アメリカの保守派はどうして「オバマの医療保険改革」に反対するのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2013年10月10日 14時22分
その前提には、多くのアメリカ人は現在でも保険に入っており、自分たちは医療費の心配は余りしなくていいという状況があります。つまり基本的にフルタイムの雇用があって職場の保険に加入している人、自営業で高額の自己負担保険を買って入っている人、つまり既存の「民間の医療保険に加入している人」というのは、基本的には「オバマケア」がなくてもいいのです。
これに加えて、今回の「オバマケア」が導入される中で、民間の医療保険に関しては微妙に「不利益変更」が出ています。例えば、新しい法律では「民間の保険でも加入前の健康状態で契約を拒否してはならない」という制度が動き出しているのですが、民間の保険の場合はその分だけ保険料がアップという現象も起きています。また、「オバマケア」全体の制度改訂の中には「医療費抑制策」も入っていて、そこに引っかかると「過去に受けられていた治療が受けられない」というケースもあるのです。
つまり、元々民間の保険に入っていた人間は、新しい制度になることで「仮に失業しても政府の主管する安い保険に入れる」とか、成人した子供がフルタイム雇用に就く前の期間に入る保険ができたという「万が一の保障」が加わっただけで、基本的には余りメリットはない、事実関係として見ればそういうことになります。
ちなみに、この新しい「皆保険制度」ですが、必ずしもそれまで「無保険」の人だけでなく、高額な民間の保険に「雇用主との折半ではなく、全額自腹で」入っていた人など、誰でも入れるわけです。ですが、今回の新しい保険は「安かろう、悪かろう」という面は否めず、高額な民間の保険では可能であった治療が対象外であるとか、馴染みの医者はダメで遠くの総合病院に行かなくては使えないということになるわけで、家族持ちの人にはそのような「グレードダウン」は難しいわけです。
そうした中で、保守派の人々の中には「自分たちには何のメリットもなく、むしろ負担増ばかり」という不満が募っています。そこで出てくるのが開拓時代から脈々と流れるカウボーイ精神と言いますか、「自分と家族の健康を守るのは個人の責任」だとして「その責任を果たせない都会の貧困層の医療費コストをどうして自分たちが払わなくてはならないのか?」という発想です。
正に、小さな政府と自己責任論です。但し、アメリカの保守思想というのは、弱者を切り捨てる冷酷なものかというと、必ずしもそうではありません。福祉や相互扶助を「個人の善意」や「教会などのコミュニティの自発的活動」で達成していこうという姿勢は、民主党支持者よりも強いのです。ですから、小さな政府論と言っても、無政府主義とか破壊一辺倒ではなく、受け皿として「非政府活動」を考えているのだということは指摘しておいても良いと思います。
この記事に関連するニュース
-
ワクチン陰謀論のケネディ・Jr氏が厚生長官に 元大統領暗殺事件にも焦点か
Japan In-depth / 2024年11月21日 14時3分
-
議会女子トイレ使用で論争=トランスジェンダー初当選受け―米
時事通信 / 2024年11月21日 13時59分
-
トランプ氏、国務長官にルビオ上院議員、規制緩和など政府効率化の担当にマスク氏らを指名(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月14日 11時30分
-
【アメリカ大統領選】今さら聞けない! 共和党、民主党の違い ファーストレディの“役割”とは
オトナンサー / 2024年11月5日 7時10分
-
トランプ氏再選なら「医療保険縮小へ」 ハリス氏が有権者に警告
ロイター / 2024年11月1日 6時27分
ランキング
-
1“子どもを持たない選択”「チャイルドフリー」宣伝禁止 プーチン大統領が法律署名
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月24日 21時22分
-
2ガザ全域をイスラエル軍が攻撃、48時間で少なくとも120人死亡…レバノンでは空爆で20人死亡
読売新聞 / 2024年11月24日 18時47分
-
3韓国政府、佐渡で25日に独自追悼行事開催
共同通信 / 2024年11月24日 16時4分
-
4英新兵器、日本に購入打診 「反撃能力」向上を視野
共同通信 / 2024年11月24日 16時17分
-
5フィリピン・首都マニラのスラム街で大規模火災 住宅1000軒あまり燃え、約3000人が避難余儀なくされる
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月24日 18時57分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください