F1映画『ラッシュ』は熱くスリリング

ニューズウィーク日本版 / 2014年2月12日 15時4分

 70年代に活躍したF1の名レーサー、ニキ・ラウダとジェームズ・ハントをご存じだろうか。性格もレーススタイルも対照的な2人は、76年のグランプリシリーズで熾烈なチャンピオン争いを繰り広げた。しかしラウダが8月のドイツグランプリで大クラッシュを起こし、瀕死の重傷を負う――。

この76年のシリーズを軸に、2人の宿命の戦いを描いた映画『ラッシュ/プライドと友情』が日本公開中だ。監督は『バックドラフト』『ダ・ヴィンチ・コード』など数々の映画で知られるロン・ハワード。頭脳派のオーストリア人であるラウダを演じたダニエル・ブリュールも、女好きで奔放なイギリス人のハントを演じたクリス・ヘムズワースも見事なほどの適役だ。

F1ファンでなくても、ラウダの壮絶な事故を知らなくても、男同士の戦いに興味がなくても、この映画を見れば強力な磁力に引きつけられるだろう(クライマックスとなるレースの舞台が富士スピードウェイなのも興味深い)。冒頭から観客をぐいぐい引き込み、ときに静謐なドラマをみせながら最後まで突っ走る快作を手掛けたハワードに話を聞いた。

──『ビューティフル・マインド』『フロスト×ニクソン』など、あなたはこれまでも実話に基づく作品を手掛けてきた。実在のモデルや物語があるからこその難しさ、また利点は何だと思うか。

まず難しいのは、いろいろと調べて事実を集めたうえで、物語のどこに焦点を合わせるかを決断すること。監督として、語り手として、自分が観客に何をいちばん伝えたいかを決めることだ。

それにドキュメンタリー映画ではないから、わくわくできるような娯楽性も必要になる。そうしたクリエイティブな決断をどうすればいいか、いつも明確な答えがあるわけじゃないから難しい。

 強みとしては、まさに「事実は小説より奇なり」ということ。映画になるような実話は本当に驚くべきもので、信じられない結末だったりする。もし僕がフィクションとして作ったら、観客は「でっち上げだ。こんなのありえない」と感じることもあるだろう。



© 2013 RUSH FILMS LIMITED/EGOLITOSSELL FILM AND ACTION IMAGE.ALL RIGHTS RESERVED.


 いい例が、富士スピードウェイでのレースだと思う。あれだけ特別で、感動的で、はらはらさせられるクライマックスを説得力もって描くことができるのも、実際に起きたことだからだ。

『アポロ13』で面白い話があるんだ。僕が初めて実話に基づいて作った映画だが、内覧試写でアンケートを取ったところ非常に好評だった。でも、ある23歳の男性が酷評していて、「エンディングについてご意見をお願いします」という欄に「ハリウッドのひどい嘘っぱちだ。彼らが生存できるわけがない」と、でかでかとした字で書いてあった。でも実話なんだから、嘘じゃないんだよ!

──『ラッシュ』の企画が持ち上がった当初、あなたはF1のファンではなかったというし、F1自体もメジャースポーツではない。それでも面白い話になると思ったのはなぜか。

登場人物が魅力にあふれ、個性的だと思ったから。物語の背景となる70年代のカルチャーにもすごく引かれた。自由奔放で大胆で、セックス革命が起こり、あの時代特有のロマンがあった。

それにテクノロジーの発展で以前なら無理だったような、臨場感があってスリルに満ちたレース映像が撮れるとも思った。キヤノンの小型カメラを初めて使用したけど、本当に性能がよかった。

──レースシーンがとにかく圧巻だが、CGをかなり使った?

 イエス。ただ、当初予想していたよりも実写を多く使った。というのも、かつてラウダやハント、マリオ・アンドレッティが実際に運転していた車を貸してもらうことができたからね。それらのレプリカも造ったが、本物も使っているから、それらに見劣りしないようにということでリアル感の基準値がものすごく高くなった。



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──これはハントとラウダの物語だが、どちらかというとラウダ寄りの視線のように感じた。そのあたりのバランスはどう取ったのか。

 僕としてはとにかく2人の男が互いに影響し合い、成長していく道のりを描きたかった。ラウダを取り巻くドラマはあまりに衝撃的だから鮮明な印象を残すし、人々の心を捉えるだろう。でも僕の意図は、ヒーローと悪役という描き方はしないこと。2人とも同じように複雑で、欠点だらけで、でも並外れた能力を持つ人間だ。

でも、あなたの直感も正しいよ。僕個人としては、ハントよりはラウダに共感を持った。

──生き方に共感を覚える?

彼のことは尊敬しているし、彼と僕は同じことを感じていたと思うんだ。「成功する」という野心を持っていたが、その目標は一夜にして実現できるものではなく、あらゆる場面で努力をするしかないということをよく分かっていた。

一方、ハントは生まれながらのチャンピオンで、彼のところには成功が自然にやってくる感じだ。アーティストの中には、努力なくして素晴らしい仕事をする天才肌の人がいる。彼らには感服させられるが、でも僕自身はそういうタイプではなかった。

僕はこれまでの仕事の中で、個々のプロセスを大切にし、観客を大切にしてきた。作品を準備する中で知りえたことと、作品の表現できる可能性の間に橋を掛け、それをさらに観客へ向けて1つ1つ橋を掛けてきた。それはすごく努力がいることなんだ。

大橋希(本誌記者)

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