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米情報機関に「監視」されても激怒しない日本政府 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2013年11月5日 11時3分

 どうしてなのでしょうか?

 何と言っても、日本という国は第2次大戦の敗戦、とりわけ諜報戦・情報戦に完敗した経験から、官民挙げて諜報活動というものに距離を置いてきたということがあります。秘密裏に相手国の情報を収集したり、重要な問題を自国の世論から隠したりというカルチャーそのものに対して良い意味で関心がなく、つまり依存したり過敏になったりしないということがクセとしてついているのだと思います。そのことが、この種の話題への反応を冷静なものにしていると見ることができます。

 これに加えて、政権の中に「アメリカと利害が対立する」点が少ないということがあると思います。つまり「見られて困るような情報は少ない」ということです。自衛隊の主要な作戦システムは米軍と一体化されていると言われていますが、最高の国家機密に類する軍事情報に関してすら「ほとんどアメリカに隠す必要がない」状況下では、監視されることへの懸念は少ないのだと考えられます。

 政権以外のグループにしても、例えば極左や極右あるいは宗教的な集団などでも、アメリカと大きな対立点を抱えているとか、アメリカが真剣に脅威とみなしているグループはほとんどないのだと思います。そのために、CIAやNSAも真剣には覗いていないだろうとか、見られても困らないし腹も立たないということがあるのではないかと思います。中には「覗かれているほうが一人前として見られていることになる」などと考える向きもあるわけで、そのぐらい緊張感はないのかもしれません。

 日本に対する諜報活動に関しては、1990年代の冷戦終結後にクリントン政権が「せっかく作ったエシュロンの使い道がない」として、当時は米国経済の脅威であった日本の産業界の活動を「監視」するために盗聴行為を繰り返していたという報道があります。ですが、仮に産業界が監視されていたとしても、北米市場というのは日本の産業界の「主要顧客」ですから、産業界としても「事を荒立てたくない」という態度になるのだと思います。

 では、日本にとっては「NSAスキャンダルは他人事」であって、別に「日本が監視対象であっても怒らなくていい」のでしょうか?

 これは違うと思います。日本にとっての二国間関係は、日米関係だけではありません。第三国から見た場合に、仮に日本との二国間で「当面は秘密裏に交渉した方が万事うまく行く」というような懸案事項があったとします。そうした進行中の課題に関する情報が、NSAの監視を通じて米英同盟に対して「筒抜け」であるというのは日本の国益には反すると思います。

 通商分野でも、例えば企業間の民間ベースの取引で、日本政府や日本企業が米国に監視されていても無頓着であると思われれば、その分だけ相手は警戒するし、リスクを取って情報を共有することには消極的になると思います。その意味で、独立国が他の国によって網羅的に情報をモニターされているという報道があったとして、そのことに関して怒りもせずに冷静な態度で一貫しているというのは決して自然ではないと思うのです。

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