ウクライナ問題、「苦しいのは実はプーチン」ではないか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月6日 13時54分
さて、アメリカですが、ジョン・ケリー国務長官がキエフに急派されて、デモ隊の犠牲者に対して献花をしています。その一方で、国内では野党共和党のジョン・マケイン上院議員(元大統領候補)などが「オバマ外交は弱腰だ」などと批判を強めています。ヒラリー・クリントンまでが「プーチンの手口はヒトラーと同じ」などと、マケインに同調する始末です。
ですが、私はオバマ=ケリーは、事態の本質をかなり冷静に見極めていると思います。というのは、ケリーがキエフに携えて行ったのは犠牲者への花束に加えて、10億ドル(1000億円)というケチな融資保証だったからです。刻々と迫るウクライナの危機に対しては「スズメの涙」的な金額に過ぎません。
この10億ドルという金額は「アメリカはウクライナがデフォルトになっても困らない」という宣言であり、少なくとも「アメリカが顕著な額の負担はしない」という意思表明、更に「デフォルトで困るのはロシアであると見通している」というメッセージであるという解釈が可能です。
実際にケリー国務長官は「ウクライナ問題の解決にはロシアの関与が不可欠」だとも言っています。これも表面的にはロシアの影響力に屈しているように聞こえますが、要するに「ロシアは応分の負担をせよ」という話です。決して弱腰な姿勢ではないと考えられます。
ここに至って、IMFを中心としてウクライナ救済を行う、そこにEUとロシアが主要な資金提供を行う、アメリカももう少し資金の上乗せをするかもしれないが、同時にロシアは相応の債権放棄を行う、という漠然としたスキームは出来つつあるのではないかと思われます。
現時点では、ロシア軍の展開というのは「救済スキーム」の条件交渉のカードの一つに過ぎなくなっている、そう見るべきだと思います。おそらくはそのスキームにおける「カネ」の分担に関して落とし所はあるでしょう。気になるのはロシア通貨ルーブルの下落と、ロシアの株の下落ですが、3日の週明けに暴落した後は少し戻していますから、スキームが進展すれば何とか危機は回避されるものと思われます。
問題は、ウクライナの改革です。産業だとか雇用だとかを言う前に、過去から引きずってきた官民の腐敗を根絶しなくてはなりません。勿論、そこにはロシア側の腐敗摘発も含まれなくてはなりませんが、現政権が深く関与しているだけに、そして国策エネルギー会社のガスプロムも関わる中、100%の真相解明は難しいと思います。
その辺りで、水面下の条件闘争があり、それが表面的にはウクライナの新政権の体制という形で現れてくることになるのではないかと思われます。そこで、撤兵をするかしないかという軍事カード、いやTV向けの戦車や兵士のパフォーマンスをプーチンは使って来るだろう、そうした観点で「危機の推移」を見ていきたいと思います。
現在のウクライナ情勢は変数の多い多元連立方程式であり、同時に魑魅魍魎の跋扈する妖怪変化の世界でもあります。そんな中、「米欧とは一線を画した独自外交で日本の存在感を」とか、「安倍=プーチンの関係」を前提に上手く立ちまわって「北方領土と樺太の天然ガスが手に入れば」などという声があるようですが、論外だと思います。ここは堅気の出る幕ではありません。
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