「ネット・ニュートラリティー」はなぜ万人にとって大問題なのか - 瀧口範子 @シリコンバレーJournal
ニューズウィーク日本版 / 2014年1月24日 12時46分
さて、冒頭に挙げた判決では、極端に言うとブロードバンド回線を提供するベライゾン、AT&Tなどが、グーグルやアマゾン、ネットフリックスなどのサービスに意地悪をして、ユーチューブのビデオが途中でフリーズしたり、アマゾンのストリーミング映画がなかなか始まらなかったりするような手立てを講じることが可能になるのを意味する。
そして、ユーザーたちにそんな思いをさせたくないのならば、通信帯域のためにもっと金を払えと、ネットサービス会社に巨額の料金を要求してくることもできるのだ。これは日本で言われる「ネットただ乗り論」に通じるものだが、アメリカの場合はただの上乗せ料金是非論だけではなく、もう少し微妙な色合いを拾い上げているように思える。
たとえば今回の判定の結果、すぐにとは言わないがこんなことができるようになる。通信会社が、グーグルやアマゾン、ネットフリックスなどに追加料金を要求する。払わなければ、ブロードバンド通信のスムーズさは約束しないと言い出すかも知れない。サイト側は反発するだろう。そしてユーザーも声を上げるだろう。
だが、ユーザーの使い勝手を優先するために、いずれ各社は料金を払うようになる。しかも、その料金はいずれわれわれユーザーへ跳ね返ってくる。今は無料なものが有料になったり、手頃だった利用料金が値上げされたりすることにもなるだろう。
もし追加料金を要求しない場合でも、通信会社が自分たちだけのためにもっと高速の通信接続を利用するかもしれない。コムキャスト、タイムワーナーなど通信会社はケーブルTVや独自のコンテンツを持っているところがほとんどで、これまでインターネット上で映画やビデオをストリーミングするサービスを苦々しく思っていた。今回の判決で、ここぞとばかりに自分たちだけの特別帯域を確保して、巻き返しを図ることもあり得るのだ。上の川のたとえで言うと、川をふたつに仕切って、片方だけを自分たち専用にするようなものだ。
また、イノベーションの面から見ても懸念が残る。高い料金を払える大企業と、スタートアップ、あるいは発明心に富んだ個人との格差がどんどん広がっていくからだ。ふたたび川のたとえに戻ると、高い料金を払えるグーグルやアマゾンは船を大きくするだろう。そして川幅を塞いでしまう。もし、新しいスタートアップが面白い船を発明しても、大きな船が行く手を阻んで通れない。面白いネットテレビ局を立ち上げようとする個人も、接続が悪くて視聴者がいつかなくなる。
持てる者と持たざる者、既得権を持つ者と新参者の差がどんどん大きくなってしまうのだ。そして、これはコンテンツのサービスだけではなく、クラウドを利用した新しいアプリケーションやサービスなどもっと広い範囲にも影響が出てくることなのだ。
FCCが次にどんな動きに出るのかはわからない。政治的な障害も満載だ。ネット中立問題は、まだ始まったばかりなのだ。
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