「金髪・付け鼻」はどうして差別になるのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年1月30日 13時48分
オバマにしても、最初の選挙の際には「反白人主義の過激な牧師と仲がいいのでは?」などと中傷されるなどの「人種問題」がありましたが、二度目の選挙ではそんな意識は消えています。ビヨンセに関しても、ディスティニーズ・チャイルド時代とは違い、現在の「ビヨンセ」ブランドに人種を意識する人はいなくなりました。田中投手に至っては、日本人ばかり優遇されるというような人種がらみの批判は絶無です。
つまり少なくともアメリカでは「白人優位」というカルチャーは消滅しているのです。残っているとしたら「本当はアメリカを作ったのは白人で、白人優位のはずなのに、どうしてこうなったのだ?」という「一部の白人の負け犬意識」があるぐらいで、そうした種類の人物は今でも機会に乗じて「白人優位」的な行動をするかもしれません。ですが、その背景にあるのは自信やプライドではなく、敗者としての屈折であったりするわけです。
ですから、「そもそも白人が優位である」という「暗黙の前提」にもとづいて、白人の身体的特徴を戯画化しても「下から上という視線」があるかぎり「問題ないだろう」という発想は、全くもって「ガラパゴス」であるわけです。
もっと言えば、今回のクレームは日本在住の外国人たちから出てきたわけですが、彼等は「旬の二枚目俳優」である西島さんの「カッコよさ」を自然に理解しているのだと思います。彼との、つまり「カッコいい日本人男性」との対比という形で、「金髪、付け鼻」のバカリズムさんが登場した時点で、「自分たちがバカにされた」という瞬間的な不快感になったのは極めて自然です。
そもそも「高い鼻」とか「金髪」という記号が「プラス」という発想もありません。高すぎる鼻をコンプレックスに思っている人はたくさんいますし、金髪に至っては「頭が悪い」という偏見で見られることすらあります。例えば女優のリース・ウィザースプーンが一躍人気女優になったコメディ映画『キューティ・ブロンド』という映画があります。「ブロンド娘がハーバードの法科大学院でサクセスする」ドタバタ喜劇ですが、この映画の主要なコンセプトは「見かけはバカに見えるブロンドで、行動パターンも庶民的だが、最終的には法律の最高学府でサクセスする」という「下克上的なカタルシス」がネタなわけです。
この映画にしても、見ればそのコンセプトに誤解はないと思います。ですが、邦題が『キューティ・ブロンド』になっていること自体が「ブロンドというのはプラスの記号」という「勘違い」を示唆しているように思うのです。ちなみに、原題は "Legally Blonde" という何とも絶妙なタイトルになっています。そこには「金髪娘はそもそも法律的ではない、あるいはハーバードの法科大学院に行くのは正当ではない」という「マイナスの前提」があって、その上で「だけれども」この主人公の場合はサクセスするということで、「法律的」であり「正当」だという「どんでん返し」が成り立つわけです。
そうした文脈に加えて、そもそもは「他人の身体的特徴を不要な形で誇張して表現する」こと自体が「不快」だという感覚は、現在の国際社会では非常に重要なスタンダードになっている、この点が一番重要だと思います。
今回の問題は、白人金髪が「優位なのか」どうかということよりも、そもそも人間の身体的特徴を不要な形で表現することへの反省という点で捉えるべきだと思います。少なくとも、ANAは国際企業として、これからはアジア圏と北米や欧州の「乗り継ぎ客」マーケットを重視してゆくことになると思います。つまり多様な人種・国籍の乗客からの評価を高めることが経営戦略上重要になるわけで、こうした「勘違い」はこれで最後にしてもらいたいと思うのです。
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