ウクライナ危機で問われる安倍の価値観外交
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月18日 13時59分
緊迫するウクライナ情勢に、日本の安倍首相が毅然とした態度を打ち出せないでいる。理由は北方領土問題だ。
欧米諸国がロシアのプーチン政権を厳しく非難しているのに対し、安倍は「全当事者」が自制と責任を持って慎重に行動するように求め、クリミア半島に侵攻したロシアを名指しで批判しなかった。この曖昧な表現は、日本の調整でG7(先進7カ国)の非難声明にも加えられた。
近年続く中国や韓国、北朝鮮との緊張は、日本に対ロ接近を促している。北方領土返還に対する日本の期待感もある。「国後島訪問を強行したメドベージェフ首相と違い、プーチンは『引き分け』という柔道用語を用いながら、領土問題にあたかも前向きかのような姿勢を示している」と、ロシア政治に詳しい新潟県立大学の袴田茂樹教授は指摘する。
安倍のロシア寄りの姿勢は、プーチンの想定どおりらしい。ロシアの国営イタル・タス通信は「日本政府は、最近発展している日ロ関係に及ぼす損失が最小限に収まることを望んでいる」と伝えた。国営放送「ロシアの声」に至っては、中国の膨張に伴って日ロ関係の重要性が増した結果、安倍がロシアと欧米との間で「茫然自失状態」にあるとまで論評した。
「引き分け」の声に呼応するように、日本でも2島返還や領土分割を容認する論調が強まっている。安倍も先月の「北方領土の日」の全国大会では、歴代首相が繰り返してきた「4島」の言葉を避けた。
しかし、そうした幻想にウクライナ問題は水を掛けた。プーチンは隣国の領土的主張について、日本人が思うほど甘くない。プーチン政権はこれまでいくつかの国境問題を解決したものの、日本と同様に第二次大戦で占拠したエストニアとラトビアについてはまったく妥協しないまま、国境線を確定させた。グルジアやモルドバ、カスピ海での領土紛争でも一歩も引いていない。
「ウクライナ同様、不法占拠が続く日本こそ主権の重要性を説くべきだ」と、袴田は言う。「そうした毅然さにロシアは一目置くし、ひいては北方領土問題解決にもプラスになる」
日本政府は自由と民主主義に基づく「価値観外交」を掲げ、東西を結ぶ要衝としてウクライナとの関係を深めてきた。中途半端な態度を取っては安倍外交の価値観そのものが問われる。
[2014.3.18号掲載]
深田政彦(本誌記者)
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