いかれた『フィルス』の愛すべき世界
ニューズウィーク日本版 / 2013年11月19日 16時20分
──今回は主演のジェームズ・マカボイも、あなたたち2人もスコットランド出身だ。あなたは以前に「ブルースは典型的なスコットランド人」とインタビューで言っていたが、どういうところが?
ウェルシュ ブルースは90年代の申し子、と言ってもいいキャラクターだと思う。スコットランドはもともと共同体意識や仲間意識の強い、労働者階級が暮らす社会主義的な場所だった。それが80年代にサッチャリズム(*)が入ってきて、個人主義を進めていった。スコットランドは政治的にはサッチャー首相を拒絶したが、文化的には個人主義を受け止めたところがあったと思う。その結果、奇妙なものが出来上がった。仲間意識があるけど、実は互いに足を引っ張り合って競争している社会だ。(*サッチャリズム:マーガレット・サッチャー英首相が「新自由主義」を掲げて進めた経済政策で、規制緩和や民営化など「小さな政府」への転換を図った)
心の旅路 これまでオファーのあったどんな脚本よりベアード(右)のものがよかったと原作者ウェルシュは言う
──マカボイのこれまでのイメージを壊すような、突き抜けた演技がすごくいい。
ベアード ジェームズは「ミスター・ナイスガイ」というか、中流の人といった役どころが多かったから、エージェントから会ってくれと言われた時は「ちょっと違うんじゃないか?」と思った。でも実際に会ってみてすぐに気付いたが、彼はそういう公のイメージとは全然違う人なんだ。
アーヴィンの場合、ああいうダークな作品を書いているからクレイジーで強烈な人だろうってみんな思っていると思う。でも会うと分かるんだが、本当はテディベアみたいな優しくていい人。ジェームズは逆に、みんなナイスガイだと思っているかもしれないけど、実際はとげとげしくて激しいところもある。会った時はちょっとびっくりした。
彼に決めた一番大きな理由は、私自身、心に病のある人と一緒に暮らした経験があるが、彼にもそういう経験があったこと。だからブルースに対して理解がある。それが分かったとき、この人に決めようと思った。
これは後から分かったことだけど、ジェームズは撮影期間中、毎晩ウイスキーをボトル半分開けていたらしい。次の日に二日酔いでブルースみたいに嫌な気分になるため。それと、年を取って見えるためにね。彼は本当に若く見えて、最初に会ったときは10代かと思うくらいだった。
──ブルースみたいな人は、本や小説の中では「イヤだけど愛すべき存在」みたいになるが、現実世界で身近にいたら嫌ですよね?
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