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田中将大投手の入団会見は、どうして「準備不足」でも許されたのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2014年2月12日 11時23分

 YESの特番でも「通常のこの種の会見の流れとは全く違った形になってしまった」としながらも、「ロスト・イン・トランスレーション(同名の映画にひっかけて、通訳の失敗による誤解のこと)は全くなかったので良かった」という妙な解説をしていましたが、とにかく田中投手サイドからのステートメントがなかったのは不自然でした。

 その分、質疑応答タイムで質問が殺到したかというと、「偉大なタナカ投手」に敬意を表したのか、ステートメントがなかったので調子が狂ったのか、日米のメディアからもそれほど切れ味のある質問は出なかったのです。田中投手としては「無難に切り抜けた」格好ですが、会見全体としては消化不良な感じが明白でした。



 では、明らかに準備不足であったにも関わらず、どうして今回の会見は「うるさいニューヨークのメディア」から叩かれずに済んだのでしょうか?

 それは、とにかく「田中投手に対する期待感がもの凄く高い」という一点に尽きると思います。会見を受けて色々なメディアが記事を書き始めていますが、本稿の時点では「松井秀喜にアドバイスを求めたのは良い兆候」だとか、ハル・スタインブレナー共同オーナーが「ハートの強い若者だと感じた」と言ったのを受けて「オーナーの面接にはパスした」とか、今回の会見の少ない情報量を「水増し」するかのように記事を作っている傾向があります。

 今回の会見では、キャッシュマンGMがコメントの中で、2007年から田中投手の調査を開始していたことを明かしています。そして2013年に関しては、ホームゲームのほぼ全試合にスカウトを派遣しており、延べ11人のスカウトの意見を集約した結果オファーを出したという「楽屋裏」を明かしていましたが、NYのメディアはそのコメントにもかなり反応しています。つまり、今回の7年の大型契約というのは、無謀ではないという「安堵」をしたというわけです。

 この7年契約という問題に関しては、例えばキャスターのマイケル・ケイは「仮に常識的な4年契約にしたとしますね。そうすると4年間大活躍したとすると、その次はどうしても7年というような大型契約になる、その場合は29歳からの7年契約ということで、多少リスクが出てきますね。でも、この25歳という時点から32歳の7年を押さえるという契約の方が全体的にリスクは低くなる」などという解説をしていました。まあ、その言い方には「田中は絶対に先発ローテを守って活躍する」というのが前提になっているわけで、とにかく多少今回の会見が準備不足であったというようなことは、問題にならないような強い期待感があることの証拠とも言えるでしょう。

 いずれにしても、田中投手の場合は、数日後にキャンプインが迫っています。そこでの自己紹介に始まるチーム同僚や監督、コーチとのコミュニケーションがスムーズに行くことが重要です。そして何よりもスプリング・トレーニング戦(オープン戦)で調子を上げていって公式戦で好調なスタートを切れば、誰も非難はしないでしょうし、その点から言えば今回の会見での「メッセージ不足」については、この忙しい街の人々からは忘れられることになるかもしれません。

 ただ、今後に関しては「NYの街が自分の何を知りたがっているのか?」をリサーチした上で、その期待を裏切らないようなコミュニケーションを取っていくことが必要となります。その点から考えると、やはり今回の会見に関しては「準備不足」という評価をしておきたいと思います。

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