その準備があると知っていたのなら、成立します。その場合、加害の対象や内容が具体的に特定されていないとしても適用されるのです。こうした意味では、実際の加害行為をする前の段階で罰する準備罪・予備罪があるわけです。
いわゆる共謀罪は、政府・与党側は「テロ等準備罪」としています。そう書いてあると、テロの準備行為を罰するように思えます。もちろん、そうした行為を罰することが前提ですが、「等」という言葉があります。つまり、「テロ」だけを罰するのではなく、あくまでも「テロ」は、一つの例示に過ぎません。政府案では、対象になる行為は、テロ行為だけでなく、市民生活にかかわりのある行為も含まれています。
政府は当初、共謀罪の対象犯罪を676としていましたが、市民生活に影響があるとの批判があがっていたため、「組織的な犯罪集団が関与することが現実的に想定される罪」として、277の罪に絞ったのです。内容を見てみると、たしかに、テロの実行(110個)、薬物(29個)など、テロや暴力団対策と思わせる内容もあります。
しかし、市民生活に影響がありそうな内容も多く含まれています。たとえば、著作権法があります。「著作権等の侵害等」が対象となっています。たとえば、同人誌サークルがあったとします。そのサークルで、実際の漫画やアニメのキャラクターのパロディ作品を作る計画を相談したとします。著作権侵害自体は、現行では、親告罪です。しかし、共謀罪は親告罪ではありませんので、複数人で話し合いが対象になります。そして、参考図書として図書館で本を借りた時点で準備行為とみなされ、逮捕される可能性がでてきます。
もちろん、同じ行為は、同人誌サークルだけに限りません。生徒会、町内会、PTA、サークル、部活動など、あらゆる団体が対象になりえます。組織的な犯罪行為が繰り返されていることも前提になりますが、一度、似たような行為をすれば、マークされる可能性が高くなります。
「組織的な信用毀損及び業務妨害の罪」というものがあります。たとえば、近所に大きな建物ができたとします。日照権を侵害するから、みんなでマンション建設の反対運動をしようと考えたとします。複数人が同意した時点で共謀罪の適用がされることになります。反対運動のために、チラシをつくることを考えたとします。チラシをつくるために、ペンを買う行為が準備行為となり、逮捕される可能性が出てきます。
もちろん、報道機関も免責はされません。たとえば、企業の不正を暴こうとして、編集会議で提案。同意をしたとします。取材に着手したとみなされた段階、たとえば、取材対象に連絡をした、または、資料を購入したとすれば、逮捕される可能性が高くなります。かつて、某雑誌の編集長と編集者が、企業に対して名誉毀損に問われた刑事裁判で有罪判決を受けた際、「編集会議で共謀した」と認定されているのです。
テロ集団以外の団体がすることが想定されるものが他にもあります。例示するときりがありません。政府の言うように、一般市民が対象ではないというのならば、市民生活に関連しそうな項目をなぜ用意しているのかを説明する責任がありますし、それらを外せない理由が必要です。
どうしてもこうした行為を対象にしなければ、テロ行為や暴力団の行為を制限できないとすれば、一般市民を外すことが求められる。その一方で、本物のテロリストは一般市民の中に隠れてしまえば、探すことが不可能です。しかも、たとえば、ISの影響を受けて、若者が一人でテロ行為をするなどの単独犯は防ぐことができません。単独犯は共謀罪の対象ではないのです。
テロ対策は必要です。そのためにも、共謀罪ありきではなく、ゼロベースで対策を考えていく必要があるのではないでしょうか。
[執筆者:渋井哲也]
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