東日本大震災と戦争被害をつなぐ - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年1月21日 11時22分
大量の死に責任を負うものが、その事実を押し隠そうとする行動もまた、悲しいかな、戦争と被災はよく似ている。2002年、ヨルダン川西岸のジェニンでイスラエルがパレスチナ人難民キャンプを攻撃し、多くの犠牲者を出した事件で、国連査察団が調査に入ろうとしたのを、イスラエル政府は一切認めなかった。視察できるようになったときには、その証拠はさっぱり、消されていた。
なぜ人は、都合の悪い出来事が起きたときに、残された人々が最も知りたい「なぜ命が理不尽に奪われたのか」という疑問を一層深める形で、事実を隠ぺいしようとするのだろうか。それが、ますます人々の距離と対立と憎悪を深めてしまうことは、数々の紛争の経験から、よく知っているはずなのに。
大切な人の死を理不尽なまま、認めることはできない。だとすれば、失われた命は「意味があった」と無理やりにでも思わなければ、やっていられない。だがそこで、死そのものを肯定する安易な意味づけがなされてしまうことは、怖い。それが人種主義や排外的ナショナリズムやある種の宗教など、理不尽に命を奪うことを正当化するロジックに、頼りがちな環境が生まれることが、怖い。無理やりの意味づけではなく、合理的に納得のいく意味を亡くなった者たちに与えるために、死の原因を検証することは不可欠だ。
被災地を訪ねながら、町を挙げて復興が進んでいる場所と、大川小学校のように、置いてけぼりにされていこうとする場所の落差の大きさに、愕然とした。それもまた、戦争後の復興と重なるものがある。被災したのは同じでも、復興の過程で、被災者社会が引き裂かれていく。訪ねた被災者のなかには、仮設住宅の人々に対して、同じ地元の住民から、「3年もたったのに、いまだに文句を言うな」と言われる、と嘆く者もあった。家を流されて補償金をもらえたんだから、そうじゃない人たちに比べて儲かったじゃないか、と。
イラク戦争から1年半後、新政府が選挙を実施して新たな国づくりを目指す、と息巻いていたときに、中部のファッルージャで大規模な掃討作戦が実施された。掃討作戦でがれきの山となった町で選挙などできるはずもないのに、政府は選挙を断行し、ファッルージャの人々は、自分たちは戦後の復興プロセスから意図的において行かれたという意識を、強烈に抱いた。その後、宗派対立と呼ばれたイラクの熾烈な内戦は、こうして被災者を分断することから、始まったのだ。
石巻滞在の最後の日、イラク戦争のころに付き合いのあったジャーナリストに、ばったり出会った。イラク戦争後の復興に奔走していた援助機関のなかには、震災後の復興事業にボランティアとして真っ先に飛び込んでいった人たちが多い。人災でも天災でも、被災の痛みに人が動かされることは共通している。
その一方で、同じ国の災厄なのに、三年近くの年月を経ていとも簡単に忘れ去られようとしていることにも、愕然とする。中東を研究する者としては、遠い海外の紛争のことだから、中東の被災者の痛みに日本人が鈍感であっても仕方がないのかも、と諦めていた。だが、同じ日本人に起きたことに対してすら、かくも他人事化していることは、なにかおかしくはないか。国内であれ国外であれ、被災者は置いて行ってもかまわない人たちなのだ、という感覚が、どこか蔓延してはないか。それが、一番怖い。
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