安心を売る新SNSスナップチャットの実力
ニューズウィーク日本版 / 2013年12月12日 15時39分
21世紀の終わりに現代を振り返る歴史家は、私生活を「シェア」したがるわれわれの飽くなき衝動を、変わり者たちの一時的流行と思うだろう。正常な生活からのちょっとした逸脱は、いつの時代にも付き物だ。さらに歴史家は、この衝動が色あせたきっかけとしてスナップチャットの台頭を挙げるに違いない。
スナップチャットは、メールであれ写真であれ閲覧後は数秒後に消えてしまう自然消滅型の写真共有アプリ。スマホなど携帯メールに特化した新型のSNSで、10代の若者を中心に人気を博している。
フェイスブックは最近、スナップチャットに30億ドルで買収を提案したが、飲酒年齢に達したばかりの若き創業者たちにあっさり断られた。スナップチャット側は、自分たちだけのほうがうまくいくと回答した。
彼らの決断はおそらく正しい。ITの新製品をいち早く試すオピニオンリーダーたちのプライバシーに対する考え方は根本的に変化している。元CIA職員のエドワード・スノーデンが米政府の大規模なのぞき見行為を暴露して以降、プライベートをさらけ出す行動が180度転換し、プライバシーを守り抜こうという方向に変わりつつある。
スナップチャットには、自分のヌード写真を送るために使っている利用者が多い。恋人や友人に届いた画像も自分の端末の中にある元データも、閲覧後は10秒以内には消えてしまう。知らないうちに「元カノの裸を採点!」などというサイトにアップされてしまうリスクがない。この自動消滅技術こそスナップチャットの神髄だ。
ビジネスモデルは未知数
さらにスナップチャットは過去20年間のどのインターネット会社とも異なる特徴を持つ。スナップチャットは一切、個人情報を蓄積しない。利用者のデータを集めて広告主に売ることもない。
ベンチャーキャピタル、ゼネラル・カタリストのヘマント・タネジャ専務は、早くからスナップチャットに投資していた。プライバシーに対する人々の態度が変わると感じたからだ。人類の歴史で今ほど自らをさらけ出す手段と欲求に駆り立てられた時代はない。われわれはこの新しい実験に夢中になった。まるで初めてビールを飲む大学生のように──とタネジャは話す。
今は、その酔いがさめつつある。8月にピュー・リサーチセンターが行った調査では、10代の若者の26%がオンラインで個人情報を扱う携帯アプリを削除したと答えた。別の調査では、10代の43%がオンラインのプライバシーについて「とても心配している」と回答している。
この流れはフェイスブックにとっては逆風だ。10月末に発表した第3四半期決算で、同社は「若年層の1日当たり利用者数が減った」と認めた。
一方、創業わずか2年のスナップチャットでは2600万人の利用者が1日3億5000万枚の写真を送っている。1年前の1日1000万枚と比べて激増だ。世界でもスナップチャットのようなアプリを求める消費者の声が強まっている。
だからといって、フェイスブックが終わったわけではない。その利用者は世界で12億人、デジタルライフの一部になっている。フェイスブックはいわば人々が集まる町の中心広場で、スナップチャットは秘密のツリーハウスのようなものだ。
それでも時代の精神はシフトしているようだ。今やプライバシーの対極を象徴するブランドとなったフェイスブックの申し出を蹴って、独自の道を行くスナップチャットが新ネット時代の寵児になるだろう。
ケビン・メイニー
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