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「お上」に従う電力会社を優先審査する原子力規制委員会の裁量行政 - 池田信夫 エコノMIX異論正論

ニューズウィーク日本版 / 2014年3月19日 15時27分

 このため電力会社は「お上」の意図を忖度し、競争できびしい自主規制基準を決める。基準地震動を引き上げるには配管などの補強工事に多くのコストがかかるが、少しでも早く再稼動すれば、1日あたり数十億円の燃料費が助かるからだ。このような裁量行政が官民癒着の原因である。

 いつも「人権問題」にうるさいメディアも、こういう極端な裁量行政に何もいわない。悪い電力会社がいじめられるのは、庶民が拍手するからだ。しかし電力会社の負担したコストは、総括原価主義のもとでは電気料金に転嫁できるので、最終的には税金と同じようなものだ。昨年のLNG輸入増は3.6兆円。為替の効果などを引いても2兆円と、ほぼ消費税1%分である。

 こういう裁量行政を認めると、政府は何でもできる。田中私案は電力会社の財産権を法的根拠なく侵害するものだが、同じような紙切れで新聞社の反政府的な言論を取り締まることもできる。戦前には、新聞紙条例にもとづいて内務省が裁量的に新聞の発行を禁止したため、新聞社は検閲官に競って賄賂を贈った。

 戦前の失敗を教訓にして、今の憲法では法にもとづかない裁量行政を禁じている。国家権力の濫用から個人や企業を守るのが、法の支配という近代国家の根本原則である。行政手続法では、行政指導の文書化を義務づけるなど、透明化をはかってきたが、今回の安全審査は江戸時代に戻ってしまった。

 メディアは「政府が悪い電力会社はきびしく制裁し、善良な庶民の人権は守る」という「大岡裁き」を求めているのだろうが、そうは行かない。今回のような法の支配の例外を認めると、今度はあなたが被害者になるかも知れない。例外を裁量的に決めるのも、政府だからである。

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