マリフアナ合法化は格差を拡大させる
ニューズウィーク日本版 / 2014年1月6日 12時17分
若い世代に就職を世話してあげられない時代になった。たとえ仕事が見つかっても、どうせ親の世代より稼ぎは少なく、家庭は安定せず、暗い老後だろう。
でもわれわれは決して彼らのために何もしていないわけじゃない。雇用や家庭や明るい老後の代わりに、ほかでもないマリフアナ(乾燥大麻)やポルノを残していくのだから。
コロラド州とワシントン州では2012年に、マリフアナが嗜好品として合法化された。カリフォルニア州でも医療用マリフアナは合法。ほか47州でも違法とはいえ手頃な価格で簡単に手に入る。
アメリカは1人当たりのマリフアナ消費量が世界最大というが、驚くに値しない。アメリカ人はどの国の人たちよりも酒を飲み、大食いし、車をぶつけ、自分に向けて(他人にも)銃を放つ。世界でも指折りの「危険な行為」が大好きな国だ。
それにしても、マリフアナ問題というと決まって合法化論争に陥りがちだ。その前にちょっと考えてみたい。合法化したら使用者数も消費量も増えるという事実には、誰も異論を唱えないはず。ここで現実をよく見詰めてみよう。
常用者は常用していない人に比べて、学校の成績が悪かったり学習能力に劣ったりする。仕事の出来は悪く、欠勤が多く、事故に遭う確率も高い。友達も少なく、社会の下層に属する。
厳しい現実が生む1つの「症状」
これらの問題はすべてマリフアナが原因なのかというと、そう簡単には言えない。米国立薬物乱用研究所も脳科学の観点から慎重な見解を示した。「常用者の学習と記憶における悪影響は数日または数週間続く可能性がある。......毎日吸引すると、知的能力を最大限に発揮できない状態が続くことになり得る。(とはいえ)マリフアナの長期使用が脳に及ぼす影響に関する研究結果は一貫していない」
マリフアナの常用は諸問題の原因というより、1つの症状と言えるかもしれない。学校や職場で苦労する人がマリフアナに頼るという可能性もある。因果関係はともかく、マリフアナを吸引するということは問題を抱えている証しであり、注意を喚起されるべき行為だ。
幸い大半の若者は試すだけでやめるから、常用者になって長期的な悪影響を被ることはない。しかし最近は試す人の数自体が増えているので、おのずと常用者も増えることになる。
常用者になる可能性が高いのは、さまざまな機会を取り上げられてしまった若者たちだ。この数十年の間にアメリカ社会は貧困層が中間層へと上昇するための道を次々と閉ざしてきた。賃金水準は低下し、雇用の安定は損なわれ、高等教育の学費は上がり、両親がそろった家庭は減っている。
そんな世の中で、さらに「自傷行為」を助長すべきだろうか。麻薬が合法化されたら今以上に社会の上層3分1と下層3分の2との差が広がるだけだ。気がめいる現実から逃避するために、手軽な道を求める若者が増えるだろう。
「合法化に反対すれば、刑務所人口の増加を支持することになると考えがちだ」と、最近までオバマ政権の薬物問題アドバイザーだったケビン・サベットは言う。「マリフアナ使用率も収監率も両方下げることはできる。どちらか一方を達成すれば他方が達成できなくなるわけではない。(常用者に対する)治療支援といった賢明な施策を合わせることで可能になる」
サベットは「第3の道」と称して、合法か否かの二者択一ではない新たな選択肢を模索している。アメリカの若者の未来を麻薬でぼうっとさせるわけにはいかない。
[2012.12.26号掲載]
デービッド・フラム(本誌コラムニスト)
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