クロコダイル・ダンディーな首相の素顔
ニューズウィーク日本版 / 2013年9月25日 15時31分
今月上旬のオーストラリア総選挙で野党・保守連合が与党の労働党に圧勝。保守連合を率いる自由党のアボット党首が新首相に就任することになった。
元学生ボクサーでカトリックの司祭を目指して神学校で学んだこともあるアボットは、今でも敬虔なカトリック教徒で中絶反対の立場を貫いている。選挙期間中は国民の信頼を得るべく家庭的な庶民派イメージをアピール。選挙遊説では愛娘3人もお色気を振りまいたが、アボットの女性蔑視は筋金入りだ。
学生時代には次のように書いている。「多くの分野で女性が優位に立つことはもちろん、数の上でも男性と並ぶとはとても思えない。女性の才能や能力や関心は男性とは生理的に違うからだ」。自由党の女性候補が「セクシー」だと発言してツイッター上で非難を浴びた際には、スタッフに言われるまで「失言」とは気付かなかったと鈍感ぶりを披露した。
それでも、映画『クロコダイル・ダンディー』を地でいくような「オーストラリア男児」ぶりが大衆には受けた。だが、本当に追い風になったのは労働党の内紛だ。
オーストラリアは9月の国連安保理の議長国だが、アボットの公約がまともに受け止められるとは思えない。対外援助削減、同性婚反対(同性婚は「一時的な流行」らしい)、炭素税撤廃、鉄道より道路整備を優先すること、世界遺産に登録された地域の一部を保護リストから除外するようユネスコ(国連教育科学文化機関)に要求すること......。
難民対策が選挙の争点になったが、実際の数を考えれば大げさだ。その大部分はアフガニスタンやイラク、イランからインドネシア経由でやって来る。オーストラリア沖では01年以降、船の転覆などで難民約1400人が死亡しているが、アボットはこうした「不法入国者」を海軍を投入して追い返すという。
総選挙では経済再建に多くの国民が注目したが、実はオーストラリアはOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で08年の金融危機を無傷で乗り切った数少ない国の1つだ。金融機関も住宅市場も無事だった。
それでもアボットは巧みに国民の不安をあおった。経済は破綻していないものの手直しが必要で、水際には「不法」難民が押し寄せている、と。
オーストラリアの好感度ダウンは必至かもしれない。
[2013.9.24号掲載]
リネット・アイブ
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