タイ「恩赦ごり押し」法案の大誤算
ニューズウィーク日本版 / 2013年12月2日 16時59分
赤シャツ隊のメンバーは、タクシン失脚後に政権の座に就いたアピシット・ウェチャチワ前首相の断罪を強く求めている。10年4月と5月にタクシン派のデモを鎮圧するため軍隊が出動し、赤シャツ隊のメンバーなどに90人余りの死者が出た。この責任を問われ、アピシットとステープは先月末に殺人容疑で起訴されたが、恩赦法が成立すれば2人の起訴も取り下げられることになる。
これについては、恩赦法成立を目指すインラック政権が反タクシン派の譲歩を引き出すための交渉カードにしようと、殺人容疑での立件を急いだとの見方もある。
だが、赤シャツ隊をはじめタクシン派はアピシットらが恩赦の対象になることに反発。タクシンの息子パントンテもフェイスブックに、10年のタクシン派「虐殺」の罪をもみ消すことは許せないと書き込んだ。
身内からも逆風が吹き荒れるなか、インラックとタクシンは恩赦法の意義を必死で訴えた。「いずれ一線から退くわれわれ(対立世代)が、国家の利益を顧みず権力闘争を続ければ......傷つき衰弱した国で後を継ぐ子供たちの世代が生きることになる」と、タクシンは下院の採決を前にシンガポールのタイ字新聞で訴えた。
だが恩赦法は上院に上程されても成立は危うかった。仮に上院が可決しても、裁判で違憲性が問われ無効になる可能性があった。
インラックとタクシンに誤算があったのではないか。この法案でタクシン人気が試され、国民がタクシンの復権にノーを突き付ける結果になった。一方、反タクシン派は少なくとも表面上は抗議の高まりで勢いを得たかに見える。ステープは民主記念塔での集会を率い、アピシットもシーロム地区での抗議運動を主導した。
不敬罪が民主化の妨げ
とはいえ、実際のところ恩赦法に抗議した人たちの多くは、インラックをタクシンの操り人形にすぎないとして批判する一方で、ステープとアピシットにも不信感を抱いていた。
結局のところ、恩赦法騒動で誰も得しなかったと、タイのタマサート大学のタネット・アポンスワン教授はみる。タクシン派と反タクシン派の不毛な報復合戦は終わりそうもない。インラックも和解に貢献できず、恩赦法に国民が猛反発したことから、タクシンが帰国すれば事態はさらに悪化するだろう。「誰の手にも負えず、誰も新たな道を示せない。共通の土台がないんだ」とタネットは言う。
それでも、タクシン派と反タクシン派が少なくとも表向きは一致する点が2つだけあるようだ。プミポン・アドゥンヤデート国王に対する敬愛、そして不敬罪の受刑者は恩赦の対象にならないという考えだ。
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