ロシアは「中東反米の拠り所」か - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2013年10月12日 13時27分
だとすると、前提とすべきは、「アメリカとロシアの対シリア利益が違うから対立している」ではなく、「両者の利害は類似しているので今回のような落としどころが可能だった」だろう。つまり、反体制派を勝たせたくもなく、アサド政権打倒に労力とカネを費やすこともしたくない、ということだ。
中東に関して、どうもソ連/ロシアの影響力が過大視されてきたように思える。東欧や、アフガニスタンのような直接的な影響力をソ連/ロシアが中東で果たしてきたことは、少なくとも1970年代半ば以降は、ない。フセイン政権時代のイラクですら、そうだ。もし、ロシアが今のシリアやイラク戦争前のフセイン政権に強力な影響力を持っているなら、政権内部に介入して、より国際社会に受け入れやすい新政権を作り上げるくらいのことを考えてもおかしくないだろう。だが、そうした内政干渉ができたのは、1970年代末のアフガニスタンが最後だ。そして、いずれの中東の親ソ政権も、アフガニスタンでソ連の傀儡政権が作られていったのを見て、ソ連と距離を置くようになったのだ。
つまり今ロシアは、アメリカに対抗するための反米派の拠り所ではなく、アメリカと折り合いをつけられない非親米国が国際社会とのパイプを維持するための、窓口として重要なのである。
そのことは、アサド政権がロシアの「化学兵器廃棄」の呼びかけにさっさと乗ったことを見れば、よくわかる。湾岸戦争やイラク戦争直前のイラクのフセイン政権は、そうではなかった。仲介の手が差し出されても、超大国アメリカと対峙することで名を挙げ、反米のヒーローとなることを選択した。アサド政権は、その点でイラクのフセインとは決定的に異なる。
ちなみに、アメリカがイラクに湾岸戦争開戦の最後通告をした際、当時の駐イラク・ソ連大使が大統領官邸に駆けつけ、戦争回避のためにアメリカに妥協するようフセインに進言しに行ったといわれている。ところが、深夜だったので、「大統領閣下はお休みになっている、明日にせよ」と追い返されて、湾岸戦争が始まった。
今回ロシアの「仲介」が奏功したのは、アサド側もロシアも、その教訓を生かしたからかもしれない。
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