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2020年東京五輪、ソフト面での3つの課題とは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2013年9月10日 15時15分

 2つ目は「おもてなし」という思想の再定義です。社会的にニーズのあるサービスについて、過度に個人の自発的で無償な行動で埋めるというのは、サービスという経済的価値を低めると同時に、サービス労働の価値も低めることになります。実は、今回の「20年のデフレ」が続いた1つの要因はここにあるのですが、今回2020年の五輪開催に当たって、再び「おもてなし」ということが強調されるというのは、少し修正した方がいいと思います。

 勿論、五輪というのは基本は非営利活動ですから、サービスに全て対価が払われるということはないと思います。ですが、無償のサービスが強制される、そして「他国では有償な内容が日本では無償である」ということが「おもてなし」という「いいこと」だとして強調されるのでは、再びデフレスパイラル的な経済に陥ってしまう危険性があるわけです。

 では、どうしたらいいのかというと、「おもてなし」という思想は企業や政府が主体となって、そのサービス労働の価値を低めるということではなく、個人による自主的なモチベーションによる個人の行動であり、個人の表現なのだというように定義を変更すべきだと思うのです。

 その結果として出てくる「パーソナルタッチ」こそ、成熟社会における「おもてなし」として最高のものとなることを考えると、この点の「考え方の修正」というのは非常に重要であると思われます。例えば、五輪を契機に来日する観光客のニーズ、あるいは五輪参加者の「オフ」におけるニーズというのは、「自発的」かつ「臨機応変」で「パーソナルタッチ」なサービスだと思われるからです。

 3点目は、東京という都市における「コミュニケーション能力」の向上です。ここには色々な問題が含まれますが、まずは都市の様々な部分で「マニュアル通りの」あるいは「冷たい機械音声の」アナウンスといった「パーソナルタッチの欠落した」言語を追放していくことが必要でしょう。

 更に言えば、年齢確認は口頭だと高齢者のプライドを傷つけるからボタンで行うとか、スーパーのレジ袋は不要だという意志を伝達する際のトークは面倒だからカードで意志表示などという「コミュニケーション不全」が現在の日本語にはあるわけです。また初対面同士がいきなり話しかけるのは「コミュニケーションのエラーを起こす可能性」を軽視した危険行為だという認識も広がっています。

 ですが、日本人同士で日本語で「初対面同士の会話」のできない都市が、外国から多数の客人を受け入れることができるはずもありません。2020年までには、こうした「コミュニケーション不全」を克服することが必要です。方法は至ってシンプルで、老若男女あらゆる人間が対等で礼儀正しいコミュニケーションを行うようにするのです。高齢者や消費者といった「格上」の人間こそが、若年の人間やサービス提供者に対して丁寧表現で臨む、そのようなコミュニケーションの成熟なくして、多様な人々への「おもてなし」などできるはずがありません。

 また英語という点では、できるだけ「ネイティブチェック」ということを心がけて、文法的に誤った、あるいは大真面目に書いたつもりが英語圏の人々からは笑いものにされるようなエラーを減らしていくことが必要だと思います。駅や道路に英語表示を増やすのはいいのですが、その際に従来よりは意識的に「通じる表現に」していくことが必要だと思います。

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