マツダが直列6気筒エンジンの導入を決定! 電動化時代に独自路線の勝算

NewsInsight / 2019年5月16日 8時0分

マツダは5月9日の記者会見で、2019年3月期の決算と今後6年間を対象期間とする「中期経営方針」を発表した。その中で同社は、ブランド価値の向上に向け、新たに直列6気筒のエンジンを開発すると宣言。高価格商品の充実、ひいてはマツダのプレミアムブランド化につながりそうな施策だが、クルマの電動化が進む世界において、高性能エンジンの導入に踏み切る同社の決断は吉とでるか、凶とでるか。


中期経営方針を打ち出したマツダの丸本明社長

電動化への対応が不可欠な自動車業界

マツダは2020年に創立100周年を迎える。中期経営方針では「次なる100年」に向け、「人と共に創るマツダの独自性」を追求すると打ち出した。そのために、まずは何をするのか。同社では2025年までに「新世代商品群の完遂」を目指すという。


マツダの「第6世代商品群」は2012年のSUV「CX-5」から始まった。今年発売の「マツダ3」(画像)から、同社の商品群は新世代(第7世代)に突入する

近年、プレミアム性を高めつつある商品群はマツダの強みとなっているが、そのブランド価値をさらに高めようというのが同社の考えのようだ。具体的には、これまで弱みとなっていたパワートレインの電動化を推進することと、エンジンに新しく直列6気筒を加えることが、その施策である。

マツダはかつて、V型6気筒エンジンを採用したことがあるものの、上級車種にはロータリーエンジンを搭載してきた歴史があるので、直列6気筒エンジンの投入は今回が初めてとなるはずだ。一方で、世界的に厳しくなる環境規制をクリアするためには、パワートレインの電動化を並行して進めることが不可欠となる。


マツダの上級車種といえば、同社の代名詞でもあるロータリーエンジン(画像)を積むクルマが多かった。直列6気筒エンジンを積むクルマを市場投入するのは、今回が初めてとなるはずだ

米国や中国は今後、メーカーに電気自動車(EV)の導入を促す政策をさらに強化する。欧州もCO2削減に向けた規制を厳格化していく方針で、2021年には走行距離1キロあたりのCO2排出量を95グラム以内、2030年には同60グラム以内とするよう、自動車メーカーに求めていく考えを打ち出している。走行距離1キロあたりのCO2排出量が60グラムとは、燃費に換算すると、1リッターあたりの走行距離が約39キロということになる。

欧州のCO2排出規制は企業平均値で計算するため、車両1台ごとにこの燃費を達成する必要があるわけではない。ただ、プレミアム性を売りとしていたり、車両重量が重いSUVを主力商品としていたりする自動車メーカーは、規制をクリアするため、EVを積極的に導入する必要があるだろう。


SUVのラインアップを拡充しているプレミアムブランドのジャガーは先頃、SUVのEV「I-PACE」を発売した

つまり、11年後の欧州において自動車メーカーは、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)による電動化だけでは規制をクリアできないという事態に陥る。メーカーに一定数のEVを導入するよう求める米国と中国も、当初はPHEVをその台数に含める方針だが、年を追うごとに、その割合を変えていく方針だ。すなわち、PHEVの割合を減らし、EVの割合を増やす方向に進むということである。

新たに直列6気筒のエンジンを投入すると打ち出したマツダも、世界でクルマを販売していく以上、パワートレインの電動化は避けられない。おそらく同社は、トヨタ自動車との協業を強化することで、電動化への対応を進めていくつもりなのだろう。その中心的な役割は、トヨタ、マツダ、デンソーなどが参加する合弁会社「EV C.A.スピリット」が担うことになるはずだ。

プレミアムなクルマに不可欠? 直列6気筒の特徴

では、エンジンに関してマツダは今後、どんな手を打つのだろうか。まず、同社では2019年5月に発売する新型車「マツダ3」に、新開発のエンジン「SKYACTIV-X」を搭載する。このエンジンは、「予混合圧縮着火」(HCCI)を目指したマツダ独自の技術である「火花点火制御圧縮着火」(SPCCI)を取り入れているところが画期的だ。そして、新たな施策として明らかになったのが、直列6気筒エンジンの導入である。直列6気筒は、SKYACTIV-Xとディーゼルの2本立てとなるようだ。

直列6気筒エンジンは振動が少なく快適で、滑らかな回転により胸のすく加速をもたらす珠玉のエンジンとして、高級車を中心に愛用されてきた。その発展形ともいえるが、直列6気筒をV字型に組み合わせたV型12気筒は最高のエンジンとされている。

しかしながら直列6気筒エンジンは、6つのシリンダーを直列に並べるため全長が長くなるので、前面衝突の際、衝撃を吸収する構造を車体に採り入れなければならなくなって以降、姿を消した。代わって登場したのが、直列3気筒をV字型に組み合わせたV型6気筒エンジンであり、これが上級車種に搭載されるようになった。ただ、同じ6気筒とはいえ、直列6気筒には上質さではるかに及ばない。

そんな中、メルセデス・ベンツは先頃、新時代の直列6気筒エンジンを開発し、上級モデル「Sクラス」に搭載した。直列6気筒エンジンが備える快適性や加速の滑らかさに加え、モーター駆動による電動化を組み合わせることで、エンジン全長を短くし、直列6気筒の復活を実現したのである。BMWも、限られた車種とはいえ、直列6気筒エンジンを生き残らせている。やはり、プレミアムな商品性を保つには、上質なエンジンが不可欠であるからだ。


直列6気筒エンジンを積むメルセデス・ベンツの「S 450」

そして、エンジンにこだわってきたマツダも、ここへきて直列6気筒を新登場させることになる。前述の通り、このエンジンは全長が長くなるので、前輪駆動車用ではないことが分かる。2012年の「CX-5」以降、新世代商品群でラインアップを充実させてきたマツダのクルマはいずれも、前輪駆動を基本としている。それとは別に、改めて後輪駆動の商品を登場させ、ドイツ勢のように、商品のプレミアム性をさらに高めていこうということなのだろう。それによって利益率を高め、経営を安定させる目論見なのではないだろうか。


2017年の東京モーターショーで初公開となったマツダのコンセプトカー「VISION COUPE」(ビジョン・クーペ)。前後方向に長いフロントノーズは、まるで直列6気筒エンジンの登場を予見していたかのようだ

一方で、英国のジャガーは、EVでありSUVでもある「I-PACE」という新たなクルマで、電動高級車の世界に1つの未来像を提示した。このクルマは、日本国内においてはすでに、年内に販売予定の台数がすでに予約済みになっているという。この状況を見て思うのは、クルマのプレミアム性も今後は電動化抜きで語れないということである。富裕層の人たちの間でも、これまでのディーゼルターボから、EVへと関心が移行し始めているのではないだろうか。

メルセデス・ベンツの新しい直列6気筒エンジンは、モーター駆動のほかにスーパーチャージャーとターボチャージャーを併用する。その加速感覚は、あたかもモーターのようだ。つまり、EVへの移行を視野に入れた直列6気筒エンジンなのだと想像できる。欧州のCO2排出規制が厳しさを増す2030年を前に、消費者に対し、モーター駆動の魅力を疑似体験させるエンジンという位置づけだと私は直感した。

メルセデスの直列6気筒がモーターへの移行を視野に入れたものであるならば、その寿命は、ほぼ10年だろう。だとすれば、マツダの直列6気筒エンジンも、商品性を保持できるのはせいぜい10年だ。その短い期間中にマツダは、どれだけプレミアムブランドとしての存在感を高められるだろうか。


マツダが直列6気筒エンジンを搭載するクルマとして思い浮かぶのは、フラッグシップセダンの「アテンザ」(画像)だ

エンジン開発には、多大な投資と労力を必要とする。メーカーは完成したエンジンを少なくとも10年、あるいはそれ以上の期間、商品に搭載することを視野に入れて開発するのが、これまでの通例だった。直列6気筒エンジンを積むマツダ車が、多くの台数を販売するのが難しいプレミアム価格帯の商品になるとすれば、エンジン開発に要した投資を同社が無事に回収できるかどうかについては少し、懸念が残る。

近年、マツダのブランド力が高まっているのは間違いない。同社にプレミアム性を求める消費者も、以前よりは増えているはずだ。それでも、トヨタのレクサスは、米国市場を除けば、今日の地位を築くまでに30年近い歳月を要している。新たに後輪駆動のプレミアム車種を追加するマツダに、それだけの間、辛抱できる体力はあるのだろうか。あるいは、新たに投入する上級エンジンは、米国市場で成功すれば十分だと判断しているのだろうか。


プレミアムブランドを目指したレクサスは、今の地位を築くのに30年近い歳月を要した(画像はレクサス「UX」)

この直列6気筒エンジンは、後輪駆動用となるだろう。だから、マツダの主力商品であるSUVへの展開は考えにくい。そして、ジャガーの例を見ても分かるように、SUVも電動化するという流れが、すでに始まっている。

世界的に人気のSUVは、重くて燃料消費が多いので、積極的な電動化が待たれるクルマだといえる。それと同時に、そろそろ、SUVは大きすぎるとか、乗り降りが不便だとかといった声が、消費者の間でも聞こえ始めている。SUVの中でもコンパクトなモデルに人気が集まりつつあるし、SUV人気の影響で車種が減っていたステーションワゴンやセダンに、消費者の関心が戻る可能性もなくはない。

したがって、SUVに販売台数の半数近くを依存するマツダが、SUV人気の陰りと共に、危機を迎える可能性も考えられる。その対応策として、後輪駆動のプレミアムセダンやステーションワゴンを作るため、直列6気筒エンジンを用意しようと考えたのかもしれない。

魂動デザインやSKYACTIV技術、あるいは、操縦安定性を高める「G-ベクタリング コントロール」など、マツダのクルマづくりには明らかな独自性があり、そこに魅力を感じるファンがいる。クルマづくりに対する真摯な姿勢が、消費者の間に信頼感を醸成してきた。ただ、同社の将来に対する備えは手薄で、2030年~2040年あたりの「ありたい姿」についても、いまだ具体像が語られていない。具体的な目標設定がないままに、開発者たちは何を目指して進んで行くのだろうか。また消費者は、将来像の見えにくいマツダに対し、今後も信頼を寄せて、安心してクルマを購入することができるのだろうか。

確証のないことについて明言することを避けるのが日本人の特質なのかもしれない。だが、クルマの商品価値が短期間に目まぐるしく移ろっていく現代にあっては、ある理想を掲げながら、具体的な未来像へ向かって邁進する姿をみせることが、自動車メーカーにとって、最大のブランド強化になるのではないか。もちろん、そこに技術的な裏付けは不可欠だが、ただ、石橋を叩いて技術を磨いているだけでは、消費者は付いて行きにくいと思う。

エンジンかモーターかといった些末な勝敗論議ではなく、マツダのクルマと共にある生活が今後、どのような未来につながっていくのか、そこを教えてほしいのである。

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