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民主党が政権に残した「バカの壁」原子力規制委員会 - 池田信夫 エコノMIX異論正論

ニューズウィーク日本版 / 2014年2月5日 19時11分

 東京都知事選挙で細川元首相などが「原発再稼動の阻止」を訴えているのに対して、安倍政権は「原子力規制委員会が安全と認めた原発は再稼動する」という方針だ。しかし当コラムでも書いたように、再稼動の審査なるものは存在しない。規制委員会がやっているのは、2013年にできた新しい規制基準についての安全審査で、運転とは別である。運転しながら安全審査をすればいいのだ。

 ところが規制委員会の田中俊一委員長は「原子力発電所の新規制施行に向けた基本的な方針(私案) 」で、「新規制の施行段階で、設計基準事故対策及びシビアアクシデント対策(大規模自然災害やテロに起因するものを含む)として必要な機能をすべて備えていることを求める」とし、「規制の基準を満たしていない原子力発電所は、運転の再開の前提条件を満たさないものと判断する」と書いている。

 新規制(安全基準)が施行されたのは2013年7月だが、この段階で「必要な機能をすべて備えている」原発はないので、運転再開の前提条件を満たさない。つまり規制委員会は、新たにゼロから設置変更許可を申請させて審査を行ない、それが完了するまで原発はまったく運転できないのだ。

 わかりやすく、建物の例で説明しよう。あなたの家が築40年の老朽家屋で、建築基準法の耐震基準を満たしていないとしよう。ある日、役所がやって来て「今日からどこの家にも必要な耐震基準をすべて備えていることを求めるので、建築確認をもう一度出してください。その審査に合格するまで、立ち退いてください」と言ったら、あなたはホームレスになってしまう。田中氏の言っているのは、そういうことだ。

 このように新しい法律を過去にさかのぼって適用する遡及適用は憲法で禁じているが、原発の場合は新基準のバックフィットを条件つきで認める場合がある。それは安全性を高める公共の利益が電力会社の損害より大きいときに限り、法律で例外規定を明記するのが普通だ。

 ところが田中私案は、このような配慮も法的措置もなく、すべての原発を一律に違法にしてしまった。しかもこの私案は、委員会規則にもなっていない私的なメモである。こんな恣意的な行政指導を認めたら、規制委員会は何でもできる。気に入らない電力会社の原発を廃炉にしようと思ったら、それが違反になるような安全基準をつくり、「今日からお前は違反だ」と宣告すればいいのだ。

 この田中私案を元官僚に見せると、みんな驚く。公文書の体をなしていないからだ。おそらく工学部出身の田中委員長は、バックフィットが憲法違反と紙一重の危険な規制だということを知らないのだろう。これは彼の個人的な思いつきではなく、当時の民主党政権の意思を反映していた。昨年4月30日の北海道新聞のインタビューで、菅元首相はこう答えている。

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