日本は「貿易立国」を卒業したが、安倍政権はそれを知らない - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月5日 16時22分
要するに、日本経済は円安で貿易赤字が増える構造になり、所得収支の黒字で貿易赤字を埋めているのだ。これは日本が輸出で国内の需要不足を補う貿易立国を卒業し、生産をグローバル化して所得収支で利益を上げる資産大国に変化したことを示しており、それ自体は悪いことではない。
しかし浜田氏や黒田総裁のように円安で景気を回復させようとするのは、いまだに貿易立国にすがる時代錯誤である。極端な金融緩和で円安を進めると、貿易赤字が増えて外需(純輸出)はマイナスになり、成長率は低下する。資産価値を高めるためには、むしろ円の価値を高めることが望ましい。
「デフレ脱却で景気をよくする」というのも幻想である。それは日銀の目標とする消費者物価指数(CPI)でも明らかだ。1月のコアCPI(生鮮食品を除く)は前年比1.3%増だったが、この最大の要因はエネルギー価格や(原発の停止による)電気代の上昇だ。これを除いたコアコアCPI(食料・エネルギーを除く)は0.7%増と横ばいである。
もともと金融政策は、その程度のものだ。物価は経済の体温だから、体が暖まるのはいいが、それで病気を直すことはできない。物価を上げることだけが目的なら、円安で輸入物価は上がるが、それで国民は幸福になるのだろうか。いま必要なのは、貿易立国の幻想を捨て、成熟した国にふさわしい経済構造に改革することである。
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